つれづれの ながめにまさる なみだがは そでのみぬれて あふよしもなし
つれづれの ながめにまさる 涙川 袖のみ濡れて あふよしもなし
藤原敏行
続く長雨を見ながらあなたを想って物思いにふけっていると、流れる涙が長雨で増水した川のようになってしまった。その涙の川に袖が濡れるばかりで、愛しいあなたに逢う手立てもないのです。
詞書には「業平朝臣の家にはべりける女のもとに、よみてつかはしける」とあります。業平とこの女性との関係は良くわかっていませんが、現代風に言えば「お手伝いさん」というところでしょうか。その女性に恋してしまった敏行がラブレターを送った、ということですね。「つれづれ」は徒然草から、所在ない、退屈だという意味が良く知られていますが、ここではしんみりと物思いにふける意です。「ながめ」は例によって「長雨」と「眺め」の掛詞ですね。このラブレターへの返信が次に出てきます。