【現代思想とジャーナリスト精神】

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【色平哲郎氏のご紹介】 国民を見捨てた菅首相…「自宅療養」への方針転換で、これから起こる「大変な事態」

2021-08-05 19:04:10 | 転載
【色平哲郎氏のご紹介】
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 戦争文学の傑作、大岡昇平の『野火』の主人公は野戦病院に送られる。血だらけの傷兵が床にごろごろしている前で、彼は軍医に怒鳴りつけられる。肺病なんかで病院に来たことを理由に。それでも何とか入院するものの3日で追い出される
▼隊に戻ると、病人を抱える余裕はないと分隊長から言われる。「病院へ帰れ。入れてくんなかったら、幾日でも坐(すわ)り込むんだよ」。病を得ても入れない野戦病院。そんな場面がいま頭にちらついて仕方ない。政府が打ち出した「入院制限」のためだ
▼感染者が急増する地域では中等症の患者であっても、重症化のリスクが低いと判断されれば自宅での療養を基本とする。そんな方針が唐突に示された。感染の拡大に病院の収容能力が追いつかないからだという
▼東京都の局長が「不安をあおらないで」と発言したのは、つい先週だった。菅首相も重症者の数が抑えられているとして楽観ムードを振りまいていた。先のことを考えようとしない人たちばかりが対策を担っているのか
▼中等症という文字だけを見ると間違えてしまう。呼吸困難や肺炎を伴う場合が多いのだ。病状がさらに悪化したときに、迅速に入院ができるのか。それを差配する保健所は過大な負担に耐えられるのか
▼事態はここまで深刻なのに、政府が1回目の緊急事態宣言よりも緩い対策しか取っていないことも解せない。もはや自分で自分を守るしかないのか。指導層の方針が当てに
ならないのは、戦争のときと同じである。

(朝日新聞2021/8/5天声人語)


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国民を見捨てた菅首相…「自宅療養」への方針転換で、これから起こる「大変な事態」

「神奈川モデル」が示唆すること   山岡 淳一郎 ノンフィクション作家

2021年8月5日 現代ビジネス  https://bit.ly/3Cgf6J8


唐突な方針転換

新型コロナウイルスとたたかう砦=医療提供体制が、第五波の感染爆発で突き崩されようとしている。

8月2日、政府は、急激な感染者増による医療崩壊を懸念し、入院制限を打ち出した。コロナ感染患者への対応を入院主体から自宅療養へシフトする重大な方針転換が、準備らしい準備もないまま唐突に決められたのである。

これまで感染者で38℃以上の発熱や呼吸苦の症状などがある中等症患者はもとより、軽症でも65歳以上の高齢者や、妊娠中の女性、基礎疾患のある人たちの入院は原則的に認められていた。無症状または軽症の人は宿泊(ホテル)療養が可能だった。

ところが、8月2日の関係閣僚会議の後、菅義偉首相は、感染者の急増地域での入院は「重症患者や重症化リスクの特に高い方」に絞り込み、それ以外は「自宅での療養を基本」とする、と表明した。発熱や呼吸苦があろうが、重症化リスクが特に高くないと判断されたら自宅療養となる。宿泊療養も「家庭内感染の恐れなどの事情がある人」に限定された。

田村憲久厚生労働大臣は、同月3日の記者会見で「フェーズが変わり、在宅での対応を考えざるを得ない状況」「中等症以上の症状の人が入院できる病床を常に確保しておくことが重要だ。病床にすぐに入ってもらえる余力を持てるよう対応しないといけない」と述べた。

菅首相に協力を求められた日本医師会の中川俊男会長は「医師が判断して入院が必要だということになれば、もちろん入院でいいと確認しましたので、全国の皆さん、現場でいろいろ心配していると思いますが、大丈夫です」と応じる。


まるで「現状追認」の方便

と、まぁ政府中枢も、医師の代表も呑気なものだ。感染力が非常に高いデルタ株への置き換わりと、人流の抑制不足で感染爆発が起きている渦中で、しかもワクチン接種で病院、診療所が大童(おおわらわ)のときに自宅療養への支援は容易ではない。そもそも重症化リスクの基準は明示されておらず、自治体など現場の裁量に任される。不安と混乱を招きそうだ。

いま、首都圏は感染者の急増で入院調整が追いつかず、連日、大勢の患者が自宅療養を強いられている。政府の方針転換は現状を追認するための方便のようだ。

今年4月、第四波で大阪府が医療崩壊に陥り、自宅療養中の患者が次々と亡くなった。地元の診療所長に「なぜ、往診をしないのか」と聞くとこんな答えが返ってきた。

「一番の不安は、コロナの患者さんを診た経験がないことです。一応、診療のガイドラインはあって、軽症、中等症Ⅰ・Ⅱ、重症の分類基準はあるけど、それは机上論。軽症者が肺炎起こして、あっという間に中等症、重症に変わる。コロナの治療経験がある医師にレクチャーを受けて肌感覚で理解できないと手が出せません。

もしも往診した患者さんが悪化したら、どの病院がバックアップして受け入れてくれますか。診療所で重症患者は診られません。責任とれない。訴訟になったら潰れます。見通しも立たないのに不可能ですよ」

全国各地の医師会で、同じような懸念が浮上しているだろう。

一方で、現実に病床は逼迫し、自宅療養者は増え続けている。8月3日、東京都では入院・療養調整中の患者8417人を含む1万4019人が自宅療養を余儀なくされている。自宅に留め置かれた患者にどう医療を提供するかは重要なテーマだ。


「地域療養」モデルを作った神奈川

神奈川県のやり方

じつは、政府の方針転換を先取りするかのように「地域療養」のモデルを作っている自治体がある。神奈川県だ。自宅療養者のうち悪化リスクがある人、悪化が疑われる人を対象に、地域の訪問看護ステーションの看護師が毎日、電話で健康観察を行い、必要に応じて対面で症状を確認する。

その看護師からの相談を受けた医師は、オンライン診療や検査を行い、患者に入院が必要と判断したら入院調整へと移る。地域療養モデルは、藤沢市で先行実施し、鎌倉、横須賀、平塚、三浦、厚木……と各市へと拡がっている。


図「地域療養の神奈川モデル実施スキーム」

上記の図は神奈川県のサイトより引用


神奈川県では、この地域療養モデルに先立って、昨年12月、全感染者への「入院優先度判断スコア」を導入している。年齢や妊娠の有無、基礎疾患、CTの肺炎像、血中の酸素飽和度などの項目ごとにスコア(点数)をつける。スコア3以上が地域療養モデルの見守り対象となり、5以上が入院と判断される。これらのシステムづくりを主導した藤沢市民病院副院長で神奈川県医療危機対策統括官の阿南英明氏は、判断目安になる入院基準の必要性をこう語る。

「個々の現場に判断を委ねると、大混乱が起きます。普通の病気と違って、コロナでは最初に発熱外来で患者さんを診る医師、入院先で受け入れる医師、それぞれに看護師もいて、その間に保健所の保健師さん、医師資格のある保健所長も絡みます。多くの人が入れば、必ず、意見の相違が生じる。何でも現場判断というのは簡単ですが、一定の基準が必要なのです。同じ物差しで判断できるようにしなくてはいけません」


「責任を押し付けられる」不安

地域の医師が抱く、責任を押し付けられることへの不安、患者が悪化したときのバックアップ体制への懸念などを阿南氏にぶつけると、こう返ってきた。

「私たちが地域療養モデルをつくるときも、地元の医師会の方々とは、その話を集中的に行います。本音で交渉しなくては先がひらけません。開業医の方たちは事業主として診療所を運営しています。自宅療養患者さんの往診・訪問診療に9500円の診療報酬加算がついたところで、責任を押し付けられたくない。

ですから、地域療養モデルは行政の責任でやる。行政の枠組みで設定し、委託事業として医師会にお願いします。これは行政が責任を持ちますから、やってください、とそこまで説得するのです」

神奈川県でも、病床が逼迫している。8月3日現在、自宅療養者は7560人に膨らんでおり、従来の入院スコアに照らせば、間違いなく入院となる患者が病院に入れない。どうやって自宅療養を支えるのか。

「いままでの入院基準の適用が困難になっています、と情報提供をして、ご理解ください、と率直に伝えます。そのうえで、われわれは在宅酸素療法の酸素濃縮装置を数百台、メーカーから提供してもらう契約をいま結ぼうとしています。その酸素濃縮器を自宅療養で使っていただく体制をもうすぐ整える。本当は入院していただきたい。しかし、中等症でも入院できないとなれば、濃縮器で酸素投与をしていただく。実際にそこまで追い込まれたら、やるしかないでしょう」

菅首相はじめ、政権幹部からはワクチンを打った高齢者の重症化率の低さ、死亡者数の少なさが強調される。
だが、感染爆発が続いて入院の制限がされれば、軽症から中等症、重症へとエスカレートする患者は間違いなく増える。死亡者も増加するだろう。しかも、その多くが30~50代の働き盛り。生産年齢世代へのダメージは社会全体の損失となる。コロナとのたたかいは、明らかにフェーズが変わった。自宅療養への対応は急務である。

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