今の真言行者は現世では即身成仏無理のゆえ兜率往生して大師に導いていただくこと
「密宗安心略辨高幡大僧正口訣・末資龍瑛記」に「大日経疏後問答大事口決手鏡私記、この私記は仁和寺栄厳大僧正の筆記也。この記に云く、上来奥の疏、一部及び此の印信口訣等習ひ伝ふる上は必ず常に修行して速に心明道を開発せよ・・、と。されども面々の如き愚童凡夫は縦へ少志あるも業障に碍げられ種々魔障留難ありて此の穢土濁乱の中にては所願成じ難し。況や明師有りて値遇希なる故に、内因外縁俱に欠けたり。茲に因りて兜率の内院に往生して慈氏に遇ひ奉り、弘法大師の生身を拝し、開示引導を蒙りて此の如法花の印明を修行して法明道を開発せんと願ふべし。故に師に就いて兜率往生の次第を習ふこと肝要也とあり。
道範阿闍梨の秘密念仏鈔に云く、「南無大師遍上金剛。哀愍加持。往生極楽。夫れ宿善の汲引に依りて大師の遺法を受けたり。身を大師深禅の砌に容れ、命を大師慈悲の室に終ふ。過現の縁、既に深し。當生なんぞ捨てたまはん乎。唯願はくは浄刹に引導たまへ。」とあり、この文を古来高野山奥の院御廟前の読経所に掲示して一山の大衆悉く大師御法楽読経の節は祈願の文として至心に唱へ奉りし、と聞けり。予若輩の時高野住山の砌、此の掲示の文を参詣毎に拝見恭唱したり。然れば一生頓悟即身成仏の深義を宣揚する學将多き高野山の碩徳すら此の如く往生浄刹を願へり。」