缶詰blog

世界中の缶詰を食べまくるぞ!

巻き寿司の元の缶詰 from AMERICA(桜町荘セレナーデ)

2008-03-04 11:09:22 | 連載もの 桜町荘セレナーデ

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巻き寿司の元とローマ字で書いてある

「ニューヨークには、もう行かれましたか?」
 レコード店の、ジャズ担当の男が訊いてきた。
「はぇ? えっと、まだ行ってませんが...」
「そうですか。やはりジャズといえばニューヨークですよね」
「はあ」
「今度、行かれる予定は?」
「えっ? いやその...」
 時は1986年。国鉄国分寺駅近くにあるレコード店、新星堂でのことだった。大学でジャズに目覚めた僕は、自分のアパートに近いこのレコード店をよく利用していた。
 ジャズ担当の男は推定年齢40歳というところ。学生である僕に対して、いつもていねいな口をきいた。
 しかし、変わった男でもあった。僕がウィントン・マルサリスの新しいアルバムをチェックしていたら、いきなり話しかけてきたのだ。
 その第一声が「ニューヨークにはもう行かれましたか?」
 なのである。




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やっ、中身はかんぴょうではないか

 どこからどう見てもビンボー学生の僕だ。ジャズを聴きにニューヨークになぞ、行けるわけがない。
 しかし彼はあくまでも澄んだ瞳で僕を見つめる。
 何となく、話を合わせたほうがいいような気がする
「まっ、近いうちに行ってみたいですな
 妙な緊張をしたのか、言葉遣いがおかしくなった。
 しかしその言葉は、彼を満足させたようだった。
「この新譜はおススメですよ。買いです」
「はあそうですか」




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かくのごとし
このまま食べても美味

 当時の国分寺は実に魅力的な町であった。
 レコードでジャズとファンクを聴かせる、ピザの美味い店もあった。
 プロのジャズギタリスト、宮ノ上貴昭が経営するジャズバー『きりきりぶらうん』もあった。
 そして新星堂の向かいには喫茶店の珈琲館があり、そこのマスターがまた、実に個性的な男でもあった。
 そのエピソードはいずれまた書かせていただくことにして...。
 ともあれ、この缶詰さんである。
 以前ご紹介したいなり寿司の元と同じシリーズである。
 ブログ仲間のNoritanが、米国出張の際に買ってきてくれたのだ。
 今回のこの巻き寿司の元、実は食する前から、覚悟をしていた。
 米国の缶詰は、とてつもなく甘いものが多いのである。
 ましてや甘辛く煮つけたであろう、巻き寿司の元なのである。
 しかし意外や意外。そのまま食べても実に美味い。かなり塩辛いのだが、もともと寿司ネタなのだから納得である。それをそのまま食べると、酒のあてに最高である。
 何となれば今回は巻き寿司など作らず、このまま毎日ちびちびと食べていこうと思うのであった。



 内容量:240g
 原材料名:かんぴょう、しいたけ、醤油、グルタミン酸ナトリウム
 原産国:ちゃあんと日本製であった





桃屋®ザーサイ(桜町荘セレナーデ)

2005-06-30 15:29:49 | 連載もの 桜町荘セレナーデ

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「分かりはじめたmy revolution、明日を乱すこ~とさ~♪」
 川崎が軽やかに口ずさみながら、共同便所から出てきた。優の部屋に入ってきて、畳にどっかりと腰を下ろす。
「便所、すっげえ臭いなあ!」
「俺は用を足しているあいだは口で息をしてます。匂いを嗅がないようにです」隼人が妙に丁寧な説明をした。
「優は何時に帰ってくんの?」
「遅くなるって、言ってました」
「ふうん」
 川崎と隼人が、優の部屋にいるわけだ。部屋の持ち主は、まだ帰ってきてなかった。
 武蔵小金井での共同生活を解散し、3人は国分寺のアパートに引っ越していた。
 家賃は1万8000円だった。風呂はなくトイレは共同。窓には網戸さえ付いていないという極貧アパートである。
 さて、こうして一人暮らしを始めてみると、毎食キチンと飯を炊いているのは優であることが分かった。
 だから川崎も隼人も、飯の時分には優の部屋に集まって一緒に食べることが多かった。
 優は毎月、実家から米をたっぷりと送ってもらっていたのである。
 しかし、この日。
 2人は優がいない部屋に上がり込み、勝手に飯を食べようとしている。
 優は2人が食べに来るものだから、常に炊飯器一杯に飯を炊いていた。
 大らかな性格なのか、2人に文句をいうことはなかったのだ。
「あれ、今日は飯が少ねえな」川崎が炊飯器を開けて点検している。
「2合しか炊いてねえよ、あいつ」
「俺たちが食ったら、なくなりますね」
「しょうがねえよな、少ないんだから」
「しょうがないですねえ」
「まったく、あいづはしょうがない奴だ...」川崎は呟きながら自分の部屋に戻って、茶碗と箸、瓶詰をひとつ持ってきた。
 この場合の“しょうがない”とは、炊いた本人が食べられなくてもしょうがないという意味なのである。

cans

「これで飯食おうぜ」
「それはナンですか」
「バカ野郎、ザーサイだよ。知らないのか」
「食ったことないなあ」隼人も自分の部屋に戻り、茶碗と箸を持ってきた。
 隼人の部屋はすぐ隣である。川崎の部屋は強烈な臭気を放つ共同お便所の向こうであった。
「さて、食いますか」
「優君、いただきまーす!」
「おっ、このザーサイって美味いっすね」
「だろだろ!」
 カラーボックスに置いてあった優のなめ茸、ごはんですよなどの瓶詰も拝借し、2人は2合の飯をあっという間に平らげてしまった。
 キャビンに火をつけながら、川崎がコーヒーを淹れるように隼人に命じる。無論、それも優のネスカフェである。
「あれ、コーヒーが残り少ないですよ」
「ったくあいづは! コーヒーくらい買っておけよなっ!」川崎は鼻腔から大量の紫煙を排出しながら叫んだ。

 さて、数時間後のこと。
 アルバイトを終えて腹ぺこで帰宅した優は、部屋に入って空っぽの炊飯器を発見することになる。
 さらに畳には、黒いつぶつぶが付着しており、足の裏でねばついた。川崎が意味もなくネスカフェの瓶を振り回したため、中身が飛び散ったのだ。
 2人は掃除などせずに退去している。
「ナンだよナンだよこれは!」
と、優が絶叫したのかどうか。
 今となっては本人にしか分からないことだが。
 いや、ひどい話しもあるものだ。 



 昭和60年4月、国分寺にて つづく
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メンマやわらぎ(桜町荘セレナーデ)

2005-05-27 03:19:34 | 連載もの 桜町荘セレナーデ

~太字部分をクリックすると画像が表示されますです~

 しゃくしゃくしゃく...。
 犬丸が、瓶詰からメンマを一本ずつ取り出しては、丁寧に咀嚼している。
 きゅるっ。
 一本食べるごとに、キチンとふたを閉めている。最近発売されたばかりの、桃屋の穂先メンマやわらぎであった。
「あーあ、何もなくなっちまったなあ...」
 男4人で生活していたアパートの部屋には、荷物が殆どなくなっていた。居間の隅に、梱包された犬丸の持ち物が積み上げられているだけだ。
 部屋には隼人と優、その先輩である川崎と犬丸がいた。
 犬丸以外の3人は、それぞれ隣町の国分寺に引っ越しを済ませてあった。犬丸だけは東京の生活に見切りをつけ、田舎に帰ることになったのだ。
 しゃくしゃく、きゅるっ。
「しっかし、男だけでよく暮らしたよなあ...」
 川崎がキャビンに火をつけ、しみじみと言った。
「一時期はもっとたくさんいたんですよ、男ばっかり5人も6人も!」優が全員の顔を見回し、畳にひっくり返って屁を放った。
 確かに、
「なんか面白そうだから、オレも一緒に住む!」
 といって共同生活に無理矢理参加してきた男もおり、ある時期は狭いアパート内に男ばかりがうごめいていたこともあったのだ。
「異常な生活でありました」
「まあ、何にしてもや、終わりはあっけねえよなあ...」川崎はまたしみじみといった。
「犬丸、俺らのことは心配すんな。隼人がいいアパート見つけたからな」
「いいアパート? あれが?」優がすわと起き上がった。
「トイレ共同だし、風呂もないんですよ。今時、四畳半の部屋なんですよ!」
「バカ野郎、いいんだよ安ければ...」
「男はな、一度は四畳半に住まねばならないのだ!」隼人が力強く言った。しかし勢いで言ってるだけで何の根拠もない。
 しゃくしゃくしゃく、きゅるっ。
 しゃくしゃくしゃく、きゅるっ。
 しゃくしゃくしゃく...。
「あのさあ!」川崎が突然、口調を変えた。
「おめえ、いちいち食うたびにフタを閉めんなよ。女々しいやつだな」
「しょうがねえべ、食器をしまっちゃったんだから取り皿がないのっ」犬丸が反論する。
「そういうこといってるんじゃねえよ。いちいち箸で一本ずつ食って、いちいちフタ閉めんなっていってんだよ」
「ちゃんとフタ閉めないと乾いちゃうでしょっ」
「あーっ、見ててイライラするっ!」
「ま、まあまあ先輩」
 しゃくしゃくしゃく、きゅるっ。
「それ、美味いんですか」傍観していた隼人が訊いた。
「ああ、これは美味いよねえ。たまんないよ」
 しゃくしゃく、きゅるっ。
「うーっ! おめえのそういうところが、俺を苛立たせるんだ!」
 川崎は激してきた。キャビンを吸うスピードが速まった。
「ま、まあまあ。夫婦でもないんだし。へへへ」優がなだめる。
「バカ野郎っ、夫婦でたまるか!」
「俺に当たらないでくださいよう」
 川崎、隼人、優の3人は、部屋こそ別だが、みな同じアパートに引っ越したのだった。
 共同生活を解散すると決まってから、隼人がたまたま見つけてきた激安物件に(月額1万8000円である)、他の2人も安易に決めてしまったのだ。
「先輩、これからはちゃんと自分の城を持てるんですからね。もうイライラすること、ないですからね」
「おう、お前ら。これからは気安く俺の部屋に来んじゃねえぞいいな」
 川崎はまだ苛立っている。

 しかし、3人が引っ越したばかりのアパートは、これ以上はないというほどの安普請だった。試しに壁にドライバーを突き立てたら、隣の部屋に突き抜けてしまったほどである。
 これでは、自分の城も何もあったものではない。
 結局、桜町荘を出てからも、このメンバーは“へっぽこ三人組”として過ごしていくことに、まだ誰一人として気づいているものはいなかった。

 昭和60年、武蔵小金井にて つづく
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なめ茸(桜町荘セレナーデ) 

2004-09-30 05:33:12 | 連載もの 桜町荘セレナーデ
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~太字部分をクリックすると画像が表示されますです~

「どーしたんだよ、悩みがあるならいえよ」
 川崎が鼻毛を引き抜きながら訊いた。
「何でもないっス」
 隼人が答える。コンポからはオフコースの『Yes No』が、切なく流れていた。
「俺達のほかに誰もいねえんだからや、いってみろ」
「いや、そのう...」
「ほれ」
 川崎がショートピースを差し出した。二人で深々と一服する。
「予備校行くために東京に来たのに、バンド活動ばっかりやっていていいのかなって」
「そうか...」
 東京は小金井市の、桜町荘。
 男4人が共同生活しているアパートである。
 居間にいるのは川崎と隼人の二人だけだった。夜の五日市街道を走るダンプの鈍重な響きが、部屋の中まで聞こえてくる。
「やっぱ大学は受けるんだろ」
「はい」
「造形? 武蔵美?」
「まだ分かんないっす」
「家庭教師のバイトはどうなの? 教え子は調子いいの?」
 川崎は気を遣い、明るい口調で訊いた。
「はい。こないだのテストで成績上がってたから」
「そっか...」
 実際はバンド活動などと言えるようなことはやっていなかったのだが。ただ単に、受験勉強をさぼっているだけなのだが。
 青年というのは、時折、わざと悩んでみたりするのである。
「つうかれたあ~っと!」勢いよくドアが開き、優が帰ってきた。
「飯食いましたか何食いましたか」
「おめえは情緒もクソもねえやつだなあ!」川崎がいう。
「まだ食ってねえよ。腹ぺこだよ」
「今夜の炊事当番、誰でしたっけ?」
「犬丸。でもあいづ、先輩のとこに飲みに行ってんだよな。ったくよう」
「あっそうだ。昨日、家から食料送ってもらったんですよ」優が台所でごそごそと物音をたて、勝ち誇ったように宣言した。
「ほうら皆さん、なめ茸でっす!」
「おっし、そいつで飯食おう! 隼人、飯炊け。4合だぞ」川崎が朗らかにいった。
「やっぱ勉強が第一だよ。オレらに付き合って無理にここにいること、ないんだぜ」
「ナンですか誰がここにいるんですか」優がベンジャミンを撫で回しながら言った。
「うるっせえなおめえは。あっそうだ。ババロア買ってこいよ。おごってやるぜ!」
「やったあ! ババロアですね。プリンではないんですね」優が嬉しそうに確認した。


 昭和59年、武蔵小金井にて つづく
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妙高なめ茸、信濃高原なめ茸
内容量:160g(120g)
原材料名:えのき茸、醤油、糖類(砂糖、ブドウ糖果糖液糖)、食塩、酵母エキス、調味料(アミノ酸等)、クエン酸、増粘多糖類、酸化防止剤(ビタミンC)・(原材料の一部に小麦を含む)
原産国:日本

信濃高原なめ茸のほうが、甘みが強いようである


白桃黄桃(桜町荘セレナーデ)

2004-06-28 03:03:27 | 連載もの 桜町荘セレナーデ

~太字部分をクリックすると画像が表示されます~

「おい、俺の桃缶を見なかったか?」
 川崎が鼻をほじりながら、誰にともなく尋ねた。穏やかな日曜日の昼下がりであった。
「モモカンって何ですか」意思表示の早い隼人が訊き返す。
「バカ野郎。あの、あれだ、ん~」引き抜いた鼻毛をしげしげと眺めながら、川崎はたおやかな眉を寄せた。
「桃の缶詰だよ」
「ああ、あれか。見てないですねえ」
「おい優、お前は?」川崎はDX-7を弾いていた優に訊いた。
 優の弾いていた曲は『戦場のメリークリスマス』、通称センメリであった。
 数年後にはプロとしてデビューし、いつかは武道館でライブをやるのだという大きな目標を掲げている若人4人なのだが、本来はジャズ&フュージョンをやるはずなのである。
 しかし練習している曲はセンメリだったり、エリック・サティの『ジムノペディ』だったり、はたまたオフコースの『さよなら』だったりして、いかにも不成功に終わりそうなへっぽこ4人組であった。
 さて、桃缶の続きである。
「はあ、なんスか?」優は大儀そうに言った。
「なんスかじゃねえよおめえはよ桃缶知らねえかっていってるんだよ」川崎は苛立ちを露わにした。
 そうしながらも、彼自身は座椅子をどかしたり台所に行ったりと本気で探していた。
 彼は桃のシラップ漬け缶詰が大好きな青年であった。
「うっひゃー、このベースライン! どうやっだら思いつくんだべ」お国訛りが一番激しい犬丸が、奥の六畳からすっとんきょうな声をあげた。一人でラジカセを聴いていたらしい。
「何を聴いてたんですか?」意思表示の早い隼人が尋ねる。
ビリー・ジョエルのストレンジャーを聴いでだのや」
「いいっすねえ! ステレオでみんなで聴きましょうよ」
「んだんだ、みんなして聴くべ。そんでベースラインを勉強するぺ」
「おおい、桃缶知らねえかっ!」とうとう川崎は大声を出した。
「ん? 何だよ」犬丸が尋ねる。
「いつもの桃缶がねえんだよ。お前、食わなかったか? 正直にいえば許してやる」
「俺は食ってねえな」
「おいお前ら、本当は食ったんだろ」
 川崎は後輩二人を睨みつけた。しかしいくら怖い顔を作ろうとしても、話題は桃缶である。迫力を出すのは難儀である。
「俺は甘いものは食わないんですよ」隼人がいった。
「バカ野郎! あれはフルーツだ。甘いものとは違うんだ!」
「だってあれシラップに入ってるじゃないですかあ」
「お前な、食ったら食ったっていえよなっ!」
「くぁーっ、このピアノの歯切れの良さ、すんげえ!」
「やっぱビリー・ジョエルは天才っすねえ」
「先輩、ババロアを買ってきましょうか」優が意味の分からぬ気遣いを始めた。
「おーいっ! 話しを聞けっ! 桃缶だって言ってー」
「俺、ババロアとポカリスウェットを買ってきますね」
 優はヤマハDT200に乗って、行ってしまった。
「あんの野郎っ」
「くぅーっ、このベースライン! どうしだら思いつくんだべ? なあ隼人」
「いいっすねえ」
「お前らああっ、頼むから俺の話しを聞いてくれえっ!」
 さて、犯人はだあれ?


 昭和59年、武蔵小金井にて つづく
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~いとしの白桃黄桃缶詰~ 
 白桃缶詰は、岩手、山形、福島などの各県で作られています。製品は、糖度18%以上のヘビーシラップが多く、二つ割り、四つ割りがあります。原料は大久保や白鳳が代表的な品種です。
 黄桃缶詰は、日本の白桃とアメリカ系の黄桃を交配して育成した缶桃という缶詰専用の黄桃を原料に作られます。産地は山形、福島などです。
 参考資料 (社)日本缶詰協会発行 かんづめハンドブックより
 
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