ながれいづる かただにみえぬ なみだがは おきひむときや そこはしられむ
流れ出づる 方だに見えぬ 涙川 沖ひむ時や そこは知られむ
都良香
流れ出る方向さえも見えない涙の川。流れゆく先の海の沖が干上がることがあったら、その時は涙の川の底も流れ出る場所もわかるだろうか。
歌意が取りづらいので、かなり言葉を足した解釈にしてみました。「涙川」は、次から次へとあふれ出る涙を川に喩えたもので、このあと 0511、0617、0618 でも出てきます。「ひむ」は「干む」で干上がる意、「そこ」は「底」と「其処」の掛詞になっています。隠し題は「おきひむときや」に詠み込まれた「おきび(熾火)」で、赤く熾った炭火のことですね。一見、隠し題と歌意に関連はなさそうですが、あるいはあふれ出る涙の理由は赤い炭火のごとく内面で燃え盛る恋であるのかもしれません。
作者の都良香(みやこ の よしか)は平安時代前期の貴族で、文章博士にも任ぜられた文人。勅撰集への入集は古今集のこの一首のみですが、漢詩が「和漢朗詠集」や「新撰朗詠集」などに採録されており、「都氏文集(としぶんしゅう)」という家集も現在に伝わっています。