【現代思想とジャーナリスト精神】

価値判断の基軸は自らが判断し思考し実践することの主体であるか否かであると考えております。

【永岡浩一さんからの通信】 2021年08月27日

2021-08-28 19:04:14 | 転載
西谷文和 路上のラジオ(2021/8/27更新) 敗戦76年、不発弾で両手と光を失った藤野高明さんのお話、障害を様々な方の尽力で乗り越えて今に至る戦後史を語る、未来に残すべきものは平和憲法、残してはならないものは原発&西谷さんによるアフガニスタン情勢解説、アメリカの帝国主義+無責任が中東の庶民を大変な目に合わせたことを語る




永岡です、西谷文和路上のラジオ、Radio on the Street第63回、今回は敗戦76年企画、敗戦の翌年の1946年7月、今年83歳の藤野高明さん、元教師はもう空襲におびえることはないと思っていたら不発弾で両手首と視力を失い、必死で障害の中で勉強、差別の中を活きられたお話をされました(https://www.radiostreet.net/radio/899/ )。概略追跡します。

 中東、アフリカなどの紛争地を取材される西谷さんのラジオ発信、スポンサーもなく、何の自粛、忖度もなく放送されるもの、リスナーの声、Daigo氏の差別発言、出したメディアの責任、そしてアベスガの破綻、日本の文化の破綻との声があり、西谷さんのSNS炎上、アフガンの写真をネットから盗んだと誹謗中傷だが、もちろん盗んでいない、西谷さんの通訳のアブドラさんのもので、しかしネットで誹謗中傷するのは団体、ネトウヨの組織動員、木村花さんも自殺、命を軽視するものがインフルエンサー、そして根拠なく誹謗中傷は社会が壊れかけている、しかしリスナーや、ゲストの藤野さんを支える人はそれを何とかしないといけないと思っているもので、西谷さんは市民の力を信じて発信されると説かれました。



 前半は西谷さんによるアフガンのこと、カブール陥落のアフガン、あっという間の陥落、米軍や有識者は一方的に撤退だとタリバンが3カ月で制圧と見て、西谷さんも同様、しかし西谷さんもアブドラさんもビックリ、原因はバイデン大統領の判断ミス、米軍はいずれ撤退すべき、しかしタリバン>アフガン政府軍、オバマ政権の時に完全撤退ではなく、少し残して、アフガン政府軍とタリバンは今まで米軍の協力で互角、しかし米軍の後ろ盾なし、さらに2021年にアフガンのいくつかの都市はタリバンに制圧されて、そしてこの戦争の「正当性」はタリバンにあり、米軍はタリバンか確認せず射殺。上から無人機で撮影して、子供が薪を拾うと爆弾を仕掛けているとして殺すと、その兄弟はタリバンに入り、アフガン政府軍は、ガニ政権は腐敗して給料もちゃんと払われず、アフガンの兵士は危険な任務なのに200ドルしか払われず、それも遅配、政府軍でやっていられず、タリバンになる人もあり、タリバンはアメリカの侵略に抗する大義はあるのに、バイデン氏は撤退。しかし和平合意はあり、タリバンを政党として、民主的な選挙を国連の監視の下でやってから米軍は撤退すべき。

 原因はトランプ氏、アメリカファーストで、トランプ氏はズラトン+バイデン氏がそれを追認、アフガン人を見殺しにしてもズラトン、アフガンを攻撃して20年で無責任。しかし、西谷さんの予想で、今のタリバンは昔より丸くなっているものの、現場はアブドラさんの映像を見たら米軍に協力したものに公開リンチ、報復的なことをして、国際的な記者会見で否定している弾圧をタリバンはして、そして女性の人権は12歳までしか教育なし、女性は男性のものになれ、そしてアフガンのテレビ局の女性キャスターは追放されて、タリバンの幹部はきれいごとを言うが末端はこの始末。

 内戦は終わったが、タリバンも一枚岩ではなく武闘派と穏健派があり、今は武闘派が主導権でも、政治はできず、カルザイ政権と穏健派で何とか連立政権で、イスラム色の薄れる政権ができたらいいが、悪い方向だとアフガンがテロの温床、ISはいて、欧米でテロもあるとまた中東で戦争だが、中村哲さんのやり方でみんな食べられたらタリバンはなくなる+国際社会が忘れない、こんな独裁を許さず、今回は武力の政府でいずれ潰れるが、国際社会の監視は必須だと説かれました。



 そして、藤野さんを通しての戦争の愚かさを考えるもの、敗戦間もない1946年、小学校の際に不発弾の爆発に巻き込まれて、あの夏の朝から75年、7月18日に、朝7時に不発弾暴発で視力と手先を失い、弟は5歳で即死、第2次大戦の翌年、藤野さんも後で5000万人世界でなくなり、その数倍障害を負ったと知り、しかし敗戦でもう空襲はないと思い、食糧難とインフレで人間は大変でも、空襲なし+先生は優しくなり、男女同権、言論の自由、当時深い意味は分からずとも、新しい時代が来たと思った。

 弟さんと川、田んぼで遊んで、川岸に廃棄物が無数あり、小さい電池のようなものを拾い銀色、それを拾い集めて、まさか爆弾とは思わず、父は大工で朝は早く、拾ってきたもので遊ぼうとして、片方に穴、何かあると思い、叩くと砂粒が出てきて、釘でそれを出そうとして爆発、その時何もわからず、担架にのせられて大変、福岡であり、父、母も大変、父は当時34歳、母は31歳、敗戦後、子供を戦火から救い出したもの。

 藤野さん、それで学校に行けず、それも13年、怪我をして、顔、手に包帯、目は見えず、視覚障害者は盲学校もあり、理解はしていたが絶望、しかし手がなくなったのを知ったのはその後、不自由で、食事も一人でできず、そして包帯が取れて、しかし弟の死も後で知り、自分のこと、弟のこと、深刻。いつか目は見えると思っていた、親も励ましてくれたが、15歳から視力回復のため入院、しかし18歳で全盲になり、今の眼科の力ではどうにもならないと言われて落胆。

 いつか目は見えると思い亡くなり、精神も抑圧、ぐれるともできず、不良にもなれず、自暴自棄、母親、看護師に当たり、そんな生活を半年。そして19歳の時に転機、目は見えないと通告されて、看護実習の女性、3歳年上の方熊本さんが看護学生、藤野さんと話をされて、野球は西鉄ライオンズを応援、ラジオにかじりついて、そして自分のことを、看護師さんも高校を出てデパートに入り、その後別の道を、として看護師になり、藤野さんに親身になってくれて、その方と藤野さん穏やかにやれて、その方が命の初夜を読んでくれて、作者はハンセン病、腸結核で亡くなつた方だが、川端康成も認めた作家、それを読んでもらい、藤野さん、深刻なテーマだが、熊本さん読んでくれて、すると患者さんは他の方も聞きたいとなり、ハンセン病の患者さんたちのことを知り、命を削り闘い、社会の差別に押し潰れそうになりながら、必死で闘ったもの、ハンセン病患者は隔離などされて、すると熊本さん、資料を取り寄せてくれて、その際に点字を知り、点字は指で読むが、藤野さんは手がないものの、盲学校の生徒と一緒になり、点字は面白いと教えてくれて、藤野さんそれを覚えて、西谷さんも覚えられる、システマティックにできて、藤野さん覚えて、数時間で覚えられたが、指がないものの、唇で点字を覚える方法もあり、継続は力なり、点字をマスターして、一つ分かると、手掛かりが一つあると、次から次に道は開けて、点字を読めるようになり、唇で点字を読んで、足がかりをつかむと、読むスピードが上がり、盲学校に入学できて卒業。

 そして、教師になりたく、教員採用試験を受けて、盲学校に5年いて先生になりたい、大学に行かないとならないが、当時の60年代の大学は障碍者の入学を想定せず、ごく少数の、同志社、関学は入れていたが、国公立も大半の私立も障害者お断り、通信教育で日本大学に入り、願書に身体の状態を書くところがない、それを書いたら過去は排除されて、日大には障害のことを書く欄はなく、9歳下の妹の協力で入り、しかし単位を取るのは大変、東京の水道橋に行かないとならず、福岡からの通信教育のみでは困難、65年に入学、68年に単位を取り、そして日大に行き、二重の障害で福岡から東京まで40日のスクーリングは大変、お金も要り、母が出してくれて、当時の100万を親は、無駄遣いしないと知っていたから、当時29歳、妹さん、仕事を休み1週間付き添ってくれて、そして日大は応じてくれて、藤野さんが重度の障害でも努力に頭が下がる、しかし4年生大学は大変、それで帰ってくれと、しかし単位はあり、短大の資格はあり、教員免許は高校はダメだが、中学の2級は取れて、藤野さん努力されて、ここまできてあきらめず、頑張って卒業。藤野さん、学友会の方が福岡に帰らなくてもいいと言ってくれて、友人がローテーションで教室の移動を手伝ってくれて、友達もできて、農業青年や自衛隊に行っている青年が助力してくれて、東京の生活を支えてくれて、5年半かけて日大を卒業。

71年に卒業の予定、通常の教員採用試験は前年に受けられるのに、障害者で断られて、点字の試験を作れないというのは嘘、相手は無知をさらけ出して、当時でも点字は把握できるものなのに断られて、そして全国に前例がない、毎度お馴染み役所の始末、しかし誰かが始めないといけない、そして過去にも受けたかった人がいて断った=みんな差別してきたから藤野さんも差別すると恥ずかしげもなく公言。今なら問題になるが、当時はエセ左翼、暴力集団もいたが、藤野さんは平和的に、冷静にやったのに、それで1回目は受験させてもらえず。

 そして、71年に黒田革新府政が大阪に出来て、憲法を生活に生かすものになり、教育委員会は前年と同じでも、しかし知事は憲法を生かすというのを主張したら力になり、障害者差別は許されないとして、何とか折れてくれて、そして藤野さん以外にも受けたい人がいたのに、藤野さんは特例だと教育委員会はしてしまい、他の人はダメ、役人は前例を作りたくない。そして、藤野さん、役所に実績を作るために受験して100人のうち24人合格。

 しかし、教育委員会は空きがないと発令、藤野さんのために設備、人材がいると尻込み、教育委員会は入れないであり、春には入れず、しかし6月になり、採用を求めて、教育委員会は非常勤講師で世界史の授業をできて、給料は16900円の手取り、はっきり覚えていて、母親に3000円送金、しかし母はそれを仏さまに置いていた。

 仲間も、障害者差別を越えるために協力してくれて、そして1年で教員採用試験の効力がなくなり、行政はそのタイムリミットを狙う、黒い雨、福島原発事故も同じ、それでもう一度受けろ、しかし特例で受けさせて、それで期限だと排除はおかしいとして、何とかフルタイムで働いて、涙を呑んでもう一度受けて9月に本採用。

 63歳まで教師をされて、今82歳、最近本を出版、今までに3冊出されて、人と時代のもの、時代は、戦後、平和憲法ができて、しかし戦争だと障害者は非国民、ナチスは障害者を殺害。そんな時代ではなく、親、妹、ボランティアにお世話になり、手助けしてくれる人、同僚、教職員組合にも恵まれて、本を書くのに寄稿を350人に依頼、その一人は西谷さん、今年には出るがコロナではあるが、何とか訴えたい。

 藤野さん、人生は様々なことがあるが、あきらめない、死なない、藤野さんも死にたいと思ったことはあったが、母は死んで花実は咲かないと教えてくれて、そして人間は一人ではなく、自分一人で生きるのではない。藤野さんの思想信条、子供たちに残したいのは平和と人権、今の憲法を守り「残してはいけないのは原発」、大事故を起こして無数の人間を不幸にしてしまう、核廃物を処分できずモンゴルに捨てるなどというさもしいものを残してはならないと締めくくられました、以上、藤野さんのお話でした。



 路上のラジオ、こういう内容はラジオならではです。この番組、企業スポンサーはありません、皆さんの協力をよろしくお願いいたします。障害を越えて活きられた藤野さんのお話、いくらでも拡散してください!




【色平哲郎氏のご紹介】GOOGLE AI による COVID-19 感染予測(日本版) 

2021-08-28 17:12:31 | 転載
どういう価値を優先するか、その根拠はなぜかということを考えるために必要なのが教養です。
それがないと、目的のない能率だけの社会になってしまうでしょう。
『教養の再生のために』加藤周一


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GOOGLE AI による COVID-19 感染予測(日本版) 

Japan COVID-19 Public Forecasts

以下予測データの対象期間: 2021-08-23 から 2021-09-19

対象となる 28 日間に予測される新規の死亡者数と陽性者数の総計
予測される死亡者数 2,175
予測される陽性者数 921,536

本感染予測サービスにおける13府県の陽性者数および死亡者数の予測は以下のとおり。

東京都:陽性者数 17万1962人、死亡者数 55人
千葉県:陽性者数 4万402人、死亡者数 119人
神奈川県:陽性者数 6万2831人、死亡者数 108人
埼玉県:陽性者数 6万4197人、死亡者数 145人
茨城県:陽性者数 7400人、死亡者数 27人
栃木県:陽性者数 3882人、死亡者数 25人
群馬県:陽性者数 5021人、死亡者数 27人
静岡県:陽性者数 2万640人、死亡者数 63人
大阪府:陽性者数 6万5416人、死亡者数 107人
京都府:陽性者数 2万5394人、死亡者数 58人
兵庫県:陽性者数 2万6901人、死亡者数 147人
福岡県:陽性者数 4万302人、死亡者数 68人
沖縄県:陽性者数 1万8252人、死亡者数 34人

https://bit.ly/3mBkZLm


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私が引っかかっているのは、、、集積された「情報」が「知」であると考えられている点である。私は才能にあふれる、彼らインターネット世代の揚げ足を取りたくて、些細なレトリックにこだわりたいのではない。「情報」を「知」と読み替えることこそ、市場化された「現在」を特徴づけている本質なのではないかと思っているのである、、、
インターネットの出現とそれに続く情報の氾濫によって、確実に人間は知性的であることの意味と知に対するマナーを見失うことになるだろう、、、
情報をいくら集積しても、それは量の増大に過ぎない。それを「知の集積」と呼んでしまうところに、テクノロジー信仰の根本的なあやうさがある、、、
「知性的であることの意味とマナー」と書いた。噛み砕いて言えばそれは次のようなことである。
知識は積み木のように積み上げてゆくことができるが、知性とはそのようなものではない。
むしろ、積み上げてきた思考のプロセスを、積み木崩しのように、崩すところからしか、新しい知性というものは生まれてはこない。
私(たち)が、何度も繰り返してきたように、知性とは自分が何を知っているかではなく、自分が「何を知らないか知っている」というところにその本質を持っているからである。
これもまた、メタ「知」である。
しかし、それは「知」に対する「知」ではなく、「不知」に対する「知」である。
それはまた、自分がすでに知っていると思うことをもう一度相対化してみることでもある、、、
ソクラテス、デカルトの昔から、ニーチェ、マルクス、フロイト、あるいは孔子、孟子から空海、一遍、親鸞にいたるまで、先賢の「知」の初源には、自分が何であるのかよくわからないという疑問が横たわっていたと言えよう。
自分が何であるかよくわからないということは、すなわち、自分の知もまたよくわからないものの活動であるということである。
知はどこまで行っても、このよくわからないものに触れることはできないが、よくわからないということを深く実感することだけはできる。
ネットの向こう側に知があり、ネットで繋がった人の輪があると考えるのは自由だが、知も、人もどこか影の薄い情報に過ぎないと疑ってみる必要はあるのではないだろうか。

平川克美「株式会社の世界史」292p


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「エラーカタストロフの限界」を超えるコロナウィルス変異への対応

東京大学先端科学技術研究センター がん・代謝プロジェクトリーダー 児玉龍彦

1) 当初は変異が少ないと考えられ、ワクチン、抗体医薬が期待された

2) 速やかに置き換わり始めた新型コロナウィルス

3) 一人の人体内で急速に変異する

4) デルタ株は複数ありワクチンを突破する

5) RNAワクチンは細胞性免疫を誘導し変異に強い

6) 複数の抗体のカクテルは変異ウィルスに強い

(終わりに) 科学に基づく政策決定ができるようにすることが重要である。


要約

進化生物学では過剰な変異はゲノムの安定性を自壊させ、Eigenの提唱した「エラーカタストロ フ」の限界があることが理論化されている。これまでの一本鎖RNAの3倍の大きさを持つコロナウィルスには校正機能があり、変異は一定数以下と推定され、新型コロナウィルスの制圧にワクチ ンによる集団免疫が期待されてきた。だが免疫不全の感染者では、複数の変異と変異前のウィル スが共存する形で、一人の中で変異が多数蓄積される。その結果、ワクチンや治療薬に抵抗性の 増したウィルスが変異の波を生み出している。変異で生み出されるタンパク質の3次元構造には 限界があるが、まだより強力な変異株の生まれる可能性もある。日本の政策を最新の科学に基づ く診断、治療、予防に急速に切り替えていくことが求められる。


1) 当初は変異が少ないと考えられ、ワクチン、抗体医薬が期待された

新型コロナウィルスは当初、一本鎖のRNAウィルスとしては遺伝子の変異のスピードが遅く、こ れまで知られるインフルエンザやAIDSの原因となるHIVよりも少ない、毎月2-3カ所くらい、1年 で20カ所をやや上まわると考えられた。そのため、ワクチンや抗体医薬品の効果が期待された。

一本鎖のRNAウィルスは複製してコピーを作るときにエラーが多いが、コロナウィルスは、 nsp14というタンパク質があり、これが複製のチェックをするエキソヌクレアーゼ活性を持つ。そ のため複製ミスはチェックされ変異は少なくなる。コロナウィルスは遺伝子のサイズが約3万塩基 とインフルエンザやHIVより3倍大きいので、nsp14が欠損すると変異率は15倍に上がり、その ウィルスは増殖が困難になり自壊する考えられてきた。ノーベル賞受賞者のEigenが1971年に予言 した進化生物学の基本の「エラー・カタストロフ(ミスによる破局)」の限界として知られる。

さらに、校正機能を持つコロナウィルスは、インフルエンザなどに効くポリメレースを阻害する核 酸アナログの複製阻害薬が効きにくいことが知られている。2020年の感染拡大の当初は、変異に よる感染性の増大はあまり心配ないのではという議論が、ロンドン大学の学者などから出され た。これが「集団免疫論」の根拠ともされた。

文献1 Robson F., Khan K.S., Le T.K., Paris C., Demirbag S., Barfuss P., Rocchi P., Ng W.L. Coronavi
rus RNA Proofreading: Molecular Basis and Therapeutic Targeting. Mol.
Cell. 2020;80:1136?1138.

文献2 Eigen M. Selforganization of matter and the evolution of biological macromolecules. Naturwiss
enschaften. 1971;58:465?523.

文献3 van Dorp L., Richard D., Tan C.C.S., Shaw L.P., Acman M., Balloux F. No evidence for increas
ed transmissibility from recurrent mutations in SARS-CoV-2. Nat. Commun. 2020;11:5986.


2) 速やかに置き換わり始めた新型コロナウィルス

ところが、中国から中東を経てヨーロッパに広がった新型コロナウィルスで、スパイクタンパク 質の614番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)からグリシン(G)に変化するG614D変異株 は、感染し増殖するスピードが早く、PCR検査でも鼻咽頭のウィルス量がより多い。20年4月にア メリカの西海岸から東海岸にあっという間に広がり、日本にも2020年の5月には最初の感染の波を もたらした。このウィルスは、スパイクタンパク質の変異とともに、ポリメレースの変異(ポリメ レースの323番目のプロリンがロイシンになる:スパイクタンパク質ではないことに注意)も伴 う。残念ながら、なぜ増殖のスピードが早いか分子機構は正確には分かっていない。このウィルス がその後の変異株の「幹ウィルス」ともいうべき多くの変異の根源となっている場合が多い。

文献4 Korber B., et al. Tracking Changes in SARS-CoV-2 Spike: Evidence that D614G Increases Infecti
vity of the COVID-19 Virus. Cell. 2020;182:812?827

単純に多くの人々の間で感染が広がって変異が起こっただけでなく、アルファ株と呼ばれる変 異は英国のケントで発見され、2020年12月から6週間で英国において最も広がった株になった。 アルファ株の遺伝子の変異は、ユニークなアミノ酸変異が17カ所、アミノ酸は同じだが核酸の配 列の違いは23カ所もあり、変異の数が明らかに多い。今のところ次世代シークエンサーでゲノム 配列は簡単に読めるが、それが感染性や増殖率にどう響くか予測することは難しい。

そこで簡略化のために、代表的な変異である501番目のアスパラギンがタイロシンに変わっ てヒトの細胞のACE2受容体にくっつきやすいN501変異を持つウィルスを「アルファ株」と総称す ることもある。だが、実際には当初の英国型では、スパイクタンパク質だけでも6カ所のアミノ酸 変異があり、後に述べるように、デルタ株とされるL452R変異を持つものも多い。

文献5 Kai Kupferschmidt Fast-spreading U.K. virus variant raises alarms Science. 2021 Jan 1;371(65
24):9-10.


3) 一人の人体内で急速に変異する

多くの人が感染した中でこのように多くの変異が急速に固定化されて広がったことは考えにく い。そこに一人の免疫不全の人の中で急速に変異が起こること、特に治療薬に抵抗性の変異が起 こることがCell誌にアメリカのNIHから報告された。

この論文では、慢性骨髄性白血病で制がん剤を投与中の患者さんで起こった変異の集積を報告 している。この患者さんではコロナウィルスは症状なく増殖し続け、ポリメレース阻害剤のレムデ シビルも効果なかった。それに対して回復期患者血漿が投与され、2回目の投与で肺などのウィ ルス量は減少した。だが、鼻咽頭の粘膜には治療をエスケープする欠失変異を持つウィルスが残っ ていた。この論文の著者らは、変異の加速化よりはむしろ、免疫不全でコロナの症状がないた め、気づかれないウィルス増殖への警戒を呼びかけている。

図1 免疫不全患者では治療中の変異の増加が顕著である

New England Journal of Medicineには、自己免疫疾患の患者についてボストンのブリガム病院 からの同様の報告が出ている(上の図を参照)。新型コロナウイルスに感染後、コロナの症状は ないがもともとの自己免疫疾患の症状が続き、そのための免疫抑制剤の治療は増量されている。 レムデシビルなどでも再燃は防げず、抗体医薬品が投与されたが、原病のため153日目に死亡され ている。この患者さんではゲノム全体に変異の蓄積がどんどんみられ、特にスパイクタンパク質に たくさんの変異が生まれている。

さらにAIDS患者の多い、南アフリカでもワクチン抵抗性のスパイクタンパク質の484番目の グルタミン酸がリジンに変化するE484K変異が発見されている。同じくAIDS患者の多いアンゴラ でも新たな変異が懸念されている。

文献6 Avanzato V.A., et al. Case Study: Prolonged Infectious SARS-CoV-2 Shedding from an Asymptomat
ic Immunocompromised Individual with Cancer. Cell. 2020;183:1901?1912.e9.

文献7 Choi B., Choudhary M.C., Regan J., Sparks J.A., Padera R.F., Qiu X., Solomon I.H., Kuo H.H.,
Boucau J., Bowman K., et al. Persistence and Evolution of SARS-CoV-2 in an
immunocompromised host. N. Engl. J. Med. 2020;383:2291?2293.


4) デルタ株は複数ありワクチンを突破する

現在、最も深刻な広がりを見せているのは、インドで発見されたデルタ株である。ワクチンを ブレークスルーする率も高く、感染の広がりも早く広範であり、非常に懸念されている。デルタ 株は、スパイクタンパク質の452番目のロイシンがアルギニンに変異するL452Rが特徴とされ る。しかし、L452R変異は、カリフォルニアの変異株でも、南アフリカの株でも、ブラジルのガ ンマ株でも見つかっている。ヒト培養細胞で見ると、ワクチンを打っても感染する率は、L452R を持っている株の中で、アルファ株では4倍、ガンマ株では2倍なのに対し、デルタ株6.7倍と高 い。ゲノム解析ができない場合は、一般的にはPCR検査で、スパイクタンパク質の部分配列をみ て、N501Y変異をアルファ型、L452変異をデルタ型としているが、一つの変異だけではなく、変 異が組み合わさって増殖のスピードが決まる。注意しなくてはいけないのは、L452R変異を持っ ていて、デルタ株
とされる中に、さまざまな亜株があることである。

イギリスやアメリカなどワクチン接種率が5割を超えて、一時は、感染者や死亡者が急に減少し た国で、デルタ株が広がると感染者が急増し、重症者、死亡者も再び増加している。特にワクチン 接種で先行したイスラエルでは、ワクチン接種から半年経つと、急速に防御できなくなり、ブ レークスルー感染が増えている。そこで、がん患者などで3回目のワクチン接種が開始されてい る。

その場合に、RNAワクチンに使うスパイクタンパク質の配列は最初の武漢で解読された配列で なく、今のデルタ株の配列をベースにしたワクチンが求められるかもしれない。

文献8 Transmission, infectivity, and neutralization of a spike L452R SARS-CoV-2 variant. Deng X, et
al.
Cell. 2021 Jun 24;184(13):3426-3437.e8.


5) RNAワクチンは細胞性免疫を誘導し変異に強い

新型コロナウィルスが変異を想定以上のスピードで起こすため、当初の楽観論は消えた。ワクチ ンは変異したウィルスの感染を防ぐことが求められるようになる。

ワクチンは4種類のものがあった。従来からある2種類のタイプでは、ウィルスを増やして不活 化したもの、または、遺伝子工学で作られた組み替えタンパク質を注射して液性免疫を誘導する タイプである。しかし、これら従来型は、新型コロナウィルスが変異すると予防効果が少なくな る。

そして、今回新たに試みられたのは、核酸を投与して筋肉の細胞にタンパク質を発現させ、液 性免疫に加えて細胞性免疫を誘導するワクチンである。この新たなワクチンにも2種類あり、オッ クスフォード大学や、ロシアの研究所で開発されたアデノウィルスを使うベクターワクチンと、ビ オンテックやモデルナで開発されたRNA ワクチンである。

それではワクチンで誘導される液性免疫と細胞性免疫はどう違うのであろうか?

スパイクタンパク質を中和する抗体を作る液性免疫を誘導する場合は、抗体が細胞の受容体であるACE2タンパク質より強い親和性を持つことが重要になる。タンパク質の構造は、1個のアミ ノ酸が変わるだけでも全体が大きく変化する。ウィルスに多数の変異が起これば、ACE2につきな がら、抗体がつきにくい変異を選んでいくことができるのだ。

一方、核酸を注射するワクチンでは、まず筋肉の細胞にスパイクタンパク質を発現させ、分解さ せる。小さな分解されたペプチドが表面に出てくる細胞を、感染した細胞と間違えてリンパ球が攻 撃する。1,300アミノ酸のスパイクタンパク質を10数アミノ酸のペプチドまで分解して細胞表面に 出てくる。変異していないペプチドの方が圧倒的に多いので、細胞性免疫の記憶は変異したウィル スにも防御的に働く。

特に、RNAワクチンは、筋肉の細胞に大量のスパイクタンパク質を発現できる。そのため、細胞性免疫を速やかに、強力に誘導することが証明された。そこで液性免疫による防御を回避でき る変異ウィルスに対して、鼻咽頭で感染が起こることは防御できなくても、肺のたくさんの細胞 に多量のウィルスが感染して呼吸不全になることは防げるようになる。重症化を抑える効果が強 く、死亡率を下げる効果が大きい。

文献9 Rapid and stable mobilization of CD8+ T cells by SARS-CoV-2 mRNA vaccine.
Oberhardt V, et al.
Nature. 2021 Jul 28. doi: 10.1038/s41586-021-03841-4. Online ahead of print.


6) 複数の抗体のカクテルは変異ウィルスに強い

変異していくウィルスに当初は中和抗体を持つと推定される回復期血清で、強い治療効果が期 待された。だが、変異が進んでくるとすでに述べたように、中途半端な治療では治療抵抗性の ウィルスを育てるだけになる。しかし、ウィルスが変異するとしても一度に2つの変異が起こるこ とは確率的に少ない。そこで2種類のことなる部分を認識する抗体を組み合わせれば、大半の変異 ウィルスは中和して除去することができる。抗体カクテル医薬品はこうした目的で開発された。

新型コロナウィルスでは、発症した後7日から14日目で、ウィルスが消失し始め、抗体が血液中 に出てくるようになって急激に重症化する感染者が多い。ウィルス自体が増えて
呼吸不全が起こる というよりもサイトカインストームと呼ばれる免疫暴走が深く関わっていると考えられている。そ こで重症化を防ぐには、ステロイドなどの免疫抑制剤が有効である。

不思議なことに、高齢者や、基礎疾患があって免疫力が弱い人ではウィルスが体内で増え、そ の後で抗体が出てきて、免疫暴走が起こると、重症化しやすい。ウィルスに多くの細胞が感染し て、それから細胞性免疫が働くと、肺炎や呼吸不全はひどいことになる。

RNAワクチンの接種後の副反応でも、高齢者やがんの患者さんでは副反応が弱い。特に2回目の 副反応は、若い免疫力の活発な人では1回目より強く出るが、高齢者などは2回目の方が副反応が 弱い。

つまりこのウィルスでは、免疫力が弱いとウィルスが増えて多くの細胞が感染してしまう。一 方、免疫が働き出すと、感染している細胞が多い人が重症化することになる。そのことは若い医 療従事者などでも多量のウィルスに暴露されると重症化する人がいることでわかる。

New England Journal of Medicineではカクテル抗体療法の作用はウィルス量の多い人には有効だ が、少ない人には、効果がないことが報告されている。抗体カクテルでの投与基準について症状 や、発症してからの日数が指摘されるが本質的には組織中に感染細胞が多い人に有効であるのが 特徴である。特に制がん剤や、免疫抑制剤を使用中の人が感染した場合には、免疫抑制剤は使用 し続けながら抗体カクテル薬でウィルスを退治することは重症化を防ぐのに非常に有効である。

我々は全国の7つの大学などの参加で現在、血液中の抗原であるヌクレオキャプシド(N)タン パク質レベルと、スパイクタンパク質への(S)抗体レベルを化学発光法で定量的に
見る検討を進 めている。

無症状の感染者では抗原量が一般に少ないのが特徴である。一方、無症状の人には、抗体量は 低い人から高い人までいる。

軽い症状が現れ出す時期には抗原量が増えている。

重症化すると、抗原が多く抗体が少ない人と、抗原が少なく抗体が多い免疫暴走のパターンの 感染者が混ざっている。

Nタンパク質はウィルスの内部にありウィルスが崩壊しないと測定できない。感染して壊れた細 胞から出ていると思われ、組織障害の程度を予測するのにN抗原の量を測るのが重要である。

重症化を防ぐ2つの治療薬の、免疫抑制剤と抗体カクテル薬をどう使うか、今、大事になって いる。免疫不全の人では両方を使うことが重要であり、判断に基礎として血液中の抗原と抗体の 定量測定が有効である。

文献10 REGN-COV2, a Neutralizing Antibody Cocktail, in Outpatients with Covid-19.
Weinreich DM, et al.
N Engl J Med. 2021 Jan 21;384(3):238-251.


(終わりに) 科学に基づく政策決定ができるようにすることが重要である。

新型コロナウィルスは、史上初めて、遺伝子解析とPCR診断の進歩によって、次々と新しい変 異ウィルスが出ている様子を観察することが可能になった。そこではこれまでのEigenの「エラーカタストロフの限界」を超えて変異した株が次々と新しい感染症の特徴を持って生まれている。 変異したタンパク質の取りうる3次元構造にも限界がありEigen限界を超えた変異であるとして も新しい変異がとりうる範囲には限界がある。

現在、ワクチンをブレークスルーし、デルタ株が蔓延している。そうした中では、日本におけ る感染の状況をPCR検査や、抗原・抗体検査を徹底的に行い、陽性者についてシークエンスされ たゲノム変異を正確に把握した上での対応が求められる。

100年前のスペイン風邪の頃と同じマスクや密を避ける人流抑制といった対応だけが唱えられ、一 方では、昨年11月の五輪のための入国検疫緩和から変異株を次々流入させている。Go To!トラベルやGo Toイートのようなマダラ状の地域の感染を全国に広げる政策が同じウィルスを2回繰り返 し増大させている。五輪開催で変異ウィルスが一気に全国化している。

まず現在のデルタ株の拡大への検査と、全ての感染者に、正確な診断に基づく免疫抑制剤と抗 体カクテル薬での重症化を可能な限り抑える緊急対策がいる。 国民皆保険をしっかり守りワクチンの普及を急ぎ、変異したウィルスへのワクチンの開発を進 め、治療薬の開発を最新に遺伝子工学と免疫学を基礎に急ぎ、最悪の変異への備えを進める必要 がある。

https://www.ric.u-tokyo.ac.jp/topics/2020/ig-20210824.pdf


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