カヌーに積んだ缶詰は水浸しになって波にもまれ、みんなラベルがとれてしまった。食事の時、缶を開けるまで、中身が何であるか判らない。ベーコンだろうと見当をつけて開けると豆が出てきたりして、これは激流を行くよりスリルがあった。
野田知佑『ユーコン漂流』 文春文庫
我が缶詰さんたちに最も似合う風景というのは、やはり野外である。それも“荒野”とか“海上”という、出来るだけ荒っぽい風景。
開けた缶詰は、皿によそったりせずに、缶から直に食う。手を休めて置くときも、草の上とか木の上に、直に置く。
粗野。無骨。率直。虚飾を知らず、澄明。
嗚呼、我が缶詰さん瓶詰さんこそ、くだらないグルメブームに真っ向から立ち向かう戦士たちなのである。
前回の『さんま塩焼』に引き続き、今回もニッスイ。『さば照焼』である。
美味そうな調理見本の写真が印刷されていて、色合いもブルー主体で爽やか。我が国の缶詰さんは、パッケージも良く出来ているなと思わせるのである。
一方、海外の缶詰さんは、ラベルが紙製であることが多い。冒頭でご紹介させていただいた、カヌーイスト野田知佑氏の経験したようなことは、しょっちゅう起こりうることだ。
同様のことが、別の冒険家の手によって書かれている。そちらもここで、ぜひご紹介させていただきたい。
この紙のレッテルは、ぬれたとたんにはげてしまうし~中略~どの罐詰も見分けがつかなくなり、肉罐一つがほしいのに、ロシヤ・ルーレットよろしく大騒ぎをやらかす羽目になる。
R・ノックス=ジョンストン『スハイリ号の孤独な冒険』草思社
そうして、今回の『さば照焼』であるが。
なんとも凡庸な味なのである。食感が、焼き魚というよりも水煮に近い。
『さんま塩焼』が素晴らしかったので、過剰な期待をもって臨んだ姿勢がいけなかったのかも知れぬ。
「ふっくらとしていない...」咀嚼しつつ、追求する。
「骨は固めか。そこは水煮と違うな」細かく分析する。
「タレも平凡ではないか」くどくど言い続ける。
ここで私は、はっと気づくのである。
これでは私もグルメ野郎ではなひか。
嗚呼、読者諸賢よ。荒野は遙か遠いなあ。
原材料名:さば、砂糖、醤油、みりん、清酒、食塩、増粘剤(グァー)、調味料(アミノ酸)、(原材料の一部に小麦粉を含む)
固形量:70g
内容総量:100g