小学生の頃に愛読していた児童書に、様々な国の民族とその風俗を紹介していたものがあった。アザラシの毛皮をまとったエスキモーや、鮮やかな織物のチョッキを着た南米インディオなどが写真入りで載っていたのだ。それらの中で今でもはっきりと憶えているのは、アフリカの子供の写真である。『おやつのじかん』というタイトルで、『はちのすはいちばんのぜいたく』と説明が添えてあったと思う。そうして輝かんばかりの黒い肌の子供が、蜂蜜にまみれた蜂の巣を頬張っていたのだ。
私は妹とつばきを飲みながら、その写真を眺めたものだった。“はちのす”はハニカム構造(六角形の集合体)の白い板状のもので、我らがアフリカの子供は、真っ白い歯で実に嬉しそうに齧りついていた。
「お兄ちやん、“はちのす”てどんな味だらうね」
「さくさくするのか知らん」
「ああお兄ちやん、一度でいいから、かのやうな甘味を食してみたい」
「そのやうな贅沢を父母に言つてはならぬぞ。言へば父母は悲しむであらう」
「だうして悲しむのか知らん?」
「お家はビンボーだから、かのやうなハイカラは買えぬ」
ああ、あれから早幾年月か。本日ふらりと成城石井さんに立ち寄ったところ、瓶詰めさん特売品としてあの『はちのすはいちばんのぜいたく』があったのである。
この日をどんなに夢見たことだらう。
一日千秋の思い、であった。
艱難辛苦を乗り越えて、でもあった。
かくのごとし。オレンジの蜂蜜自体も美味い。それを手元にあった塩気の強いチーズにとろりとかけると、こいつは実に美味であった。そうしていよいよ満を持して、蜂の巣を取り出して口中へ。
“さくさく”でもあり、“ねちねち”でもある。味は無論蜂蜜なのだが、噛み噛みしていると最後には味のないカスが舌のうえに残ってしまった。「これがプロポリスかなあ」と思いガマンして、奥歯で噛み続ける。
くきゅくきゅコシコシ くきゅくきゅコシコシ
あああダメだ、不味い。いつまでも溶けなくて、まるで石油加工物みたいな食感。あえて例えればワックスである。勿論そんなもの食ったことはないが。
妹よ、ともかく俺はあの頃の雪辱を果たしたぞう。人間万事塞翁が馬だぞう。
この記事は幼い頃の想い出を書いていらっしゃる『*BoardwalK*』の“雪の思い出”にトラックバックするのである。作者のだいなごんさんも蜂蜜好き好き仲間なのである。
『今日は何日?』“ミツバチは泣いてるぜ”にもトラックバックするのである。
内容量:227g
原材料名:ハチミツ
原産国:米国
後日談:トーストに巣ごと垂らして焼いたら、きれいに溶けました。美味の極み。