龍の尾亭<survivalではなくlive>版

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「私は歌手だから」どうした?についてもう少し考える。

2011年05月27日 17時51分24秒 | 大震災の中で
気になることだから、もう少し考えておく。

「私は」→「歌手」→「だから」→「歌で人々を勇気づけたい」→(ありがとう/よけいなお世話)

には、いろいろと躓きの箇所がある。

1,まず、「私は」という主語の提示。だれも私の話を望んでいないのに(コンサートのMCなら別ね。ファンにとってはすでに『矢沢』は特別なんだから、それでいい。)、気軽にインタビューで「私は」と言うのは、何を参照して「私は」と発話しているのか疑問。
いや、「私は」ぐらい誰でも言うだろう、と思われるだろうか。自分自身を参照して語っているに決まっている?

まあとりあえずはそうかもしれない。誰であろうが「私は」と語りだす権利は持っている。

しかし、その「私は」は、いったい何を参照し、そして何を根拠として語り出されているか、その「同一性」は問題になるだろう。

私があらかじめ「わたし」を参照しているとしたら、単なる循環だし、別の何かを「私」について語ろうとするなら、どの「連続性」どの「同一性」に依拠して語り出すのか、ためらいはあってしかるべきだろう。

だってね、ふつうのヒトは、マイクを突きつけられて、「わたしは」なんていわないさっ。

そういう語りの形をどこかで「習った」んだろうね。

だがどこで?

つまり、何も参照されることなく「わたしは」と語り出すのは、とてつもない虚構を前提としているわけですいろいろと。

まあ、それはたぶん多くのヒトがまたぎ越す「河」なんだろう。

けれど、それを躊躇いなく飛び越しておいて「歌手」かあ、勇気づけられないなあ、とも思うのですよ。

さて、もうここらあたりで「いいがかり」も甚だしいと思われているかな。でも、行きがかり上、さらに話を進めます。

2次に「私は」→「歌手だ」というところ。
これは昨日してきしたように、歌手は歌っている間は確かに歌手だ。
だから、その「私」は聞き手の前でその都度「歌い手」になることを反復するだろう。

つまり、その都度「歌(を配信する担い)手」である。
一応ボーカロイドプログラムじゃあないのだから、ご本人が人間の「私」が「歌う」のだ(文句ある?)と叙述することは可能だが、その叙述はどの水準で受け止めればいいのやら、挨拶に困る。

歌うことによって歌い手となったヒトは、開かれた空間に歌を投げ出して配信しようとし、それが受け手の手にとどいて初めて「私は歌手」になる。

うっとおしいと思われるだろうが、それが基本だろう。

もう歌手として活動を続けているヒトは、昨日も歌手だったし、一昨日もコンサートやったし、CDもいっぱい出したし、という「記憶」を参照しているのだろう。

だったら、黙ってその圏域で歌っていればいいのだ。

災害は、そういう人為を相当程度引き裂いた。

だから、津波の前ではヒトは、もう予め体験を参照された「歌い手」ではないのです。

改めて、その場所で声を発することによって、この世界で歌い手になろうとすることが可能かもしれない、そうは言えるけれど。

もしかするとその声は、原発事故がこの世界に示した裂け目に吸い込まれ、無人の荒野に吸い込まれてしまうかもしれない。そういう配達されない歌になることをも引き受けて、歌いだすことによって初めてヒトになる可能性を半分だけいきることになるのだろう。

そういうことです。

3,さて3つ目。もう誰もつきあってくれていないだろうけれど、明日になったら忘れてしまうから、書いておきます。自分に対して書いているわけでもないし、誰が読むか分からないのだから、誰か特定のヒトに書いているわけでもない。

「ボトルに入れて流す手紙」

というほどニヒリズムには行けない(もう行かない、と断言すべきときか?)。

今度は、画面の陰影、インクのシミを受け取る「ヒト」を想定することによって、そのヒトにこの思考の軌跡=痕跡が届くかもしれないことを祈って、歌う、あるいは書くわけです。

自分の中の「ヒト」と向こう側にいるかもしれない「ヒト」とが出会って「人間的営為」=「人為」が再度そこに立ちあがるかもしれないと信じつつ。


ヒトは、繰り返し人間になろうとする。それは、ただ無自覚に語ればなれるというものではない。
サッカーがルールを知っていればサッカーになるわけでもなければ、音符が読めれば音楽になるわけではないのと同様に。
いや、それもサッカーだ、それも音楽だ、と言ってみることはもちろんできる。だが、それは、マイクを向けられて「公共的」に語られるべき言葉でないことだけは、断固強く何度でも書いておきたいのです。

そんだけ。