わびしらに ましらななきそ あしひきの やまのかひある けふにやはあらぬ
わびしらに ましらな鳴きそ あしひきの 山のかひある 今日にやはあらぬ
凡河内躬恒
猿よ、そんなに悲しそうに鳴かないでくれ。山に峡があるように、甲斐がある今日ではないか。
詞書には「法皇、西川におはしましたりける日、『猿、山の峡に叫ぶ』ということを題にて、よませたまうける」とあります。「法皇」は第59代天皇であった宇多法皇のこと。
「わびしら」の「ら」、「ましら」の「ら」はいずれも接尾語で、「ら」の反復で歌にリズムを添えています。「まし」は「猿」の意の歌語ですね。第四句の「かひ」は「峡」と「甲斐(効)」の掛詞。「甲斐」はここでは、法皇の行幸を迎えることができたことを指しています。
今日から10月。ご紹介してきた巻第十九「雑躰」の歌も明日でおしまいです。墨滅歌まで含めて1,111首ある古今和歌集歌のご紹介もあと44首。読み切りの日が近づいてきて、なんだか少し寂しくなってきました。^^;;;