しらなみの あとなきかたに ゆくふねも かぜのたよりの しるべなりける
白波の あとなき方に 行く舟も 風のたよりの しるべなりける
藤原勝臣
先行く舟の通った跡の白波もない方向へ進んで行く舟には、風だけが行く末の道標なのだ。
予備知識なしにさらっと読むと「これのどこが恋の歌なの??」という感じですが、「舟」は恋する自分で、行き先のわからない恋を先導するのは「風」ばかりというのは、和歌の世界ではよくある暗喩のようです。一例ですが、この歌を本歌取りした次のような歌があります。繰り返し読んでみると、恋の渦中にあって、浮き立ちながらも不安にかられ、そよいでくる風だけが心の頼りという切ない思いが良く伝わって来る気がしますね。
しるべせよ あとなきなみに こぐふねの ゆくへもしらぬ やへのしほかぜ
しるべせよ 跡なき浪に こぐ舟の ゆくへもしらぬ 八重の潮風
式子内親王
(新古今和歌集 巻第十一「恋歌一」 1074番)