円・ドル為替レートは今年(2022年)4月20日に一時1ドル129円台を付けて、02年5月以来、約20年ぶりの円安水準となりました。1ドル114円~115円台で推移していた3月初旬から、1カ月余りで12%近くも円安が進んだことになります。
22日も、ドル円は一段高。米国株相場の下落で、欧州通貨やオセアニア通貨に対してドル高が進むと、円に対してもドル買いが先行。黒田東彦日銀総裁が「円が下落しても積極的な金融緩和を継続する必要」と述べたと伝わると、円売り・ドル買いが活発化し一時129.11円と日通し高値を更新した。
国際決済銀行(BIS)によると、円の国際通貨としての相対的な実力を示す「実質実効為替レート」は今年に入って、1972年以来50年ぶりの低水準で推移しています。実質実効為替レートは、貿易量や物価水準などを踏まえて、ある通貨の価値が他の複数の通貨に対してどれだけ上下しているかを表すものです。
足元では米ドルに対する円安の急激な進行が目立ちますが、実はそれと同時に、米ドル以外の通貨に対しても円の価値は歴史的な下落局面にあるわけです。そのせいでしょうか。このところ、円安にまつわるさまざまな話題や臆測が市場をにぎわしています。
例えば、「有事の円買い」神話が崩壊したという指摘。
円はこれまで、有事にはリスク回避を目的に投資家から買われやすい「安全通貨」と見なされてきました。実際に08年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災、20年の新型コロナウイルスショックに際して、為替市場では有事の円買いが発生して一時的に円高が進んでいます。
ところが今年2月24日に始まったウクライナ危機では、円は買われるどころか逆に売られて、円安が加速する結果となりました。その主たる要因として、日銀があくまでも金融緩和に固執する姿勢や、資源価格の高騰が日本に経常赤字をもたらす懸念などが取り沙汰されています。
「有事の円買い」については、意外と歴史が浅いことに目を向ける必要があります。例えば06年に北朝鮮が核実験を強行した際には、いわば「有事の円売り」が発生して円安が進みました。改めて振り返ると、20世紀の市場に定着していたのは「有事のドル買い」という神話でした。国際決済通貨として世界中で信用の高い米ドルが、有事に資金の逃避先として重宝されるのは、本来的には自然な流れといえます。
21世紀の最初の10年間に同時多発テロやリーマン・ショックなど、米国の中枢を舞台とした深刻な事件が相次いだことで、米国の安全神話は大きく揺らぐこととなりました。市場で米国への疑念が徐々に広がるなか、結果としてリーマン・ショックあたりから、世界有数の債権国である日本の円が新たな資金の逃避先としてクローズアップされるようになったのです。
すなわち「有事の円買い」は、もともとは「有事のドル買い」の代替として意識されたに過ぎません。米国が有事の直接的な震源地ではなく、なおかつその有事が世界に及ぼす悪影響の大きさが読み切れないような場合、投資家はやはり国際決済通貨である米ドルへの資金逃避を第一に選択するのだと思われます。
日本経済には「利上げ耐性」が備わっていない
ウクライナ危機という有事の長期化が予想されるなか、FRB(米連邦準備理事会)は今年3月に利上げを開始したのに続いて、5月からは量的引き締め(QT)にも乗り出す見込みです。一方で日銀はこのところ、指定した利回りで無制限に長期国債を買い取る「指し値オペ(公開市場操作)」を断続的に繰り返しています。
日銀の指し値オペには、人為的な操作によって長期金利を低位に抑え込み、金融緩和の姿勢を強調するという狙いがあります。結果として日米の金利差は拡大に向かい、より利回りが見込めるドルが買われて、円安が進みやすくなるという構図が広がっています。
②日米金利差の拡大です。一部大手証券では、今朝になって「5月に0.5%利上げした後、6月、7月には0.75%利上げ」を予想するレターを送付。ブラード米セントルイス連銀総裁も真っ青のタカ派的予想も出始めているといったところです。
一方で、昨日は政治的イベントとして注目が集まっていた日米財務相会談でしたが、朝方に鈴木財務相が会談後に報告。「為替問題で日米で緊密な意思疎通を確認した」としながらも、会談したという内容については「直近の円安が急激であることを数字で示した。懸念を伝えたというよりも経済状況を話した」とのこと。あくまでも非公式な対応だったことがわかる、いかにもな結果に、市場は「目先のドル円を買うことに躊躇する必要がなくなった」といったところです。
一方で、昨日は政治的イベントとして注目が集まっていた日米財務相会談でしたが、朝方に鈴木財務相が会談後に報告。「為替問題で日米で緊密な意思疎通を確認した」としながらも、会談したという内容については「直近の円安が急激であることを数字で示した。懸念を伝えたというよりも経済状況を話した」とのこと。あくまでも非公式な対応だったことがわかる、いかにもな結果に、市場は「目先のドル円を買うことに躊躇する必要がなくなった」といったところです。