日々の恐怖 3月28日 心霊現象(4)
先程起きたときに開いていた5cm程の隙間は、そのままにしておいたのか閉めたのか、記憶ははっきりとしていなかったが、金縛りの中で視線だけを巡らせた結果、引き戸の隙間は前回と同じように開いたままだった。
部屋に侵入してきたそれは、やはりベッドで寝ている俺の足元で歩みを止めた。
そしてそれから目を話せない俺は、黒い靄のようなものが前回よりもはっきりとした人の形を取っていることに気づいた。
髪の長い女だ。
真っ黒な髪を腰ぐらいまで伸ばした女だが、顔ははっきりとしない。
完全に怯えきった俺を見つめていた女は、唐突に俺の足首を掴むとがくがくとベッドごと俺を揺さぶり始めた。
「 金・・・返せ、返せ、金・・・・! 」
はっきりとそんな言葉が聞こえたが、正直その時は恐怖以外の感情なんて欠片もなく、いい年して泣きそうになりながら金縛りから逃れようと必死だった。
その時、不意に力が入り物凄い勢いで上半身を起こすことができた。
ベッドから転がり落ち、とにかくその女から逃げようと顔を上げた瞬間、既に部屋には誰もいないことに気づいた。
ふと引き戸をみると、やはり5cmほどの隙間が開いたまま。
俺は何度も戸を閉め、隙間が開いていないことを確認し、俺は再びベッドに潜り込もうとした。
しかし、俺はその時に一瞬、寒気のようなものを感じた。
もう一度部屋の中を見てみると、ベランダへのガラス戸がわずかな隙間、開いていた。
流石に戸締りを忘れた覚えのない俺は、誇張でもなんでもなく、歯をがちがち鳴らしながら布団を頭からかぶって寝てしまった。
結果としてその夜、女が再び現れることはなかった。
朝、ベッドから起きようとしたときに、足首を捻った様な痛みを感じたが、特にアザやそういったものを確認することはできなかった。
ただ、俺の中で昨夜のことは夢とかではなく、間違いなく現実に起きた現象だと言う確信だけは持っていた。
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