表題は「イスラム」とあるのですが、イスラム圏に限らず、中央アジアやアフリカの産油国の事情まで含めて論じた本です。
ただ、著者が非常にまじめな方なのか、独自の分析や主張はほとんどなく、事実関係をわかりやすくまとめた本になっています。
たとえて言うと、東洋経済の特集記事のより大きなものを本にした、という感じです。
その意味では今が旬の本かもしれません。
逆に、事実を淡々と記述するスタイルなので、誘導的でもないため、自分なりの問題意識を持つことができます。
本書はいろいろ参考になったのですが、本書のテーマをはずれて印象深かったのが、急成長著しいドバイの首長シャイフ・ムハンマドが2004年の世界経済フォーラムで言った次の言葉
車が政治で、馬が経済ならば、われわれは馬を車の前につけなければならない。
一定の発展をとげた発展途上国においては、得られた富の再分配に走りがちになるいうへの自戒ですね。
そういえば小平にも
白い猫でも黒い猫でもネズミを捕るのはいい猫だ
という名言がありましたね。
確かに、いかに収益をあげるかという経済(=外側)の論理が幅を利かせるか、収益の再分配という政治(=内側)の論理が幅を利かせるか、というのは古くて新しい問題ではあります。
いわゆる「大企業病」というのは、安定的に一定規模の収益があがる会社において、さらなる成長を目指さずに、内向きの政治の論理が優先する状況を言うわけですから。
それはさておき、産油国の国内政治の状況や、原油の埋蔵量・輸出量・精製能力・政治的要因などをわかりやすくまとめた本です。
たとえば、産油国でも石油精製設備がないと国内へのガソリン供給が滞るので、外国からガソリンを買っている国がけっこうあるというのは目からウロコでした。
そのような国に限って、国内のガソリン価格に補助金を出すことで民意をつなぎとめていて、しかも補助金の原資は原油輸出なので、国内の人口・消費増加に伴いこういう構造の国は炭化水素(天然ガスも含め)資源の収支が産油国にもかかわらず赤字になっている(=将来採掘される原油で今の需要をまかなっている)という構造にあるそうです。
ちょっと物知りになりたければお勧めの本です。
PS けっこう「車が馬の前についている」ような組織って多いですよね・・・
![]() |