佛説彌勒大成佛經 (全巻書き下し)
彌勒大成佛經は弥勒経(上生経・下生経・成仏経)の中でもっとも整備されたもので最も長いものであるから「大」の字がついている。
お釈迦様が舎利弗に弥勒菩薩の出世の時代・国土を説くもの。海水が三千由旬を減じ人寿八万四千歳の時、弥勒菩薩が出世して法を説き、耆闍崛山(霊鷲山)に入定している大迦葉を尋ね、大迦葉はお釈迦様の僧伽梨(大衣)を弥勒に授与し伝法の形式が整う。弥勒の弟子は迦葉の身長が短いのを軽視したが大迦葉は大身を虚空に満たすなどの十八の神変をあらわし最後に身上火をおこし般涅槃に入った。弥勒は塔を立て迦葉の舎利を収めた。最後に釈尊は正法に精進して弥勒の世にあうことを勧める。
佛説彌勒大成佛經 姚秦龜茲國三藏鳩摩羅什譯
如是我聞。一時、佛、摩伽陀國波沙山(孤絶山也)過去諸佛常降魔處に住す。夏安居中、舍利弗とともに山頂を經行す。而して偈を説いて言はく、
一心に善く諦聽せよ 光明大三昧
無比功徳人 正爾當に出世すべし
彼人妙法を説き 悉く皆な充足するを得ること
渇して甘露を飲むが如くにして 疾く解脱道に至る
時に四部衆は道路を平治し、灑掃燒香し皆悉く來集し、諸供具を持て如來及比丘僧を供養す。如来を諦觀すること喩へば孝子の慈父を視るがごとく、渇して飮を思うがごとし。法父を愛念することも亦復如是。各各同心して法王に正法輪を転ぜんと請はんと欲し、諸根不動にして心心相い次いで流注し仏に向ふ。是時、比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷・天・龍・鬼神・乾闥婆・阿修羅・迦樓羅・緊那羅・摩睺羅伽・人・等は各の坐より起ちて世尊を右遶す。五體投地して佛に向かって泣涙す。爾時、大智舍利弗は衣服を齊整して、偏袒右肩、法王心を知って善能く隨順し、佛法王に学んで正法輪を転ず。是の佛の輔臣・持法大將は衆生を憐愍するが故に、苦縛を脱せしめんと欲し、佛に白して言さく、「世尊よ。如來は向に山頂上において偈を説き、第一智人(弥勒菩薩)を讃歎したまへり。前後經中の所に未だ説きたまはざるところなり。此諸大衆、心に皆な渇仰して涙は盛雨の如し。如來の未來佛の甘露道を開き、彌勒の名字・功徳・神力・國土莊嚴を説くを聞んと欲す。何の善根・何の戒・何の施・何の定・何の慧・何等の智力を以てか彌勒を見ることを得るや。何の心中において八正路(八正道)を修するや。」
舍利弗、此の問を発せし時、百千の天子・無數の梵王は合掌恭敬して異口同音に共に是問を發し、佛に白して言さく、「世尊よ、願はくは我等をして未來世において人中の最大果報・三界の眼目光明たる彌勒の普く衆生のために大慈悲を説くを見ることを得せしめよ。」
并びに、八部衆亦皆如此に恭敬叉手して如来を勸請す。爾時、梵王と諸梵衆は異口同音に合掌讃歎して頌を説ひて曰はく、
南無したてまつる 滿月・具足十力・大精進將・勇猛無畏・一切智の人。三有を超出し 三達智(三菩提)を成す。四魔を降伏し 身を法器となす。
心は虚空の如く 靜然不動。 有・非有において 無・非無に於いて 空法を達解し 世の讃歎するところなり。
我等同心 一時に歸依す。 轉法輪を願ふ。
爾時世尊、舍利弗に告げたまはく、「當に汝等のために廣く分別して説くべし。諦聽諦聽、善く之を思念せよ。汝等、今は妙善心を以て如來無上道業・摩訶般若を問はんと欲す。如來明見すること掌中の菴摩勒果(あまろくか・マンゴー)を見るが如し。」
舍利弗につげたまはく、「若し過去七佛の所において、佛名を聞くを得て禮拜供養せば、是の因縁を以て淨除業障す。復た彌勒大慈の根本を聞き清淨心を得ん。汝等今當に一心合掌して未來の大慈悲者に帰依すべし。我當に汝の為に廣く分別して説かむ。彌勒佛國は淨命に従って諸諂僞なし。檀波羅蜜・尸羅波羅蜜・般若波羅蜜もて不受不著を得る。微妙十願を以て大莊嚴し、一切衆生は柔軟心を起こすを得て、彌勒大慈に攝せられて彼の国土に生まれ、諸根を調伏し、佛化に隨順するを得る。舍利弗よ、四大海水の面を各の減少すること三千由旬、時に閻浮提の地は縱廣正等しく十千由旬、其地平淨にして流璃鏡の如し。大適意華・悦可意華・極大香華・優曇鉢花・大金葉華・七寶葉華・白銀葉華あり。華鬚柔軟にして状は天繒の如く、吉祥果を生じて香味具足、軟きこと天綿の如し。叢林樹華の甘果は美妙極大にして茂盛す。帝釋歡喜之園に過ぎたり。。其樹高顯高三十里。城邑次比び、雞飛相及。皆、今佛の大善根を種えて慈心を行ずる報によって彼国に倶生す。智慧・威徳・五欲を衆具して快樂安隱。亦た寒熱風火等の病なく、九惱苦なし。壽命は八萬四千歳を具足し、中夭あることなし。人身悉く長一十六丈。日日常に極妙安樂を受け、深禪定に遊んで以って樂器となす。唯三病あり。一者飮食。二者便利。三者衰老。
女人年五百歳にして爾して乃ち行嫁す。一大城あり、翅頭末と名く。縱廣一千二百由旬。高さ七由旬。七寶もて莊嚴。自然に化生せる七寶樓閣あり。端嚴殊妙莊校清淨。窓牖間に諸寶女を列し、手中に皆眞珠の羅網を執る。雜寶莊校して以ってその上を覆ふ。に密に寶鈴を懸けて聲は天樂の如し。七寶行樹の樹間には渠泉あえい。皆七寶より成る。異色の水を流して更に相ひ暎發し、交横徐逝して相ひ妨礙せず。其岸の兩邊には純布金沙あり。街巷道陌は廣さ十二里。悉く皆な清淨にして猶ほ天園の如く掃灑清淨なり。大龍王あり、名けて多羅尸棄といふ。福徳威力皆悉く具足す。其池は城に近く龍王宮殿ありて七寶樓のごとく、外に顯現。常に夜半に人像を化作し、吉祥瓶を以て香色水を盛りて塵土に灑淹す。其地の潤澤なること譬へば油を塗ったるが如し。行人往來して塵坌あることなし。是れ時の世人の福徳の致すところなり。巷陌の處處に明珠柱あり。光は日の喩く、四方各八十由旬を照らす。純黄金色なり。其光照燿晝夜無異なり。燈燭の明は猶ほ聚墨のごとく、香風時に來って明珠柱を吹き、寶瓔珞を雨ふらす。衆人皆用ひて服する者、自然に三禪樂のごとし。處處に皆な金銀珍寶摩尼珠等ありて積て用て山をなす。寶山光を放って城内を普照あい、人民遇者皆悉く歡喜して菩提心を発す。大夜叉神あり。名けて跋陀婆羅塞迦(ぼつだばらせんさか)、秦には善教といふ。晝夜翅頭末城及び諸人民を擁護し灑掃清淨す。設ひ便利あるも地裂して之を受け受已って還合し赤蓮華を生じて以って穢氣を覆ふ。時世の人民、若し年衰老すれば自然に山林樹下に行詣し、安樂淡泊に念佛して盡を取る。命終すれば多くは大梵天上及び諸佛前に生じる。其土は安隱にして怨賊劫竊の患あることなし。城邑聚落閉門する者なし。亦た衰惱・水火・刀兵及び諸飢饉・毒害の難なし。人は常に慈心恭敬和順にして諸根を調伏すること子の父を愛するがごとく、母の子を愛するがごとし。語言謙遜なるは皆な彌勒の慈心の訓導による。不殺戒を持して肉を噉はざるがゆえに、此因縁を以て彼の國に生まるる者は諸根恬靜、面貌端正、威相具足して天童子のごとし。復た八萬四千の衆寳の小城あり、以って眷屬となす。翅頭末城は最其中に処す。男女大小、遠若しは近といえども、佛神力の故に兩つながら相見するを得て障礙するところなし。夜光摩尼・如意珠華は世界に遍滿し、七寳花を雨ふらす。鉢頭摩華・優鉢羅華・拘物頭華・分陀利華・曼陀羅華・摩訶曼陀羅花・曼殊沙花・摩訶曼殊沙華を其の地に彌布す。或復た風吹けば空中に迴旋す。時に彼の國界の城邑・聚落・園林・浴池・泉・河流・沼には自然に八功徳水あり。命命之鳥・鵝鴨・鴛鴦・孔雀・鸚
鵡・翡翠・舍利・美音鳩・鵰羅・耆婆闍婆快見鳥等は妙音聲を出す。復た異類妙音の鳥ありて稱數すべからず。林池に遊集す。金色無垢淨光明華・無憂淨慧日光明華・鮮白七日香華・瞻蔔六色香華および百千萬種の水陸生華は青色青光、黄色黄光、赤色赤光、白色白光にして香淨きこと無比なり。晝夜常に生じて終に萎む時なし。如意果樹あり。香美にして無比、國界に充満す。香樹金光にして寶山間に生じ國界に充満し、適意の香を出して普く一切を熏ず。
爾時、閻浮提中に常に好香あり。譬へば香山の如し。流水美好、味甘く除患す。雨澤隨時、天園に香美稻種を成熟す。天神力の故に一種に七穫あり。用功甚だ少く、收むる所甚だ多し。穀稼滋茂、草穢あることなし。衆生の福徳は本事の果報によって口に入れば銷化す。百味具足、香美無比、氣力充實。
其國爾時に轉輪聖王あり。名けて曰く、穰佉。四種の兵を有し、威武をもってせずして四天下を治め、三十二大人相好を具す。王に千子あり。勇猛端正怨敵自伏。王に七寳あり、一に金輪寳、千輻轂輞皆悉く具足す。二に白象寳、白きこと雪山の如く七支柱を拄へ、嚴顯にして觀るべく、猶ほ山王の如し。三に紺馬寳、朱鬣髦尾にして足下に華生じ、七寶蹄甲あり。四に神珠寶。明顯にして觀るべく二肘より長し。光明にして宝を雨ふらし、衆生の願をかなふ。五に、玉女寶、顏色美妙、柔軟無骨。六に、主藏臣、口中より寶を吐き足下に寶を雨ふらし、兩手より寶を出す。七に主兵臣。身を動かす時、四兵雲の如く空より出る。千子・七寶・國界の人民、一切相視て悪意を懷かず、母の子を愛するがごとし。時に王の千子は各の珍寶を取って正殿前にて七寶臺をつくる。三十重にして高さ十三由旬、千頭千輪遊行自在なり。四大寶藏あり。一一の大藏に各の四億の小藏ありて圍繞す。伊鉢多(いはつだ)大藏は乾陀羅國にあり。般軸迦(はんじか)大藏は彌緹羅(みでいら)國にあり。賓伽羅大藏は須羅吒國にあり。穰佉(じょうきょ)大藏は婆羅㮈國古仙山處にあり。此の四大藏は自然に開發して大光明を顕し、縱廣正等にして一千由旬なり。中に珍寳を満たす。各四億小藏之に附く。四大龍あり。各自此四大藏及諸小藏を守護す。自然に踊出して形は蓮華のごとし。無央數の人、皆共に往いて觀る。是時衆寶を守護する者なきも衆人は之を見ても心不貪著なり。之を地に棄ること猶ほ瓦石草木土塊のごとし。時に人、見者は心に厭離を生じ各各相謂て而も是言を作す、「往昔の衆生、仏の説の如くんば、寶のための故に共相に殘害し、更に相偸劫・欺誑・妄語し生死の苦縁をして展轉増長せしめ。大地獄に堕す。」
翅頭末城は衆寳羅網をその上に彌覆し、寶鈴にて莊嚴して微風吹動す。其音和雅にして鐘磬を扣くがごとし。歸依佛・歸依法・歸依僧を演説す。時に城中に大婆羅門主あり。名けて修梵摩(しゅぼんま)。婆羅門女の名は梵摩拔提(ぼんままつだい)なり。心性和弱にして彌勒は生を託して父母となす。胞胎に居ると雖も天宮に遊ぶがごとし。大光明を放って塵垢不障なり。身は紫金色にして三十二大丈夫相を具す。寶蓮華に座し、衆生之を視て厭足あることなし。光明晃耀して勝視すべからず。諸天世人の未だ曾って覩ざるところなり。身力無量。一一の節刀は一切の大力龍象に勝つ。不可思議毛孔の光明は照耀無量、障礙あることなし。日月星宿水火の珠光も皆な悉く現れざること猶し埃塵の如し。身は釋迦牟尼佛に長ずること八十肘三十二丈、脇廣二十五肘
十丈、面長十二肘半、五丈なり。鼻高修直、面門に當る。身相具足、端正無比にして相好を成就す。一一の相は八萬四千好にして以って自ら莊嚴すること鑄金像の如し。一一の好中より光明を流出して千由旬を照らす。肉眼清徹青白分明なり。常に光は身を繞りて、百由旬に面し、日月・星宿・眞珠・摩尼・七寶行樹は皆な悉く明耀して佛光を現じ、其餘衆光は復た用をなさず。佛身は高顯にして黄金山の如し。見者は自然に三惡趣を脱す。
爾時、彌勒、諦かに世間五欲の過患を観ずるに、衆生は苦を受け、長流に沈沒して大生死にあり。甚だ憐愍すべし。自ら如是の正念を以て苦空無常を観察して在家をたのしまず。家の迫迮を厭うこと猶し牢獄のごとし。時に穰佉王、諸の大臣・国土・人民と共に七宝臺のなかに千寶帳及び千寶軒。・千億寶鈴・千億寶幡・寶器千口・寶甕千口あるを持して弥勒に奉上す。彌勒受已りて諸婆羅門に施す。婆羅門は受已って即便ち毀壞して之を各に共分す。諸婆羅門は彌勒の能く大施を作すを觀見して大奇特心を生ず。彌勒菩薩は此の寶臺の須臾にして無常なるを見て、有爲法は皆な悉く磨滅するを知り、無常想を修して過去佛の清涼甘露無常之偈を讃ず。 「 諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅爲樂」
此の偈を説き已って、出家學道して、金剛莊嚴道場龍花菩提樹下に坐す。枝は寶龍のごとく百寶華を吐く。一一の花葉は七寶色を作し、色色異果は衆生の意に適ふ。天上にも人間にも比あるなし。樹高五十由旬、枝葉四布して大光明を放つ。爾時、彌勒は八萬四千の婆羅門と倶に道場にいたり、彌勒即ち自ら剃髮して出家學道す。早く起きて家を出、即ち是日初夜において四種魔を降し、阿耨多羅三藐三菩提を成ず。即ち偈を説いて言く、 「久しく衆生苦を念じ 拔んと欲するも脱するに由なし。 今は菩提を証して 霍然無所礙なり。 亦た衆生空に達すれば 本性相如實にして 永く更に無憂苦なり。 慈悲亦無縁なり。 本と汝等を救んがために 國城及び頭目妻子と手足をも 人に施せること數あることなし。 今始めて解脱・無上大寂滅を得る。 當に汝等がために説く。 廣く甘露道を開け。 如是の大果報 は皆な施・戒・慧等の六種大忍より生ず。 亦た大慈悲・無染の功徳より得る。」
此の偈を説き已って默して住す。時に諸の天龍鬼神王その身を現ぜずして而も天花を雨ふらして仏を供養す。三千大千世界は六變震動す。佛身より光を出して無量を照らし、應に度すべき者は皆佛を見るを得たり。爾時、釋提桓因・護世天王・大梵天王の無數の天子は花林園に於いて頭面禮足し、合掌して法輪を転ぜんことを勸請す。時に彌勒佛は默然として請を受け、梵王につげて言はく、「我、長夜に大苦惱を受け、六度を修行す。始めて今日において法海を滿す。法幢を建て法鼓を撃ち、法螺を吹き、法雨を雨らすこと正に爾り。當に汝等がために説法せん。諸佛所轉の八聖道輪は諸天世人の能く轉ずる者なし。其義は平等に直ちに無上無爲寂滅に至り、諸衆生の為に長夜の苦を断ず。此法は甚深難得難入難信難解なり。一切世間に能く知る者なく、能く見る者なし。心垢を洗除すれば萬梵行を得る。」
是語を説く時、復た他方の無數百千萬億の天子天女大梵天王は天宮殿に乗って、天花香を持し如来に奉獻し、繞ること百千匝にして五體投地合掌勸請す。諸天の伎樂は鼓せずして自鳴す。時に諸梵王異口同聲に偈を説いて言はく、
「 無量無數歳は 空く過ぎて佛あることなし 衆生惡道に堕す 世間の眼目滅すれば
三惡道増廣す 諸天の路は永く絶ゆ 今日佛世に興る 三惡道は殄滅し 天人衆は増長せん 願はくは甘露門を開き
衆心をして無著にして 疾疾に涅槃を得せしめよ 我等諸梵王は 佛の世間に出でますを聞き 今は無上大法王に値遇せり 梵天宮殿は盛んなり 身光亦明顯 普く十方衆のために大導師を勸請す 唯だ願くは甘露を開き 無上法輪を転じたまへ」
此偈を説き已って頭面作禮し、復た更に合掌して慇懃に三請す。「唯願はくは世尊よ、甚深微妙法輪を転じて、爲に衆生
苦惱根栽を抜き、三毒を遠離して四惡道不善の業を破られよ。」
爾時世尊、諸梵王の為に即便ち微笑して五色光を出し、默然として之を許したまふ。時に諸天子および無數大衆は。佛の許可を聞いて歡喜無量遍體踊躍す。譬ば孝子の新に慈父をうしなふに忽然として還活したるがごとく、大衆歡喜するも亦復如是なり。時に諸天衆、世尊を右遶して無數匝を経て、敬愛厭くなく却りて一面に住す。
爾時、大衆は皆な是念を作す。「復た千億歳に五欲樂を受くとも能く三惡道苦を免れ得るを得ず。妻子財産も能く救ふこと能はず。世間無常の命は久しく保ちがたし。我等今は佛法中において梵行を淨修せん。」是念を作已って復た更に念じて言はく、「設ひ五欲を受けて無數劫を経、無想天壽無量億歳に諸婇女と共に相娯樂して細滑觸を受くるが如きも、かならず磨滅に帰して三惡道に堕し無量苦を受く。樂む所は幾ばくもなく猶し幻化のごとし。蓋し言ふに足らず。入地獄時は大火洞然。百億萬劫無量苦を受け、脱を求るも得がたし。この如き長夜の苦役は抜きがたし。今日佛に遇ひたてまつる宜く
勤めて精進したてまつるべし。」
時に穰佉王高聲に唱へて言く
「 設ひ復た生天樂あるも かならず亦た磨滅に帰す 久からずして墮地獄せば 猶ほ猛火聚の如し
我等宜しく時に速やかに 出家して佛道を学ぶべし。」
是語を説き已って、時に穰佉王は八萬四千の大臣に恭敬圍繞せられ、四天王は轉輪王を送って花林園龍花樹下に至り、彌勒佛に詣でて出家を求索す。佛の為に作禮す。未だ頭をあげざるの頃に鬚髮自落し袈裟は身に著し、便ち沙門となる。
時に彌勒佛は穰佉王と共に八萬四千の大臣・諸比丘等に恭敬圍繞せられ、并びに無數の天龍八部とともに翅頭末城に入り、足が門の閫しきいを躡めば、娑婆世界六種に震動し、閻浮提の地は化して金色となる。翅頭末大城の中央は其地金剛、過去諸佛の坐したまへる金剛寶座あり。自然に衆寶行樹を踊出す。天は空中より大寶華を雨ふらす。龍王は衆の伎樂を作し、口中より華を吐き、毛孔より華を雨ふらし、用って佛を供養す。佛は此座において正法輪を轉ず。是の苦を苦聖諦と謂ひ、是の集を集聖諦と謂ひ、是の滅を滅聖諦と謂ひ、是の道を道聖諦と謂ふ。并びに爲に三十七品助菩提法(三十七菩提分法)を演説す。亦爲に十二因縁を宣説す。無明は行を縁とし、行は識を縁とし、識は名色を縁とし、名色は六入を縁とし、六入は觸を縁とし、觸は受を縁とし、受は愛を縁とし、愛はを取を縁年とし、取は有を縁とし、有は生を縁とし、。生は老死憂悲苦惱等を縁とす、と。爾時、大地は六種に震動す。此の如き音聲は三千大千世界に聞こゆ。復た是數を過ぐること無量無邊にして、下は阿鼻地獄より、上は阿迦膩吒天にいたる。時に四天王各各將に無數鬼神を領し、高聲に唱へて言はく、「佛日世を出でて時に法雨の露を降し、世間眼目は今始めて開く。普く大地一切の八部をして佛に有縁ならば皆聞知するを得せしむ。」
三十三天・夜摩天・兜率陀天・化樂天・他化自在天乃至大梵天、各各己の統領する所處において高聲に唱へて言はく「佛日世に出て甘露を降注ぎ、世間眼目今始めて開く。有縁の者は皆な悉く聞知せよ」
時に諸龍王八部・山神・樹神・藥草神・水神・風神・火神・地神・城池神・屋宅神等も踊躍歡喜して高聲に唱言す。復た八萬四千の諸婆羅門も聰明大智にして佛法中において亦た大王に隨って出家學道す。復た長者あり、名を須達那といふ。今の須達長者是なり。亦た八萬四千人と倶共に出家す。復た梨
師達多・富蘭那(六師外道の一人。 善悪の業報を認めない道徳否定論者)の兄弟あり。亦た八萬四千人と倶共に出家す。復た二大臣あり、一は名けて梵檀末利(ぼんだまり)、二は名けて須曼那。王の愛重する所なり。亦た八萬四千人と倶に佛法中において出家學道す。轉輪王寶女、名を舍彌婆帝、今の毘舍佉母(びしゃきゃも・鹿子母講堂を寄進した)是也。亦た八萬四千の婇女と倶共に出家す。穰佉太子、名けて天金色、今の提婆婆那長者子是なり。亦た八萬四千人と倶共に出家す。彌勒佛の親族の婆羅門子、名けて須摩提、利根智慧あり。今の欝多羅善賢比丘尼子是なり。亦た六萬人と倶に佛法中において倶共に出家す。穰佉王の千子は唯一人を留め用って王位を嗣ぎ、餘の九百九十九人は亦た八萬四千人と佛法中において倶共に出家す。如是等の無量億の衆は世の苦惱・五陰の熾然なるを見て、皆彌勒佛法中において倶共に出家す。
爾時、彌勒佛は大慈心を以て諸大衆に語って言く、「汝等今は生天の樂を以ての故にもあらず、亦復、今世の樂の為の故にもあらず、我所に來至するは
但だ涅槃常樂の因縁の為なり。是諸人等は皆、佛法中において諸善根を種ふ。釋迦牟尼佛五濁世に出まして、種種に呵責して汝の為に説法したまふも、汝は奈汝ともすることなし、何ぞ殖へ來る縁をもて我を見るを得せしめんや。我今是諸人等を攝取す。或は讀誦分別を以て修多羅・毘尼・阿毘曇を分別決定し、他の為に義味を演説讃歎し、嫉妬を生ぜず、他人に教へて受持するを得せしむ。諸功徳を修して我所に來生せよ。或は衣食をもって施人し、持戒智慧此の功徳を修して我所に來生せよ。或は妓樂幡蓋華香燈明をもって佛に供養し、此功徳を修して我所に來生せよ。或は僧の常食を施し僧房を起立し四事供養し、八戒齋を持して慈心を修習するを以て、此功徳を行じて我所に來生せよ。或は苦惱衆生の為に深く慈悲を生じ、身を以て代受して其をして得樂せしめ、此功徳を修して我所に來生せよ。或は持戒忍辱を以て慈心を修淨し、此功徳を以て我所に來生せよ。或は僧祇四方無礙齋講設會を造り、飯食を供養し、此の功徳を修して我所に來生せよ。或は持戒・多聞・修行禪定無漏智慧を以て、此の功徳を以て我所に來生せよ。或は起塔し舎利を供養し、法身を念じ、此の功徳を以て我所に來生せよ。或は厄困・貧窮・孤獨のもの有って他に繋屬せられ、王法の加ふるところとなり當に刑戮に臨んで八難業を作し、大苦惱を受くろとき、彼等を拔濟して解脱を得せしむ。此の功徳を修して我所に來生せよ。或は恩愛別離の朋黨の諍訟して極大苦惱のものあれば、方便力を以て和合を得せしむ。此の功徳を修して我所に來生せよ。」
是語を説き已って、釋迦牟尼佛を稱讃す。「善哉善哉。能く五濁惡世において、如是等の百千萬億の諸惡衆生を教化して善本を修して我所に來生せしむ。」と。
時に彌勒佛は如是に讃釋迦牟尼佛を三稱し、而して偈を説いて言く
「 忍辱勇猛大導師は 能く五濁不善の世において 惡衆生を教化成熟して 彼をして修行して佛を見ることを得しむ
衆生を荷負して大苦 を受け、 今常樂無爲處に入り 彼の弟子をして我所に来らしむ 我今汝らのために四諦を説き
亦た三十七菩提・ 莊嚴涅槃十二縁を説かん。 汝等宜しく當さに無爲を観じて 空寂本無處に入るべし。」
此の偈を説き已って、復た更に彼時の衆生、苦惡世において能く難事を為せるを讃歎す。貪欲瞋恚愚癡に迷惑せる短命の人中に、能く持戒を修し、諸功徳を作せるは甚だ希有と為す。爾時、衆生は父母・沙門・婆羅門を知らず。道法を知らず。互ひに相惱害して刀兵劫に近き、深く五欲に著して嫉妬諂佞し、曲濁邪僞無憐愍心なり。更に相殺害して食肉飮血す。師長を敬はず、善友をしらず、報恩を知らず、五濁世に生まれて慚愧を知らず。晝夜六時に相續して作惡し、厭足を知らず。純ら不善を造りて五逆惡を聚め、魚鱗の如く相次いで求めて厭くを知らず。九親諸族相ひ濟ふ能ざるを、善哉善哉釋迦牟尼佛、
大方便と深厚の慈悲を以て能く苦惱の衆生の中において、和顏美色善巧智慧もて誠實語を説き、我が當來に汝等を度脱すべきを示す。如是の導師の明利なる智慧は世間希有にして甚だ難遇となす。深心に悪世の衆生を憐愍し、爲に拔苦悩し、安隱を得て、第一義甚深法性に入らしむ。釋迦牟尼の三阿僧祇劫は汝等が為の故に難行苦行を修行して、頭を以って布施し、耳鼻手足胑體を割截して諸苦惱を受け、八聖道を以て平等に解脱したるは汝等を利せんが為の故なり。」
時に彌勒佛は如是に無量諸衆生等を開導安慰し、其をして歡喜せしむ。彼の時の衆生の身は純ら是れ法なり。心は純ら是れ法なり。口は常に説法し、福徳智慧の人はその中に充滿す。天人は恭敬・信受・渇仰す。時に大導師、各の彼等をして往昔の苦惱の事を聞かしめんと欲し、復た是の念を作す。
五欲の不淨は衆苦の本なり。又た能く憂慼愁恨を除捨す。苦樂の法は皆な是れ無常なりと知り、爲に色受想行識苦空無常無我を説く。是の語を説く時、九十六億人は諸法を受けずして漏盡き意解して阿羅漢を得る。三明六通八解脱を具し、三十六萬天子、二十萬天女は阿耨多羅三藐三菩提心を発す。天龍八部中には須陀洹を得る者、辟支佛道の因縁を種る者、無上道心を発する者あり。數甚衆多くして稱計すべからず。
爾時彌勒佛、九十六億大比丘衆并びに穰佉王の八萬四千大臣・比丘・眷屬に圍繞せられ、月天子に諸星宿の從ふがごとく翅頭末城を出て、還花林園重
閣講堂に入る。時に閻浮提の城邑・聚落の小王長者及び諸四姓は皆な悉く龍花樹下花林園中に来集す。爾時世尊、重ねて四諦十二因縁を説く。九十四億人阿羅漢を得る。他方諸天及び八部衆・六十四億恒河沙人は阿耨多羅三藐三菩提心を発して不退轉に住す。第三の大會には、九十二億人が阿羅漢を得る。三十四億の天龍八部は三菩提心を発す。時に彌勒佛、四聖諦の深妙の法輪を説き、天人を度し已って、諸聲聞弟子天龍八部一切大衆をひきいて城に入って乞食す。無量の淨居天衆は恭敬して佛に従ひ翅頭未城に入る。當に入城時に佛は十八種神足を現ず。身下に出水せば摩尼珠の如く化して光臺と成って十方界を照らす。身上に出火せば須彌山の如く紫金光を流す。大を現ずれば空に滿ち、化して琉璃となる。大より復た小を現ずれば芥子許の如く、泯然不現。十方に踊り、十方に沒す。一切人をして皆な佛身の如く、種種神力無量に變現せしめ、有縁の者をして皆な解脱を得せしむ。釋提桓因の三十二の輔臣は、欲界諸天・梵天王と色界諸天、并に天子天女とともに天瓔珞及び天衣を脱いで佛上に散ず。時に諸天の衣は化して花蓋となる。諸天の妓樂は鼓せずして自ら鳴る。佛徳を歌詠して密かに天花を雨ふらし、栴檀雜香もて佛を供養す。街巷道陌には諸幢幡を竪て、諸名香を焼き其煙雲の若し。
世尊入城時に、大梵天王・釋提桓因は合掌恭敬して偈を以て佛を讃ず。
「正遍知者兩足尊 天人世間に無與等なり 十力の世尊は甚だ希有にして無上最勝良福田なり。 其を供養する者は天上に生まれ 未來に解脱して涅槃に住す。 稽首無上大精進 稽首慈心大導師」
東方天王の提頭頼吒(てずらた)、南方天王の毘樓勒叉(びるろくしゃ)、西方天王の毘留博叉(びるばくしゃ)、北方天王の毘沙門王、其の眷屬とともに恭敬合掌して清淨心を以て世尊を讃歎す。
「三界に比あることなし 大悲自ら莊嚴す 第一義を體解し、 衆生の性 及び諸法相を見ず 、 同入空寂性 善住無所有 大精進を行ずるといえども 無爲無足迹なり 我今稽首して慈心大導師を禮す 衆生佛を見ざれば 長夜に生死を受け三惡道に墜墮し及び女人身と作る。 今日佛世におこり 拔苦して安樂を施し 三惡道已に少なり 女人諂曲なく 皆當に止息を得て 大涅槃を具足す 大悲は苦者を濟ひ 施樂の故に出世せり
本菩薩たりし時 常に一切樂をほどこして 他を不殺不惱 忍心大地の如し 我今稽首して 忍辱大導師を禮す 我今稽首して 慈悲大丈夫を禮す 自ら生死の苦を免れ 能く衆生の厄を抜く 火生蓮花の如く 世間に比あることなし」
爾時世尊、次第に乞食し、諸比丘を将て本處に還至し、深く禪定に入る。七日七夜寂然不動なり。彌勒佛の弟子は色は天色の如く普く皆な端正にして生老病死を厭ふ。多聞廣學にして法蔵を守護し禪定を行ず。諸欲を離るるを得る事は鳥のたまごを出るがごとし。
爾時釋提桓因は、欲界諸天子とともに歡喜踊躍し、復た偈を説いて言く
「 世間所歸の大導師は 慧眼明淨にして十方を見る 智力功徳は諸天にまさり 名義具足して衆生を福す 願くは我等群萌類のために 諸弟子を将ひて彼の山に詣で 無惱釋迦師の頭陀第一大弟子を供養し 我等應に過佛の 著すところの袈裟を見、遺法を聞くを得ば 前身濁惡劫の不善惡業を懺悔して清淨を得べし。」
爾時彌勒佛、娑婆世界前身剛強衆生及び諸大弟子と倶に耆闍崛山に往き、山下に到り已る。安詳に徐歩して狼迹山(ろうじゃくさん・鶏足山)に登る。山頂に到り已って足大指を挙げて山根を躡めば、是時大地十八相に動ず。既に山頂に至り彌勒は手の兩向を以て山を擘ひらくこと轉輪王の大城門を開くが如し。爾時梵王、天香油を持して摩訶迦葉の頂に潅ぐ。油潅身已って大揵椎を撃ち、大法蠡を吹く。摩訶迦葉即ち滅盡定より覺めて、衣服を齊整し偏袒右肩、右膝を地に著け、長跪合掌す。釋迦牟尼佛の僧迦梨を持し、弥勒に授與して是言を作す「大師釋迦牟尼多陀阿伽度阿羅訶三藐三佛陀は、涅槃に臨む時、此法衣を以て我に付囑し世尊に奉らしむ。」
時に諸大衆は各の佛に白して言く。「云何ぞ今日此山頂上に人頭蟲あって、短小醜陋にして沙門の服を著し而も能く世尊を禮拜恭敬するや。」(弥勒出生の時代には生類は現在の数倍の大きさになっているので昔禅定に入っていた迦葉は小さく見える)
時に彌勒佛、諸大弟子を訶して「此の人を軽んずる莫れ」といひ、而して偈を説いて言く
「 孔雀に好色あれども 鷹・鶻鷂(こつよう・たか)の食する所なり。 白象は無量の力あれども 師子の子の小なりと雖も撮食すること塵土の如し 大龍身は無量なれども 金翅鳥の搏するところなり。 人身は長大 肥白端正好といえども 七寶の瓶も糞汚を盛れば穢きこと堪ゆるべからず 此人は短小
なりといえども 智慧は練金のごとく 煩惱習は久しく盡きて 生死の苦を餘すことなし 護法の故に此に住す。 常に頭陀の事を行じて 天人中の最勝なり。 若も行は無與等にして 牟尼兩足尊は遣來して我所に至らしむ 汝等當に一心に 合掌恭敬禮すべし。」
是偈を説き已って諸比丘に告げたまはく「釋迦牟尼世尊、五濁惡世において衆生教化の千二百五十弟子中頭陀第一にして身體金色なり。金色の婦を捨てて出家學道したまふ。晝夜に精進すること頭然を救ふがごとし。貧苦下踐の衆生を慈愍して、恒に福を以て之を度し、法にために世に住む。摩訶迦葉とは此人是也。」
此の語を説き已って一切大衆悉く為に作禮す。爾時、彌勒は釋迦牟尼佛の僧伽梨(そうぎゃり・重衣,大衣。9~25条の袈裟。托鉢や説法時に着用)を持し。右手を覆うふに遍ねからず、纔に兩指を覆ふのみなり。復た左手を覆ふに亦た両指を掩ふのみなり。諸人怪み歎じて先佛卑小は皆な衆生貪濁憍慢の致す所耳とし、摩訶迦葉に告げて言く、「汝、神足を現じて并に過去佛所有の經法を説くべし」と。
爾時、摩訶迦葉は身を虚空に踊せて十八變す。或は大身を現じて虚空中を満たし。大より復た小を現じて葶藶子(れきていし・いぬなずな)の如し。小より復た大を現じて身上より出水し、身下より出火す。地を履むこと水の如く、水を履むこと地の如し。空中に坐臥して身は陷墜せず。東に踊り西に沒し、西に踊り東に沒す。南に踊り北に沒し、北に踊り南に沒す。邊に踊り中に沒し、中に踊り邊に沒す。上に踊り下に沒し、下に踊り上に沒す。虚空中において琉璃窟を化作す。佛の神力を承けて梵音聲を以て釋迦牟尼佛の十二部經を説く。大衆は聞き已って怪しむこと未曾有なり。八十億の人は遠塵離垢し、諸法中において諸法を受けず、阿羅漢を得る。無數の天人は菩提心を発す。
仏を繞ること三匝、還って空より下り、佛のために作禮して有爲法は皆悉く無常なることを説く。仏を辭して退いて耆闍崛山本所住處に還り、身上より
出火して般涅槃に入る。身の舍利を収めて山頂に起塔す。彌勒佛歎じて言く、「大迦葉比丘は是れ釋迦牟尼佛の大衆中において常に讃歎せるところなり。頭陀第一にして禪定解脱三昧に通達せり。是人大神力ありといえども高心なく、能く衆生をして大歡喜を得しめ、常に下賤貧苦衆生を愍む。」
彌勒佛は大迦葉の骨身を歎じて言く、「善哉、大神徳釋師子大弟子大迦葉、彼の惡世において能く其心を修す。」と。
爾時、摩訶迦葉の骨身は即ち偈を説いて言く
「 頭陀は是れ寳藏なり。 持戒を甘露となす。 能く頭陀を行ずる者は 必ず不死の地に至る。 持戒は生天及び涅槃樂を得る。」
此偈を説き已って琉璃水の如く還って塔中に入る。爾時の説法の處は、廣さ八十由旬、長さ百由旬なり。其中の人衆、若しは坐せるも、若しは立てるも、若しは近きも、若しは遠きも、各の佛を見ること其の前にあって獨り我がために説法したまふと見る。彌勒佛の住世は六萬億歳なり。衆生を憐愍するがゆえに法眼を得しむ。滅度の後、諸天・世人は仏心を闍維(じゃい・火葬)す。時に轉輪王は舎利を收取して、四天下において各の八萬四千塔を起こす。正法の住世は六萬歳。像法は二萬歳なり。汝等宜しく應に勤めて精進を加えへ、清淨心を発し、諸善業を起こせば、世間の燈明彌勒佛身を見るを得ること必ず疑なき也。」
佛語を説き已って、尊者舍利弗・尊者阿難は即ち座より起て佛のために作禮し、胡跪合掌して佛に白して言く、「世尊。當に斯經を何と名け、云何んが之を奉持すべきや」。
佛阿難につげたまはく、「汝好く憶持し、普く天人のために分別演説し、最後の斷法の人と作すなかれ。此法の要は、名て、一切衆生斷五逆罪・淨除業障報障煩惱障・修習慈心與彌勒共行といふ」。如是に受持せよ。亦た名て、一切衆生得聞彌勒佛名必免五濁世不墮惡道經といふ。如是に受持せよ。亦た名て、破惡口業心如蓮花定見彌勒佛經とぴふぃう。如是に受持せよ。亦た名て、慈心不殺不食肉經といふ。如是に受持せよ。亦た名て釋迦牟尼佛以衣爲信經といふ。如是に受持せよ。亦た名て、若有聞佛名決定得免八難經といふ。如是に受持せよ。亦た名て、彌勒成佛經といふ。如是に受持せよ。佛、舍利弗につげたまはく、「佛滅度後、比丘比丘尼優婆塞優婆夷天龍八部鬼神等は此經を聞くを得て受持・讀誦・禮拜・供養し法師を恭敬し、一切業障報障煩惱障を破すれば、弥勒及び賢劫の千佛を見るを得て、三種菩提は隋願成就し、不受女人身にして正見にして出家して大解脱を得る。」
是の語を説きおわって、時に諸大衆は佛所説を聞いて皆大歡喜して禮佛して退けり。
佛説彌勒大成佛經
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