エリートと書いてエリテと読む
スペイン・フレド社のアンチョビだ
今日はものすごい缶詰を用意してしまった。
昨今の暗い世相を吹っ飛ばす缶詰であります。
それはスペインのアンチョビ缶なのであります。
「んと、アンチョビがどーしたの?」
こう思われる読者諸賢よ、よくお聞きいただきたい。
このアンチョビ缶は、内容総量50g、固形量30g(つまりよくある小さなサイズ)で、お値段が何と税込1,365円なのだ。
ウソじゃありませんよ。
それがどれだけ破格かというと、例えば明治屋ストアーなどでよく見る同じスペインのロレアのアンチョビは税込353円。
これだって充分美味しいのだが、本日のエリテはその4倍近い値段だ。
ということは、お味も4倍美味しいのだろうか。
早速、これから検証してみよう。
いざ、開缶。
いつもより慎重に開けてしまったが、開け具合はいたって普通である。
それよりも、このエリテ。要チルド配送品となっている。そして、買ったあとも
「冷蔵保管してくれ」
こう言っている。
ウソじゃありませんよ。
確かにアンチョビ缶は冷蔵するべきだ。カタクチイワシの身をおろして塩蔵し、オイル漬けにしたのがアンチョビ缶であって、最後に加熱殺菌はしていない。
だから、アンチョビ缶は、厳密には缶詰と言えないのであります。
常温のまま置いておくと、熟成が進んで身が溶けてきて、パスタのソースなどに使うには都合がいい。
しかし色は黒ずみ、風味もはっきりと判るほど落ちる。さらに常温で置いておき、賞味期限を過ぎると、缶が膨らんできて、開けたときにオイルが飛び散ったりする。
かくのごとし。
くるくる巻いてみて分かったが、このアンチョビは身がしっかりとしている。そう簡単に身割れしないのであります。
色合いも実に鮮やか。スペイン北部のカンタブリア海で獲れたカタクチイワシを使っているが、何でもその海域のアンチョビは世界一のグレードとされているらしい。
ちなみにNo.2はシチリア産、No.3はアルゼンチン産だそうな。漁師のみなさん、ご苦労さん。
では、失敬してひと口...。
やっ、アンチョビにしては塩辛さが強くない。1尾をぺろりと食べられるほどだ。
歯応えがしっかりしていて、それでいて、しっとりと柔らかい。噛んでいると、芳醇な発酵食品特有の香りが鼻から抜けていく。
これを「海の生ハム」と呼ぶ人がいるらしいが、いい例えだと思う。
これは生食に最高であります。加熱して使うのは、もったいないもったいない。
内容総量:50g
固形量:30g
原材料名:カタクチイワシ、食用オリーブオイル、食塩
原産国:スペイン(フレド社 輸入販売:東京・ATS-FOOD)
缶詰ブログを始めたのは2004年6月のこと。
折しも、缶詰生誕200周年の年であった。
(缶詰は1804年、ナポレオン帝政下のフランスで誕生)
2004年というと、政治家の年金未納問題が続出した年だ。一方で、小泉純一郎首相が北朝鮮を訪問し、拉致被害者の家族5人を帰国させた年でもある。
もう、7年も前のことなのだなァ。
筆者が幼い頃、ちあきなおみの『喝采』の
「あれは三年前...」
という部分を聞いて、
(自分も早く大人になって、そんな台詞を言ってみたい)
こう思ったことを憶えている。
ところが、今では3年なぞ、つい
(こないだのことだな)
こう思う。
先の東日本大震災では、岩手・宮城の缶詰企業が壊滅的な被害を受けた。
そして、岩手県釜石市に嫁いだ筆者の妹も、震災の犠牲者となってしまった。
鵜住居地区に住んでいた妹は、地震の直後、夫や義母と一緒に、昨年建てられたばかりという地域防災センターに避難したらしい。
その2階建ての建物には200人くらいが避難したという。そこに津波が襲いかかったのだ。
片方の窓ガラスを破った津波は、内部に真っ黒い海水を充満させた。1分かそこら、中が「水槽状態」だったという。
やがて反対側の窓ガラスが破れ、海水は外に流れ出た。それまで、天井部分にわずかにあった空間で呼吸できた人が生き残った。20人程度だったという。
妹の夫も生き残ることが出来た。津波が襲いかかったとき、彼は妹と母を抱きしめたが、波の圧力にはとても抗えなかったという。
水が引いた後に、2人の姿はなかった。そして20日になって、妹の遺体が発見されたのだ。義母はまだ行方不明のままである。
妹はこのブログにも何度か登場している。
そもそも幼い頃、妹と一緒に夢中になって観たグラハム・カーの『世界の料理ショー』が、筆者を食べ物の世界へ引き込んだのである。
『トムとジェリー』もお気に入りだった。あれには缶詰の肉やチーズをたっぷりと挟み込んだ、厚さ30センチくらいのサンドイッチがよく登場したのだ。
「お兄ちゃん、トムとジェリーのサンドイッチ、いつか食べてみたいね」
「一度でいいからコンビーフを丸ごと食べたいね」
妹はこんなことをよく言っていたものだ。
食べ物は食欲を満たすだけではないのですなァ。それぞれに想い出の食べ物というのがあるし、同じ物でも食べる場所、相手で味が変わる。それに、各地の食文化まで分かってしまうのだ。
妹のためにも、美味しくて楽しい缶詰を、これからもどんどん取材して食べていこうと思っている。