はつかりの はつかにこゑを ききしより なかそらにのみ ものをおもふかな
初雁の はつかに声を 聞きしより 中空にのみ ものを思ふかな
凡河内躬恒
初雁の声のようにわずかに声を聞いてからというもの、うわの空であの人のことを思う気持ちでいることよ。
秋になると聞こえてくる初雁の鳴き声に準えて、声は聞いたけれどまだ姿を見ぬ人への恋心を詠んでいますね。声だけを聞いたり姿をかすかに見たりといった、まだ相手と直に会って話したりしていない段階で抱いた恋心の歌が続いています。「春歌」など季節の歌では、その季節の始まりから時のうつろいに沿って歌が配列されていましたが、それと同じく、「恋歌」も恋の始まりから順に歌が並べられているのですね。