一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

FTAと農業保護

2007-03-06 | よしなしごと

私自身はWTOとFTAの違いも世界レベルと地域(または国対国)の協定の違いくらいの認識しかないので、以下は備忘録。


昨日の朝のNHK BSニュースのトピックスで、日米間のFTAに交渉入りする機運が高まってきたというのを、アーミテージ・レポートを引き合いに出しながらやっていました。
トーンも、ネックは保護主義をとる日本の農業政策だ、などと交渉開始前夜のような勢いでした。

ところがアメリカ政府全体としてはそこまではいっていないようです。
日米FTA交渉の準備は整っていない=USTR代表補
(2007年 02月 23日 金曜日 08:16 JST ロイター)  

米通商代表部(USTR)のカトラー代表補は22日、日本との自由貿易協定(FTA)交渉を開始する準備は整っていないとの認識を示した。 

カトラー代表補は「現時点では日本とのFTA交渉の準備はできていない」と発言。「(交渉開始が)不可能だということではないが、短期的には実現の見込みはない」と述べた。 

米企業経営者団体のビジネス・ラウンドテーブルと日本経団連は先月、「できる限り早急に」日米FTA交渉開始に向けた準備作業を進めるべきと表明していた。 

カトラー代表補は、近い将来の交渉開始を妨げる要因が少なくとも5つあると指摘。具体的には(1)日本政府が農産物市場の抜本改革に消極的であること、(2)日本政府が非関税障壁を通じて国内企業を優遇していること、(3)日本の官僚の間で自由化への抵抗が強いこと、(4)米国側も、反ダンピング(不当廉売)法、商船法の改正を迫られること、(5)日米両政府に「強い政治的なリーダーシップ」が必要になること──を挙げた。  

このタイミングでこういう切り口の報道をするのは何か意図とか関係方面からのプレッシャーとかがあったのでしょうかねぇ。  


それはさておき、この前とりあげたスティグリッツの本(参照)によると、アメリカの農業も補助金によって途上国の農業を圧迫しているという指摘がされていました。 
するとFTAを結ぶと、日本より生産額の多いアメリカの農業の方が打撃大きいのではないだろうか、という疑問が頭をよぎります。  

しかしFTA・WTO交渉と日本の農政改革というRIETI(経済産業研究所)の論文によるとそうでもないようです。  
これによれば、日本の農政にはつぎのような問題点があります。 

  • 日本の農業保護の水準自体はアメリカ・EUに比べても高くない。
  • それなのに、FTA・WTO交渉において農業では常に後向きの対応しかしない最も農業保護主義的な国という内外の批判があるのは、保護の仕方が間違っているためである。
  • 農業保護の指標には消費者負担(関税により消費者の購入価格を高く維持する)と納税者負担(農家に対する保証価格と市場価格との差を財政により補填(直接支払い等)する)の部分に分けられる。
  • しかも日本は米、麦、乳製品など特定の品目に保護制度が偏っている。 

そして筆者は次のように結んでいます。  

農業を保護するかどうかが問題ではない。関税による価格支持か直接支払いか、いずれの政策を採るかが問題なのである。関税引下げという外圧が来るまで改革しないというのではなく、衰退の著しい我が国農業自体に内在する問題に対処するため改革を行わなければ、外から守っても農業は内から崩壊する。EUは先んじて農政改革を行い、WTO交渉で関税引下げ、輸出補助金撤廃を提案するなど積極的に対応している。これまでどおりの農政を続け座して日本農業の衰亡を待つよりは、直接支払いによる構造改革に賭けてみてはどうか。  

つまり、農産物保護において高関税というスタイルをとっている先進国は日本くらいなので、まず最初の関税引き下げの議論のところでつまづいてしまい、そのあとの「アメリカだって高い補助金を出しているじゃないか」という議論までたどりつけない、ということのようです。  

日本はEUなどが納税者負担型(補助金・買い上げ)に転換する中で、従来どおりの高関税型を維持しているのでこうなってしまったわけなのですが、日本では「農業への補助金」というのは国民の反対があるという政治的判断があるのかもしれません。ただ、確かに関税型の方が一般消費者へのデメリットは大きいんですよね。

一方アメリカは、上院の半数は人口のたった16%によって選出されているわけで(参照)、そうなると「一票の重み」の大きい農業地帯に政府からの再配分を手厚くしようというのは「国策」になっているのかもしれません。

そうすると、FTAの交渉上は、農業保護を関税型から補助金型に切り替えることで、農業保護について同じ土俵に乗り、上のカトラー代表補の(4)の論点に切り込んでいく、いわば「肉を切らせて骨を断つ」交渉が可能になるのかもしれません。

PS
ところで素人の素朴な疑問。
FTAが広がると、重なっている部分を通じて広域に協定の効果が広がることになるのでしょうか?たとえば日本とアメリカがFTAを結び、日本とどこか途上国の農業国A国もFTAを結んだときに、A国とアメリカはFTAを結んでいなくてもA国→日本→アメリカという順に輸出がされると、実質関税をかけられないのではないかとか。

そんな間抜けなことはないと思うのですが、時間があったら調べてみようと思います。

コメント (2)
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