漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0480

2021-02-21 19:48:36 | 古今和歌集

たよりにも あらぬおもひの あやしきは こころをひとに つくるなりけり

たよりにも あらぬ思ひの あやしきは 心を人に つくるなりけり 


在原元方

 

 「思い」というものの不思議なところは、手紙を届ける使者でもないのに、恋心を相手に届けることなのだなあ。

 相手に対する自分の「思い」自身がまるで手紙を届ける使者であるかのように、自分の恋心が相手に届く、という訳ですが、「相手に届く」は文字通り(と言うか現代の感覚と同じく)思いが相手に伝わるということなのか、あるいは自分の気持ちが相手に引き寄せられることを比喩的に表現しているのか、どちらとも取れるように思います。
 この歌には特異なエピソード(?)があり、まったく同じ歌が「後撰和歌集」では貫之作として採録されています(巻第十 687番)。実際は貫之作で、古今和歌集編纂時に生じた誤りを息子の時文が撰者となっている後撰和歌集で修正・再収録したとも考えられますが、一方で古今集の撰者である貫之が自作の歌を元方の歌として誤って収録するというのは考えにくい気もしますね。事の真相は分かっていないようです。