日々の恐怖 9月22日 新宿(3)
彼が座っていたカウンター端の席は、洋ちゃんが片付けた訳でもないのに、グラスもドリンクのセットも綺麗に無くなっている。
口ぱくぱくなる俺、水を一杯貰って飲み干す。
呼吸を整え、気を取り直して、
「 ねえ、吉田さんって誰なの?」
と聞くと、
「 元々はうちのオーナーの関係の人だったんだけど、別れ話が拗れてここのトイレで吊っちゃってさ。
雨の日は、たま~に出てくるのよ。
暇な日限定なんだけど・・・。」
「 2年通ってたけど、そんな事知らんかったわ。」
「 そうね、まあ1年に1度とかしか出ないし。
でも、うち出るって言ってたでしょ?
あの人がそう。」
「 いつの間に消えたの?」
「 あんたがトイレ行ったときに、吉田さんもあんたについてッて、んで帰ってきたのはあんた一人だったから、その時じゃない?」
「 ええ・・・、俺一緒にトイレに入ったんだ・・・。
あの半畳一間みたいな空間に・・・。」
朝4時を回ったけど、梅雨空のせいかドアの摺りガラスの外はまだ薄暗い。
「 あと1時間くらい、いていい?
明るくなってから帰りたい・・・・。」
と、雨宿りがてら空が明るくなるのを待って帰りました。
もの凄く腑に落ちないというか、不可解だったのは、
“ 幽霊って、グラスやアイスバケツも小道具として出せるの・・・・?”
と思ったことです。
いやさらに不可解だったのは、洋ちゃんが俺らの肩に向かって振っていたのは、青いキャップの味塩だったと言うこと。
” あれで果たして、祓えたのだろうか・・・・?”
取り合えず、今のところ、うちに吉田さんは来ていない。
ちょっと脚色入ったけど、本当にあった不可解な話です。
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