昨日は遅い雪。夕方から真冬をおもわせるような暗い空から斜めにかすめるように強い風にのって細かい雪が札幌市内に一時降りしきり、郊外の峠はすっかり雪に覆われた。今年は春が早くて桜のつぼみが膨らみ開花間近というこの時期にしてはまとまった雪であっという間に芝生が白く覆われた。しかしそうは言ってもやはり春の雪、市内では降ってはすぐに消えてしまった。
今から8年前の4月下旬、どうしても車で北海道に行かなければならない用事があり、茨城県の大洗から苫小牧まで車をフェリーで運ばせたことがあった。その際フェリー会社の規定により北海道ではまだ冬用にタイヤの装着が必要、と言われ、結局自己責任という念書のようなものを差し入れてやっと乗せてもらったものだ。東京ではとうに桜も散り終わっているというのに、北海道との季節の違いを実感させられた。翌日、夕闇が迫る人気のない、底冷えのするような苫小牧のフェリーターミナルでフェリーを待ち、車を引き取ったことが昨日のように思い出される。
昨日ここに乗せた「暁の寺」が第三巻、「春の雪」は三島由紀夫の長編小説「豊饒の海」の第一巻で昭和44年1月5日に発刊された。この、いかにも女性的な音色をもつ題の小説が「浜松中納言物語(菅原孝標の娘作と伝えられている)」から強い影響を受けていることは間違いない。岩波日本古典文学大系として昭和39年5月6日に発行された夢と転生を描いた、長く霧の中に埋もれていたようなこの平安王朝作品が三島の想像力を掻き立てたのだと思う。そのことは、三島由紀夫がこの物語に並々ならぬ関心を寄せて同月の月報に一文を寄稿していることからもうかがえる。したがって、その4年半後、「春の雪」が出版されたのはある意味必然だといえるかもしれない。最初に「浜松中納言物語」を読んだときには物語の想定外の展開とスケールの大きさに驚かされたが、「春の雪」と併せて読むと一層趣があるように思われる。
昨日の雪が降ったことを感じさせない庭の片隅のムスカリと水仙。