大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 3月14日 水死体

2021-03-14 18:31:22 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 3月14日 水死体




 にわかに信じられないんだが、うちのおふくろがおふくろの祖父に聞いた話です。
母方のばあちゃんの実家は漁師の網元だったらしい。
で、おふくろの祖父(以降祖父)が、よくおふくろに話していたようだ。
 祖父が若い頃、海に出て漁をしていると水死体に出くわすことがあった。
事故にしろ自殺にしろ、水死体というのは無惨な姿で波間に浮いているんだが、不思議と船に近付いてくる。
 当時まだ戦前だから、地方の漁師で船外機のついた船なんか乗ってるはずもない。
引き離そうと必死に漕いでも付いてくる。
 小さなてこぎ船で一人で漁をしてるので引き上げるわけにもいかないし、生活がかかってるから漁を中断することもできない。
 そういう時に昔かたぎの漁師には、ある種のまじないみたいなのがあった。
と、いうのは、水死体に手を合わせて、

「 スマンが今から漁をしなけりゃならないから少し離れて邪魔をせんといてくれんか。
そのかわり、あんたを何がなんでも陸に帰してやるけん。」

ってお願いする。
そうすると水死体はいつの間にか波間に見え隠れするぐらいのところでつかず離れずに浮いている。
 で、漁を終えて帰途につく時に、

「 漁は終ったけん、今から帰るけんの。
しっかり付いてきんさいよ。」

って声をかけて帰る。
 すると、不思議と水死体はつかず離れずの距離を保って港までついてくる。
祖父が言うには、どんなになっても人間ってのは海にはおられんもんなんだろうって。
何がなんでも陸に上がろうとするのが人間の性なんでしょうね。








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