漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0468

2021-02-09 19:40:33 | 古今和歌集

はなのなか めにあくやとて わけゆけば こころぞともに ちりぬべらなる

花の中 目にあくやとて 分けゆけば 心ぞともに 散りぬべらなる

 

僧正聖宝

 

 満足するまで見られるかと思って花の中を分け入って行ったが、満足するどころか、散って行く花を惜しむ気持ちで、心まで散り乱れてしまったよ。

 詞書には「はをはじめ、るをはてにて、ながめをかけて、時の歌よめ、と人のいひければよみける」とあります。「は」で始まって「る」で終わり、「ながめ」を詠み込んで時節に合う歌を詠めと人が言ったので詠んだ、というわけですね。なんとも多くの条件を付けられたものですが、それを見事に満たした上で、情緒溢れる歌に詠みあげていますね。指定された隠し題「ながめ」は「はなのなか めにあくやとて」に詠み込まれています。「長雨」「眺め」両方考えられますが、始めと終わりに「は」「る」を詠み込めという指定からすれば「長雨」の方でしょう。
 作者の僧正聖宝(しょうほう/しょうぼう)は平安時代前期の僧で醍醐寺の開祖。空海の実弟真雅の弟子で、「聖徳太子の生まれ変わり」など数々の伝説を纏った高僧。勅撰集への入集は古今集のこの一首のみです。
 0422 から始まった巻第十「物名歌」はこの歌で掉尾。明日からは巻第十一「恋歌一」が始まります。