あしたづの たてるかはべを ふくかぜに よせてかへらぬ なみかとぞみる
あしだづの たてる川辺を 吹く風に 寄せてかへらぬ 波かとぞ見る
紀貫之
鶴が立っている川辺は、吹く風によって寄せて来たまま返らない波かと見える。
詞書には「法皇西河におはしましたりける日、『鶴、洲に立てり』といふことを題にて、よませたまひける」とあります。「法皇」は第59代天皇であった宇多法皇のこと。与えられた題による題詠ですので、実景ではなく想像の歌ということですね。波は寄せては返すものですが、舞い降りてそこにたたずむ鶴の白い羽根が寄せて来たまま返らない波のように見えた、という詠歌です。