一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『エンロン』

2007-08-06 | キネマ
エンロンの隆盛から破綻までを資料映像やインタビューで構成したドキュメンタリーです。
エンロンについてのノンフィクションを書いた作家のインタビューがかなりの部分を占めるあたりはちょっと手抜きじゃないかとも思うのですが、日本での報道くらいしか知識のなかった者にとってはわかりやすくまとまってます。

「時価会計」という訳でしたけど自分の見込みで将来収益を現在価値として取り込んだ評価(それじゃ「自己会計」ですけどね)を認めさせたあたりから、組織ぐるみの不正が始まったようです。

いざ明らかになってみると、経営トップが粉飾を指示していたので内部統制云々以前の問題ですので、それ以外の感想を。


感想その1:仕組み自体はかなりすごい

昨日のエントリへのある経営コンサルタントさんのコメントにもあるように、電気はためることが出来ません。なのでトレーディングをするとしても取引を執行するためには送電を指図する必要があります。
カリフォルニアの電力危機の際に州外に電気を送って後で高値で買い戻させた場面では、エンロンのトレーディングルームでは全米の送電経路の大きなパネルがあり、トレーダーは自分の端末から売買と送電の指示が出来るようでした。
細かい仕組みはよくわからないのですが、技術的にもまた指図を担保する法的仕組みなどを含めるとはかなり高度な取引システムではあると思いました。


感想その2:「金のなる木」のうちは誰も文句を言わない

実態は利益を上げていなかったエンロンが社員に高額の報酬を出せていたのは、報酬の多くがストックオプションだったためで、根拠のない事業計画を発表してそれを「時価会計」で過大評価するというまさに株価操作そのものでした。
しかし、上がり続けるエンロン株に対しほとんどのアナリストは疑問も持たず、また疑問を持ったアナリストはエンロンが投資案件とバーターにクビにしろとプレシャーをかけたりしました(アナリストの利益相反問題はこれを契機に禁止されましたが)。

また、現金が回らなくなるとSPV(特別目的会社)を使っての(実はタコ足の)資金調達をしたのですが、大手金融機関はこぞってそこに金(といっても年金などの他人の資金でしょうが)をつぎこみました。

結局株が上がって儲かっているうちは誰も文句を言わないし、逆に自分も一口乗りたいという気持ちが勝るというのは古今東西を問わないことかもしれません。
日本でもライブドアなんかそうでしたよね。


感想その3:日本も「トラック勝負」が出来るようにならないといけない

SPV(しかもエンロンのCFOが代表者)を使っての不正など、今となっては「こんなのがまかり通るなんて」というような話が多いですが、確かに90年代では日本ではようやくSPVとかを使った資産流動化取引が出だしたころです。
今の日本は制度改正により取引スキームについてはほぼアメリカと同様のものが可能になる一方で、エンロン事件をきっかけにできたSOX法やその他の規制強化の影響などで今の日本ではアメリカ同様規制が厳しくなりズルをする余地は減っています(新興市場の上場審査などは未だに?ですが。)。

今までは日本の諸制度が遅れていたために外資系投資銀行などにカモにされていても制度を言い訳にできた(役所のせいにできた)のですが、これからは同じ土俵で勝負するとなるとそういう言い訳が効かなくなります。
今までは相当差がついていたマラソンランナーが競技場で追いついて最後のトラック勝負になってきたようなもので、そうなると相手も本気でいろんな新手の手法を駆使して蹴落としにかかると思います。
日本の(特に金融機関は)そのへんの競争に勝ちのこていかないといけませんね。

大丈夫かなぁ・・・


閑話休題

ちょうどエンロンが破綻したとき、友人が米国のビジネススクールに留学していて、そこのクラスメートに「アーサーアンダーセン→エンロン」という錚々たるキャリアの男がいたそうです。
この辺がアメリカらしいのですが、エンロン破綻が報じられた直後に学内で緊急討論が開かれ、早速彼がパネラーとして招かれました。
経歴を考えるとMBAをとったからと言ってすぐにいい就職先を見つけるのは難しかろうと友人で慰労会を開いたところ、彼曰く多少落ち込みながらも「まあ、ここ数年で"millions"稼いだからしばらくヨットでもしながらのんびりするさ」などと言って、周りをしらけさせていたそうです。

ま、そんなノリの会社だったんですね。








コメント
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