中国経済の不振が際立ち始めた。GDPは1Q前期比+2.2%(前年比+4.5%)、2Q前期比+0.8%(前年比+6.3%)と急減速している。
6月小売りは前月比0.2%と失速しつつあり、5%成長は困難になってきた。加えて物価下落速度が加速している。7月CPI-0.3%、PPI-4.4%と世界インフレのなかでデフレ陥落が際立っている。
不動産大不況が始まった。トップ100不動産企業の売り上げは5月前年比21.2%減、6月28%減、7月33%減と落ち込みに歯止めがかからない。ピークの2020年比では3分の1まで低下している。恒大集団に続き第2のカントリーガーデン(碧桂園)も利払い停止に追込まれ、債務不履行の懸念が出てきた。
世界人口シェア17%の中国が、世界の鉄鋼やセメントの6割を生産し、その大半を国内で消費してきたわけで、建設された資産の規模は想像を絶するものである。
これまでの中国経済成長の際立った特徴は、著しく投資に偏った成長を20年以上も続けてきたということである。GDPに対する固定資本形成の比率をみると中国は42%と主要国、米(21%)、日(26%)、独(23%)、韓(29%)の倍近い水準がキープされてきた。
世界で唯一中国だけ、投資が消費を上回り続けてきたが、これは極めて異常で不健康なことである。いまいよいよそのコストを払わされる場面に入ったといえる。
加えて、輸出6月前年比12.4%減、7月14.5%減、輸入6月6.8%減、7月12.4%減と貿易の収縮にも歯止めがかからない。
中国への海外からの直接投資額は2022年1Qの1,000億ドルに対して2023年1Qは200億ドルと5分の1に急減している。中国を巡る証券投資も2022年以降大きく流出超になり始めた。
今後世界経済での中国のプレゼンスは大きく低下していくとみられる。過去20年間は中国経済の独り勝ちの時代であった。鉄鋼、セメント、化学等の基礎資材のみならず、スマホからEV、太陽光パネル、風力発電装置等ハイテク、クリーンエネルギー産業に至るまで、中国は圧倒的世界シェアを確保し、他国の成長機会を奪ってきた。
しかし今後は中国の世界シェア低下により、成長機会が他国・他地域に回帰していく。中国に機会を奪われた日本、米国、アセアン諸国、インドなどが逆転の恩恵を受けることになるだろう。それはすでに世界最大消費市場米国における中国の輸入シェアの大幅な低下に現れている
2023年に関し、大半のエコノミストは2大国米中の経済見通しを間違えた。昨年末時点では金融引き締めにより米国リセッション入りは不可避、バブル化した米国株の暴落不可避、との見方が大勢であった。
他方、中国はコロナ禍によるロックダウンが解除され、経済の正常化、反動増が見込まれたため、期待が高まった。しかし米中ともに結果は予想とは逆であった。
見込み違いの主因は、米国、中国経済において短期的圧力を凌駕する、強烈な反対方向の構造的圧力が強く働き始めているためと考えられる。
米国経済を支えている構造的強さはなにかといえば、「新産業革命による生産性の上昇」と「財政とアニマルスピリット(=株高)による旺盛な需要創造」であり、中国の構造的弱さは、「バブル崩壊によるデッドデフレーション(=バランスシート不況)」と「中国独り勝ち時代の終焉と一人負け時代の開始」であろう。
この米国経済の構造的強さと中国経済の構造的弱さは2024年にかけて増幅される。2024年にかけて米中の成長率格差が顕著になっていくだろう。
当面株価調整色が強まっているが、深刻な下落は起きないだろう。2015年は中国のIMFSDR構成通貨国になるために資本移動規制の撤廃が実施されたが、同時に進行した国内経済の悪化が巨額の資本流出、株下落、人民元の急落に結び付き、中国発の世界金融危機が心配された(その後の資本移動規制導入により事態鎮静化)。
しかしいまは、中国の資本コントロール、国内金融に対する政府・中銀の介入が著しく強化されており、金融危機の世界伝播は起こりえないと考える。また米国経済が驚くほど強く、日本経済も力強さを増しているといえよう。