ここに1冊のスコア(総譜)があります。ノルウェーの作曲家グリーグのピアノ協奏曲イ短調。音楽之友社のポケット版で、裏表紙をめくったところに「82.9.5」と書き込みがあります。1982年と言えば今から25年前。表紙にはシミが浮いて、ちょっとばっちいのですが、このスコアには色々と想い出があります。
中学に上がってしばらくして吹奏楽部に入り、そこで初めてスコアというものを目にしたのですが、好きでよく聴いていたクラシックのスコアがあるということを知ったのは随分時間が経ってからでした。
ご存じの方もおられるかもしれませんが、スコアというのは、オーケストラが演奏する曲の全体のパート(楽器)の楽譜が一緒くたになったものです。オーケストラは色々な楽器が寄り集まって出来ていますが、それぞれの演奏者は通常、その楽器の演奏すべき旋律の楽譜しか見ていません。これをパート譜と言いますが、これに対してスコア(総譜)というのは通常指揮者が見るもので、全部のパートの旋律が一度に俯瞰出来るようになっています。
例えばピアノの楽譜は右手と左手の2段組になっていますが、この延長で、例えば楽器の種類が20個あるとしたら、指揮者が見るスコアは20段組になっています。この20段が左から右に一気に進んでいきます。これがスコアです。
私が初めて買ったスコアは忘れもしないドヴォルザークの「新世界から」でしたが、これは確か部活の後輩にあげてしまったので、このグリーグが2冊目だと思います。その頃はラジカセしか持っておらず、FMからのエアチェックが日課。このグリーグもFMから録音したテープで文字通り千切れるまで聴きました。スコアを見ながらテープを聴くと、今まで聴こえてなかった音まで聴こえるような気がして、聴くたびにいつも発見がありました。
高校になり同じく吹奏楽部で指揮棒を振るようになり、これもいま思えば汗顔の至りですが、ともかく勉強そっちのけで楽譜を追っかけるようになりました。スコアのストックもどんどん増えていき、特に好きな曲は、スコアだけを読んで頭の中に音楽が流れるようになりました。
いま思えば、そういうストイックな聴き方をしていたのはともかく生の音楽に飢えていたからでしょう。それが証拠に、大学に入って大阪のザ・シンフォニーホールに通いだしてからは、それが知らない曲であっても、スコアを読んだり下調べをしたりすることがなくなりました。要するに一発勝負、生の演奏を体一杯に浴びることに目覚めた訳で、その時々に感じたことや思い浮かんだことを大切にすることの方が楽しくなりました。
そんなこんなで25年。久しぶりにグリーグのスコアを開いてみたのは、ちょっと昔を懐かしく思う気持ちが湧いたからでしょうか。お気に入りのCDをかけてスコアをめくると、あちらこちらに書き込みやメモが見つかります。楽しかったのだろうなぁ、あの頃・・・(今も楽しいんですが )
こうして今宵も至福の時が流れていきます。
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