(承前)
なかなか前に進まなくてすみません。
前回の更新から10日ほどたってしまった。
恩根内駅前にある、恩根内行きバスの終点から、まっすぐ駅前通りを行く。
駅前通りといっても、店などはなく、数軒の家屋と、集落センター、郵便局がある程度。
ほかに、集落の規模のわりには不釣り合いなほどに大きな恩根内公園がある。
突き当たりを右に曲がって数分歩くと、会場の「アートヴィレッジ恩根内」が見えてきた。
初日は、十勝管内豊頃町の美術家・白濱雅也さんをまじえての鼎談があった。
大友真志さんは1978年北広島生まれの写真家。
自身が生まれ育った北海道の風景と身近な家族など人物を、やや引いた視点から見つめた写真が多い。
ことし2月に渡島管内長万部町で開かれた「長万部写真道場」のシンポジウムにも登壇していた。
佐藤拓実さんは93年北海道生まれ。
道教大を卒業後、東京造形大に学び、東京に住んでいるが、自ら「通い道民」と称するなど、北海道を意識した活動が多い。
昨秋、大きな反響を呼んだ「塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展」を企画したのも彼である。
今回の展示は、5月初旬の連休を利用して、2人が天塩川の流域や附近を行ったり来たりした際の産物で、もちろん、大友さんが写真18点(すべてカラーで横位置)、佐藤さんはドローイング36点を並べている。
点数に違いはあるが、まったく同一の場所で撮影したり描いたりしたものを、向かい合わせに陳列したのが、今回の展示の最大の特徴だろう。
佐藤さんは
「当たり前だが、写真に比べて絵は時間がかかるので、大友さんに悪いことをしてしまった」
と苦笑していた。
すべてのモティーフを克明に描くわけにもいかないので、取捨選択についてずいぶん考えたようだ。
会場中央にはテーブルが置かれて、佐藤さんが描いた流域の絵地図が広げられている。
展覧会の直前、佐藤さんがグーグルマップを参考に制作したとのこと。
天塩川が、北海道の北半分を貫通する日本有数の大河だということが、この地図で感覚的につかめるようになっている。
さて、この会場にあるものの大半は、風景写真であり、風景画である。
したがって、そもそも「風景」とは何かという考察が欠かせない。
しかし、これは一朝一夕には解き得ない問題なので、後日論じることにしたい。
風景画にまじって、シカの角を描いたドローイングなどがあるし、大友さんの写真も、いかにも絶景をとらえたというよりは、淡々と山や川にレンズを向けたという感じである。
だから、今回の展示を、例えば竹内敏信写真展や、一水会・白日展の風景画展などと等しなみに取りあつかうことはできないだろう。
近年の現代アートでは「アーティスト・イン・レジデンス」という手法が一般化してきて、ある期間アーティストがその場所に滞在し、リサーチと称してその土地について調べ、その調査の結果を踏まえて写真や映像などで展開するーということが多くなっている。天神山のスタジオでちょくちょく開かれている展覧会の大半は、その種の滞在制作である。
佐藤さんが、リサーチを行いつつも、今回はひたすらドローイングやデッサンといったある意味で「原始的」な手法をとっているのは、そうした近年の傾向に対する問題提起という意味合いもあるのかもしれない。
リサーチの部分がまったくないわけではないのだが、単なる風景画・写真展でもない。
地域の風土や歴史などの要素については、それぞれの写真やデッサンが、なんとなく含みつつも、そういう要素ばかりに頼った展開ではない、そういう展示になっていたといえるかもしれない。
こんなことを言うと、ひんしゅくを買いそうだが、展示そのものもさることながら、札幌市民など多くの人にとっては遠くにある会場にまで行くという行為・体験自体が、最大の鑑賞ポイントかもしれないーなどと思ってしまった。美深町恩根内なんて、こういう機会でもないと、なかなか行かないのだ。
2019年6月1日(土)~7月29日(月)午前10時~午後4時半、火・水・木曜日は休館
Art Village 恩根内ギャラリー(美深町恩根内25)
□ツイッター @artvillage3
http://satotakumiart.wixsite.com/kotatusima
□佐藤さんによる「こたつ島ブログ「天塩川日記」」 http://kotatusima.hatenablog.com/entry/2019/05/29/%E5%A4%A9%E5%A1%A9%E5%B7%9D%E6%97%A5%E8%A8%98_%E2%91%A0
関連記事へのリンク
■大友真志展 Mourai (2016)
■塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展 (2018)
■第10回 茶廊法邑ギャラリー大賞展 (2014)
6月1日PM2時より「鼎談 ・・佐藤拓実」
・JR恩根内駅から約820メートル、徒歩11分
・名士バス恩根内線(名寄―美深―恩根内)「笠原宅前」から約240メートル、徒歩3分
なかなか前に進まなくてすみません。
前回の更新から10日ほどたってしまった。
恩根内駅前にある、恩根内行きバスの終点から、まっすぐ駅前通りを行く。
駅前通りといっても、店などはなく、数軒の家屋と、集落センター、郵便局がある程度。
この
「かつて栄えたが、今は小集落」
の感は、津別町相生、置戸町勝山などと雰囲気がよく似ている。
ほかに、集落の規模のわりには不釣り合いなほどに大きな恩根内公園がある。
突き当たりを右に曲がって数分歩くと、会場の「アートヴィレッジ恩根内」が見えてきた。
初日は、十勝管内豊頃町の美術家・白濱雅也さんをまじえての鼎談があった。
大友真志さんは1978年北広島生まれの写真家。
自身が生まれ育った北海道の風景と身近な家族など人物を、やや引いた視点から見つめた写真が多い。
ことし2月に渡島管内長万部町で開かれた「長万部写真道場」のシンポジウムにも登壇していた。
佐藤拓実さんは93年北海道生まれ。
道教大を卒業後、東京造形大に学び、東京に住んでいるが、自ら「通い道民」と称するなど、北海道を意識した活動が多い。
昨秋、大きな反響を呼んだ「塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展」を企画したのも彼である。
今回の展示は、5月初旬の連休を利用して、2人が天塩川の流域や附近を行ったり来たりした際の産物で、もちろん、大友さんが写真18点(すべてカラーで横位置)、佐藤さんはドローイング36点を並べている。
点数に違いはあるが、まったく同一の場所で撮影したり描いたりしたものを、向かい合わせに陳列したのが、今回の展示の最大の特徴だろう。
佐藤さんは
「当たり前だが、写真に比べて絵は時間がかかるので、大友さんに悪いことをしてしまった」
と苦笑していた。
すべてのモティーフを克明に描くわけにもいかないので、取捨選択についてずいぶん考えたようだ。
会場中央にはテーブルが置かれて、佐藤さんが描いた流域の絵地図が広げられている。
展覧会の直前、佐藤さんがグーグルマップを参考に制作したとのこと。
天塩川が、北海道の北半分を貫通する日本有数の大河だということが、この地図で感覚的につかめるようになっている。
さて、この会場にあるものの大半は、風景写真であり、風景画である。
したがって、そもそも「風景」とは何かという考察が欠かせない。
しかし、これは一朝一夕には解き得ない問題なので、後日論じることにしたい。
風景画にまじって、シカの角を描いたドローイングなどがあるし、大友さんの写真も、いかにも絶景をとらえたというよりは、淡々と山や川にレンズを向けたという感じである。
だから、今回の展示を、例えば竹内敏信写真展や、一水会・白日展の風景画展などと等しなみに取りあつかうことはできないだろう。
近年の現代アートでは「アーティスト・イン・レジデンス」という手法が一般化してきて、ある期間アーティストがその場所に滞在し、リサーチと称してその土地について調べ、その調査の結果を踏まえて写真や映像などで展開するーということが多くなっている。天神山のスタジオでちょくちょく開かれている展覧会の大半は、その種の滞在制作である。
佐藤さんが、リサーチを行いつつも、今回はひたすらドローイングやデッサンといったある意味で「原始的」な手法をとっているのは、そうした近年の傾向に対する問題提起という意味合いもあるのかもしれない。
リサーチの部分がまったくないわけではないのだが、単なる風景画・写真展でもない。
地域の風土や歴史などの要素については、それぞれの写真やデッサンが、なんとなく含みつつも、そういう要素ばかりに頼った展開ではない、そういう展示になっていたといえるかもしれない。
こんなことを言うと、ひんしゅくを買いそうだが、展示そのものもさることながら、札幌市民など多くの人にとっては遠くにある会場にまで行くという行為・体験自体が、最大の鑑賞ポイントかもしれないーなどと思ってしまった。美深町恩根内なんて、こういう機会でもないと、なかなか行かないのだ。
2019年6月1日(土)~7月29日(月)午前10時~午後4時半、火・水・木曜日は休館
Art Village 恩根内ギャラリー(美深町恩根内25)
□ツイッター @artvillage3
http://satotakumiart.wixsite.com/kotatusima
□佐藤さんによる「こたつ島ブログ「天塩川日記」」 http://kotatusima.hatenablog.com/entry/2019/05/29/%E5%A4%A9%E5%A1%A9%E5%B7%9D%E6%97%A5%E8%A8%98_%E2%91%A0
関連記事へのリンク
■大友真志展 Mourai (2016)
■塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展 (2018)
■第10回 茶廊法邑ギャラリー大賞展 (2014)
6月1日PM2時より「鼎談 ・・佐藤拓実」
・JR恩根内駅から約820メートル、徒歩11分
・名士バス恩根内線(名寄―美深―恩根内)「笠原宅前」から約240メートル、徒歩3分
(この項続く)