漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 154

2023-09-17 05:38:50 | 貫之集

八月、人々あまた、人の家の花を折る、掘り植うるところ

みるひとも なきやどなれば いろごとに ほかへうつろふ はなにしかなく

見る人も なき宿なれば 色ごとに ほかへうつろふ 花にしかなく

 

八月、多くの人々が、人の家の花を折って、他の場所へ掘り植えるところ

鑑賞する人もいない家の花なので、色ごとに分けて他の場所に植え替えられていくのは、花にとってなによりのことであるよ。

 

 最後の「しかなく」は「如かなく(「如く」+打消しの「ず」)」で、「如く」は匹敵する意。ここで咲いても見てももらえないのなら、他の場所に植え替えられた方が花にとって良いという歌ですが、「人の家」はかつて愛しい人が住んでいた家で、その人がいなくなってしまった寂しさ悲しさを詠んだものなのかもしれませんね。


貫之集 153

2023-09-16 05:36:05 | 貫之集

田守る庵あるところ

かりほにて ひさへへにけり あきかぜに わさだかりがね はやもなかなむ

かりほにて 日さへへにけり 秋風に 早稲田かりがね はやも鳴かなむ

 

田を守る小屋があるところ

稲の穂を刈るために田を見守る仮庵で幾日も過ごした。秋風が吹き、早稲を刈り取って雁も鳴く時期が早く来ないものか。

 

 「かりほ」は「狩り穂」と「仮庵」、第四句の「かり」は「狩り」と「雁」の掛詞ですね。歌全体も中々に難解です。


貫之集 152

2023-09-15 06:14:24 | 貫之集

七月七日、女ども空を見る

ひとしれず そらをながめて あまのがは なみうちつけに ものをこそおもへ

人しれず 空をながめて 天の川 波うちつけに ものをこそ思へ

 

七月七日、女たちが空を見ている

人しれず七夕の空を眺めて、波を立てて天の川を渡る舟を思うと、たちまち悲しい物思いに沈んで行くのです。

 

 第四句「うち」は「(波を)打つ」と「うち(つけに)」の掛詞。七夕の夜に自身の身の上を重ねて思惟に耽る女性の胸中を詠んだ歌です。


貫之集 151

2023-09-14 06:08:09 | 貫之集

鵜川

おほぞらに あらぬものから かはかみに ほしとぞみゆる かがりびのかげ

大空に あらぬものから 川上に 星とぞ見ゆる 篝火の影

 

鵜飼をする川

大空でもないのに、川上に鵜飼の篝火がまるで星のように見える。

 

 鵜飼が行われている夜、灯されるいくつもの篝火がまるで大空の星のように見えるという、なんとも幻想的な風景。同じく鵜飼の夜、まるで水底も燃えているようだと詠んだ 010 とともに、とても印象的な歌ですね。

 

六月鵜飼

かがりびも かげしるければ うばたまの よかはのそこは みづももえけり

篝火も 影しるければ うば玉の 夜川の底は 水も燃えけり


貫之集 150

2023-09-13 05:15:54 | 貫之集

六月、涼みするところ

なつごろも うすきかひなし あきまでは このしたかぜも やまずふかなむ

夏衣 薄きかひなし 秋までは 木の下風も やまず吹かなむ

 

六月、涼んでいるところ

薄い夏衣に風が通る快さが失われてしまうから、秋になるまでは木の下風もやまずに吹いていてほしい。

 

 夏の終わり、風がやんでしまうとまだまだ暑いので心地よく吹き続けてほしいというところでしょうか。ちょうど今頃の季節を描いた屏風絵に添えられたものでしょう。しかし実際の今年の暑さは、自然の風がやんでしまうと暑い、というレベルではないですね ^^;;;