著者は英国で暮らし、アイルランド系の夫との間に生まれた子どもが中学生活を元底辺校で過ごすエピソードを紹介した作品です。英国の事情ならびに多様性とはどういうことかを知る多くのヒントを与えてくれました。
・「老人はすべてを信じる。中年はすべてを疑う。若者はすべてを知っている」と言ったのはオスカー・ワイルドだが、これに付け加えるなら、「子どもはすべてにぶち当たる」になるだろうか。
・配偶者は(元底辺中学校について)言う。
「音楽とかダンスとか、子どもたちがしたがることができる環境を整えて、思い切りさせる方針に切り替えたら、なぜか学業の成績まで上がってきたんだって」
・昨今の英国の田舎の町には「多様性格差」と呼ぶしかないような状況が生まれている。人種の多様性があるのは優秀でリッチな学校、という奇妙な構図ができあがってしまっていて、元底辺中学校のようなところは見渡す限り白人英国人だらけだ。
・「お前が行きたいなら行けばいいと思うが、俺は反対だ」
配偶者は息子にそう言った。(小学生の時はカトリック小学校に通っていた)
「どうして?」と訊く息子に彼は言った。
「まず第一に、あの学校は白人だらけだからだ。お前はそうじゃない。ひょっとするとお前の頭の中ではお前は白人かもしれないが、見た目は違う。第二に、カトリック校はふつうの学校より成績がいいから、わざわざ家族で改宗して子どもを入学させる人たちもいるほどだ。うちはたまたまカトリックで、ラッキーだったんだ。それなのに、その俺らのような労働者階級では滅多にお目にかかれない特権をそんなに簡単に捨てるなんて、階級を上昇しようとするんじゃなくて、わざわざ自分から下がっているようで俺は嫌だ」
息子はしばらく考え込んだものの、決意は変わらなかった。うちは母親のわたしが車を運転しないので、カトリック校に通うとなると、バスを乗り継ぎ、さらにバス停から学校まで歩かねばならず、雨の日も寒い冬もそれをやるより、近くに学校がいいよね、という実務的判断もあったようだ。
・ノートの端に小さく体をすぼめて息を潜めているような筆跡だった。
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
・わたしは保育士として働いていた人間だが、この英国教育における演劇重視のスタンスは、保育施設における幼児教育にも反映されていた。英国政府が定めた幼児教育カリキュラムEYFSも、「コミュニケーション&ランゲージ」という指導要領項目の中で、4歳の就学時までに到達すべき発育目標の一つに「言葉を使って役柄や経験を再現できるようになる」というゴールを揚げていた。
・「多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだ」と母ちゃんは思う
・ケンブリッジ英英辞典のサイトに行くと、エンパシーの意味は「自分がその人の立場だったらどうだおうと想像することによって誰かの感情や経験を分かち合う能力」と書かれている。
・シンパシーは感情的状態、エンパシーは知的作業とも言えるかもしれない。
・英国の場合はプールのない公立校もけっこうあるので、学校では水泳はサ割程度しか教えておらず、どのくらい泳げるかは学校の外での訓練にかかっている。
いまや親に資本がなければ、子どもが何かに秀でることは難しい。
・ユニフォーム・ブギ
制服のリサイクルを行っている女性教員と保護者たちのグループを手伝うことになった。このリサイクル隊は、中古の制服を保護者たちから募り、日本円で言えば50円とか100円とかで販売していて、寄付された制服がほつてれていたり、破れていたりすることがあるので、それを繕う人を募集していたのだ。
「制服を買えない生徒たちが大勢いるのよ。このリサイクル・グループを始めたのは、つんつるてんの制服を着てる子、びしょびしょの制服を着てくる子が目立つようになった頃」
・バス代がなくて学校に来られなくなった遠方の子のために定期代を払った教員の話、素行不良の生徒を家庭訪問した教員がその家に全く食べ物がなかったことに気づいてスーパーで家族全員のための食材を買った話、ソファで寝ている生徒ののために教員たちがカンパし合ってマットレスを買った話。仕事を探している移民の母親のために履歴書の書き方講座を開いた教員や、移民局との間に立って移民の家族の代わりに手紙を書いたり、電話で抗議したりしている教員もいるという。
貧困地域にある中学校の教員は、いまやこんな仕事までしているのだ。
この国の緊縮財政は教育者をソーシャルワーカーにしてしまった。
・この時期に女性器について教えたのは、FGMに関する授業への伏線だったのかもしれない。
FGMはアフリカや中東、アジアの一部の国で行われている慣習であり、女性器の一部を切除、または切開する行為で、「女性割礼」とも呼ばれている。
こうやって波風が立ってしまった日常を体験することも、様々な文化や慣習を持つ人々が存在する国で生きていくための訓練の一つなのだるか。
・ストリード・チルドレン保護支援団体のレイルウェイ・チルドレンによれば、英国では一年間で10万人の以上の16歳以下の子どもたちが行方不明になっており、5分間にひとりの子どもが自宅からいなくなっている計算になるという。
そのため、英国の教育水準局は、行方不明児童を出さないための厳しいガイドラインを設けて各学校に通達し、予防策を講じるように呼びかけている。
罰金の理由-以下のような理由で子どもが学校を休むと罰金が科されます。
・学期中に子どもを休暇旅行に連れて行く。
・子どもの意志で学校に行かない。これは「ずる休み」と呼ばれます。
・6週間のうちに6回(午前のセッション、および午後のセッションで合わせて6回)以上、出欠を取った後で子どもが学校に来る。
・あなたの子どもが1学期に3日以上欠席する(午前のセッション、および午後のセッションで合わせて6回欠席する)
感想;
多様性とは子どもや親にとってどういうことかを垣間見るようでした。
子どもが友だちや学校で経験する出来事を通して英国の教育の状況や差別について知る機会にもなりました。
子どもがやりたいことをすることが子どもの意欲を高めるようです。
お薦めの本です。