<8/8追記あり>
『やばい経済学』の後にでて一時期話題になった本書でしたが、積読のままやっと読みました。
タイトル的には二番煎じは否めないのですが、内容は本当にまっとうな本でした。
原題は"The Undercover Economist"(覆面経済学者)とあるように、身近な題材から価格決定のメカニズムをわかりやすく説明してくれます。
さらに『やばい・・・』よりも話題が企業のマーケティングから途上国問題まで幅広く取り上げています。
消費者の価格に関する鈍感さを利用したマーケティング、アフリカ諸国にHIV治療薬を先進国の数十分の一で供給することの合理性、農産物への関税が結局誰の利益にもならないこと、低賃金労働者が過酷な労働条件で働く途上国の「搾取工場」も他の選択肢がよりひどいものである中では合理的なものであることなどが語られています。
世界銀行のエコノミストの経験もある著者は、途上国の経済成長には経済の自由化と自由貿易が重要であると語っています。
ただ長期的には自由市場が機能するという立場は「今、ここにある貧困」をどうするかという問題意識を持っている人には冷たく感じられるかもしれません。
その点では、先進国の援助や融資が有効に機能しないというこの2冊とも通じる部分はあります。
多分、今の苦労を耐えることで将来が開けるという確信があれば人々は過酷な労働条件に耐えて経済発展を実現するのでしょうが(たとえば戦後の日本とか改革開放路線後の中国とかですね)、そうでない絶望的な貧困に対してどうすべきか、という問題は未だに残ります。
その昔ケインズは、価格メカニズムは長期的には完全雇用水準を回復させるという古典派の議論に対して、「長期的にはわれわれは皆死んでいる」という名言を残しました。
経済学者としても長期的な成長に至るまでの有効な処方箋がまだ書けていない(少なくとも今の処方箋はあまり有効でないと上の2冊はいっています)なかでけっこうあっけらかんと書かれているところが(本書のコンセプトと紙幅の制限で仕方ないのでしょうけど)読後感としてすっきりしないのですが、それは著者でなく読者も問題意識を持つ必要がある、ということなんだと思います。
<追記>
この本の表紙のレモンは、情報の非対称性があるときの価格決定に関する中古車を例に取ったアカロフの「レモン問題」から来ています。
不良中古車(レモン)の価格を1000ドル、優良中古車(ピーチ)の価格を5000ドルとした場合消費者は何がレモンかピーチかわからない状況では、その確率が五分五分だったと考えると3000ドルの価格を提示しますが、その価格では中古車屋は誰もピーチを売らないので、結局市場にはレモンしか出されなくなってしまうという例です。
ちょうど「溜池通信」のかんべえさんがNikkei Netに「サブプライムと肉まん」という記事を書かれていました。
「中に何が入っているかわからない」という前提では取引が行われなくなってしまう、という意味では格好の事例ですね。
『やばい経済学』の後にでて一時期話題になった本書でしたが、積読のままやっと読みました。
タイトル的には二番煎じは否めないのですが、内容は本当にまっとうな本でした。
原題は"The Undercover Economist"(覆面経済学者)とあるように、身近な題材から価格決定のメカニズムをわかりやすく説明してくれます。
さらに『やばい・・・』よりも話題が企業のマーケティングから途上国問題まで幅広く取り上げています。
消費者の価格に関する鈍感さを利用したマーケティング、アフリカ諸国にHIV治療薬を先進国の数十分の一で供給することの合理性、農産物への関税が結局誰の利益にもならないこと、低賃金労働者が過酷な労働条件で働く途上国の「搾取工場」も他の選択肢がよりひどいものである中では合理的なものであることなどが語られています。
世界銀行のエコノミストの経験もある著者は、途上国の経済成長には経済の自由化と自由貿易が重要であると語っています。
ただ長期的には自由市場が機能するという立場は「今、ここにある貧困」をどうするかという問題意識を持っている人には冷たく感じられるかもしれません。
その点では、先進国の援助や融資が有効に機能しないというこの2冊とも通じる部分はあります。
多分、今の苦労を耐えることで将来が開けるという確信があれば人々は過酷な労働条件に耐えて経済発展を実現するのでしょうが(たとえば戦後の日本とか改革開放路線後の中国とかですね)、そうでない絶望的な貧困に対してどうすべきか、という問題は未だに残ります。
その昔ケインズは、価格メカニズムは長期的には完全雇用水準を回復させるという古典派の議論に対して、「長期的にはわれわれは皆死んでいる」という名言を残しました。
経済学者としても長期的な成長に至るまでの有効な処方箋がまだ書けていない(少なくとも今の処方箋はあまり有効でないと上の2冊はいっています)なかでけっこうあっけらかんと書かれているところが(本書のコンセプトと紙幅の制限で仕方ないのでしょうけど)読後感としてすっきりしないのですが、それは著者でなく読者も問題意識を持つ必要がある、ということなんだと思います。
<追記>
この本の表紙のレモンは、情報の非対称性があるときの価格決定に関する中古車を例に取ったアカロフの「レモン問題」から来ています。
不良中古車(レモン)の価格を1000ドル、優良中古車(ピーチ)の価格を5000ドルとした場合消費者は何がレモンかピーチかわからない状況では、その確率が五分五分だったと考えると3000ドルの価格を提示しますが、その価格では中古車屋は誰もピーチを売らないので、結局市場にはレモンしか出されなくなってしまうという例です。
ちょうど「溜池通信」のかんべえさんがNikkei Netに「サブプライムと肉まん」という記事を書かれていました。
「中に何が入っているかわからない」という前提では取引が行われなくなってしまう、という意味では格好の事例ですね。