缶詰blog

世界中の缶詰を食べまくるぞ!

缶詰のある風景『北極圏一万二千キロ』

2012-01-22 18:15:03 | 連載もの 缶詰のある風景

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Sotomichiさんにもらったトナカイ缶
別名はカリブー。シカの仲間である

 しかし、とにかく一頭仕とめたのだ。カリブーを、射ちとった山腹から橇にのせて乗越しの所まで引きおろす。今日の行動をうちきり、テントを張ってカリブーを解体し、肉を犬に与えた。私も湯気の上がる新鮮な肝臓をナイフで切って食べ、ついで煮て食べた。犬と私が満腹しても、カリブーはまだ半分残っている。食料に不安を感じだしていた矢先だったが、これでもう白熊に襲われるか、海水に落ちこみでもせぬ限り、死ぬことはないだろう。
 植村直己『北極圏一万二千キロ』




 筆者には時折、
「荒野に行きたい」
 という強い衝動が起こる。
 誰もいない草原にテントを張り、火を熾し、満天の星の下で眠るのだ。
 その思いはあまりにも強い。いつからそんな衝動が起こるようになったのか、我ながら不明である。
 実際は、年に一度もキャンプに行けないのが現状で、そのフラストレーションは主に読書で解消しているのであります。
 冒険物や探検記で楽しみなのが、食事のシーン。
 極寒の雪原や灼熱の砂漠で、果たしてどんな食べ物にありつけるのか。それはどんな味なのか。
 ということで、本日の缶詰はトナカイ(カリブー)の缶詰であります。




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 さあ開缶!
 内容量400gという大きな缶に、トナカイの肉がぎっしりと詰まっている。
 まずはひと口、頬張ってみると...。
 羊肉に似た匂いが鼻を抜けた。羊ほどバター臭くはないのだが、例えば冷凍のラム肉と豚肉を解凍し、一緒に煮込んだような、そういう匂いである。
 歯応えは豚バラ肉に近くて、噛み応えのあるところと柔らかいところが混ざっている。
 匂いが強いため、このまま食べ進むのはためらわれた。そこで少々、手を加えることにした。




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 トナカイ肉にホールトマト(缶詰)とパセリ、ニンニクを混ぜ込み、軽く煮込んでみる。
 そこから立ち昇る匂いは、ますますラム肉的な匂いとなった。
 これは筆者にとってたまらなく郷愁を誘う匂いである。
 なぜなら、冬山に出掛けるときによく持参したのが、冷凍のラム肉だった。安くて大量に買えるからだ。
 凍りついたスライス肉をアルミのフライパンで焼くと、狭いテント内にはラム肉臭が充満した。
 ダイナモライトという手動発電式ライトで、友人と交互に手元を照らしながら、焼きたてのラム肉を頬張ったものだ。




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 かくのごとし。
 トマトもニンニクもパセリも、匂いを消すには素晴らしい効果がある。
 さっ、そこでひと口食べてみると、普通に美味しい料理となっていた。
 ラム肉をうまいこと煮込んだ、そういう料理である。
 美味しいからパクパク食べ進む。しかし、何かが違う気がする。
 荒野を求め、植村直己まで引用したのに、これでは完全なるインドア派グルメ野郎ではないか。
 しかしウマいものはウマい。納得がいかぬが、どんどん食べ進む。
 ああ、読者諸賢よ。荒野は遠いのだなァ。




 内容総量:400g
 固形量:300g
 原材料名:フィンランド産トナカイ(75%)、水、コーンスターチ、植物油、塩(0.6%)、シーズニング
 原産国:フィンランド





缶詰のある風景『フィッシュ・オン』

2010-07-25 14:13:02 | 連載もの 缶詰のある風景

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 銀山平は一年のうちでほぼ半分近くが雪で蔽われる。電気も、ガスも、水道もない。年賀状が五月に配達される(中略)。
 話を聞いているうちに私は六月、七月、八月と一夏をここにこもって暮らしてみようと思いたった(中略)。
 私は小説を書きたかったのである。
 開高健『フィッシュ・オン』

 純文学を書き、そのかたわらで世界中を釣りしてまわった開高健氏。彼はしばしば
「日本のヘミングウェイだ」
 なぞと言われる。
 しかしその文体は、ヘミングウェイとはまったく違う。ヘミングウェイが情景描写の簡潔なセンテンスで進めていくのに対し、開高健は修辞に徹した濃密、重層的な文体なのだ。
 冒頭で紹介したのは、釣りの紀行文の一部。新潟と福島の県境にある銀山湖という、釣り人には憧れの場所で大岩魚を狙いつつ、氏は小説を書こうとする。
 大岩魚と聞いて眉がピクリとしたあなた。あなたこそ、街に生きても心に常に荒野を持っている御仁でありましょうな。




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 これは日本初の岩魚を使ったリエットだ。
 しかも1kgを超える大岩魚を使っているという。
「そんなバカな!?」
 そう思われる太公望諸賢も多いと思う。
 使われる岩魚は「柿島の大岩魚」と呼ばれる養殖魚。伊豆天城山から流れる清流・地蔵堂川で、こだわりの餌で育てられているらしい。
 そして、リエットとは何ぞや。
 リエットはフランスの料理法のひとつで、肉などをペースト状にした保存食のこと。元来はラードでじっくりと煮込むらしいが、今ではパテとほぼ同じものと考えていいと思う。




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 かくのごとし。
 バタール(フランスパン)にたっぷりと大岩魚のリエットを塗りつけ、ありあわせの野菜を少々、添えた(ピーマンとドライトマト)。
 では失敬して、ひと口...。
 やっ、何と濃厚なコクと旨味。
 まずバターの芳醇な香りがあって、同時に鮭のような風味が立ち昇ってくる。
 さもありなん。イワナはサケ目サケ科なのだ。
 とはいえ、岩魚には野趣溢れる独特の香りがある。筆者が釣り上げた岩魚を塩焼きで食べたときは、魚というより小動物の肉を食べているようだったのを憶えている。
 ともかく濃厚、芳醇。まるで開高健の小説である。
 間もなく発売開始というまったく新しいこの瓶詰。静岡の柿島養鱒から販売される予定だ。

 折しも今年は、開高健の生誕80周年。
 もし彼が存命ならば、こんな瓶詰を見て
「オーパ!」(驚きを表すスペイン語)
 と叫ぶに違いないだろうなァ。




 内容量:130g
 原材料名:イワナ、生クリーム、牛乳、バター、食塩、コーンスターチ、グラニュー糖、香辛料、にんにく
 原産国:日本(販売:静岡・柿島養鱒
 予定価格:2100円




缶詰のある風景『アメリカの鱒釣り』

2010-01-12 16:54:39 | 連載もの 缶詰のある風景

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可愛らしいパッケージ。ポルトガルの缶詰である

 生存中、ヘイマンの旦那は、コーヒー1杯、煙草1本、酒1杯、女ひとりとして触れたこともなかった。そんなものは愚かしいと考えていた。
 冬には2、3の鱒がヘイマン・クリークにのぼってきたが、夏が来るころには、クリークはほとんど乾上がって、魚などはいなかった。
 ヘイマンの旦那は鱒を1、2匹釣り上げると、それを挽き割り小麦とキャベツと一緒に、生で食べた。かれはすっかり年老いて、ある日のこと、全然働く気がしなくなってしまった。
 リチャード・ブローティガン『アメリカの鱒釣り』訳/藤本和子

 不条理なユーモアのちりばめられた小説(あるいは散文、詩)、『アメリカの鱒釣り』の一文である。
 ここには缶詰が登場しないのだけれど、鱒の缶詰を紹介するにあたって、どうしても引用したかった。
 何故なら、筆者は、“鱒”と聞くと独特の感情が湧き上がるのだ。
 鱒と聞いたとたん、
「このままではいられない」
 と立ち上がってしまう。
 鱒釣りの様子が瞬時に思い浮かび、そのためのキャンプの風景も思い浮んできて、いてもたってもいられなくなって、泳ぐような手つきで部屋を歩いたりする。
 他の魚だと、こうはならない。
 鱒というのはものすごく魅力のある魚なのだ。




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 ではでは、ぱきりっと開缶。
 左は「トラウトマリネの缶詰」、右は「燻製トラウトの缶詰」であります。
 開缶した途端、たまねぎ入りのマリネ液の匂いが立ちのぼり、食欲が強く刺激される。
 トラウトとは鱒のことだが、ここで使われている鱒は恐らく、ニジマスが海に下って大きく成長したものだろうと、川口貿易の方がおっしゃっていた。
 すなわちこの缶詰は、シュールストレミング缶の正規取り扱い店として有名な川口貿易が独自に輸入している商品なのだ。




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 かくのごとし。
 鱒の美しい皮がきちっと残っている。
 ハヤる気持ちを抑えつつ、まずは燻製トラウトのほうをひと口...。
 むっ、これは素晴らしく美味しいです。
 鱒の身独特のキメ細かい肉質が、口中でほどけていくようだ。そこに燻蒸香がほんのりと加わって、飲み込んだあとは何も残らない。
 もう一つのトラウトマリネは、ローリエとたまねぎの香りがよく利き、燻製トラウトよりも味が濃く感じる。
 どちらもオイル漬けのわりにはあっさりとしていて、塩っ気がとても少なく、品の良い味付けなのが印象的である。
 ただ食べるたけではもったいない気がし、これを肴にフォアローゼスのブラック(バーボン)を一杯、生でやっつけてみた。
 たちまち歓喜がやってきて、思わず一人、ニヤリと笑う。鱒は影だけを残して、遙か彼方に泳ぎ去っていくのであった。




 内容総量:どちらも90g(固形量65g)
 原材料名:燻製トラウトはます、オリーブ油、香料(天然由来)、食塩
 トラウトマリネはます、ひまわり油、トマト、酢、たまねぎ、唐辛子、白胡椒、月桂樹、食塩
 原産国:ポルトガル(輸入販売:川口貿易


 




缶詰のある風景『蟹工船』

2009-08-18 12:57:41 | 連載もの 缶詰のある風景

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「何やるんだか、分かったもんでねえな。」
「俺達の作った罐詰ば、まるで糞紙よりも粗末にしやがる!」
「然しな...」中年を過ぎかけている、左手の指が三本よりない漁夫だった。「こんな処まで来て、ワザワザ俺達ば守っててけるんだもの、ええさーーな。」
 ーーその夕方、駆逐艦が、知らないうちにムクムクと煙突から煙を出し初めた。デッキを忙しく水兵が行ったり来たりし出した。(原文のママ)
 小林多喜二『蟹工船』



 最近人気が出て、映画化もされた、小林多喜二のプロレタリア文学『蟹工船』の一文だ。
 舞台は1920年代の終わり。
 ソビエト領に侵入して蟹漁を行い、船内でカニ缶詰に加工するのが“蟹工船”。
 しかしその労働環境はあまりにも過酷で、監督は労働者への搾取と虐使を繰り返し行っていた。
 ついに耐えかねた労働者が立ち上がり、サボタージュとストライキを敢行するという話なのだが...。
 ご興味のある方は一度読んでみてもいいと思う。
 さて、本日の缶詰はその名も「大人のカニカマ」である。
 しかも、“映画蟹工船に出演”と銘打ってある。
 これは缶詰仲間のこばさんが見つけて、送ってくれたもの。感謝多謝であります。




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 さあ、パカッと開缶!
 何と、本物のカニ缶のように、硫酸紙様の紙に包まれている。
 そして周囲には、カニエキス風のかほりが漂ってきた。




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 かくのごとし。
 添え物は七味唐辛子をかけたマヨネーズとした。
 では、失敬して、一口...。
 ええっと。
 これは紛うかたなきカニカマです。
 カニというには歯応えが柔らかすぎで、しかも、どこを噛んでも均質。
 噛みしめるとかまぼこ的な魚肉の旨味がにじみ出てくる。
 しかし、これはカニカマなのだ。
 何の恥ずべきところもない、真正のカニカマなのだ。
 だからこそ、七味唐辛子マヨが活きてくる。
 そいつをたっぷりとカニ、じゃなかったカニカマになすりつけて頬張るのが、正しい食べ方といえましょう。




 内容量:100g
 原材料名:魚肉(たら、いとよりだい)、卵白、風味原料[かにエキス、調味料(有機酸等)]、でん粉、食塩、醗酵調味液、トレハロース、鶏卵、大豆油、香料、トマト色素、パプリカ色素
 原産国:日本(製造:青森県、宝幸 販売:石川県、スギヨ

 


缶詰のある風景『輝ける闇』

2009-07-19 17:28:27 | 連載もの 缶詰のある風景

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 東京から来た缶詰の餅と缶詰のゼンザイを持っていくと、森は缶詰の日本酒と、缶詰の福神漬けと、缶詰のミツマメをだしてくれた。そこへ他社の記者が何人も缶詰のタクアンや缶詰の蒲焼や缶詰の豆腐などを手みやげにして遊びにきたので、たちまち部屋が缶だらけになってしまった。
 開高健『輝ける闇』

 ベトナム戦争へ従軍記者として参加した開高健氏の、体験をもとにしたガッツのある小説の一文である。
 この小説は~開高健の作品はすべてそうだけど~心底から気合いの入った文章に溢れている。
「徹底的に正真正銘のものに向けて私は体をたてたい。私は自身に形をあたえたい」
 なんて文章が所々で表れてくるのだ。
 小説家というのはすごいなーと思う。
 さて、今回登場するのはあんみつとマンゴープリンの缶詰であります。
 あんみつ缶は何と、江戸時代から続く老舗、榮太樓總本鋪の商品なのだ。




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パッケージフィルムを取り去る
両商品ともシロップやこしあんが付属してる




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ぱかっと、開缶!
マンゴーの匂いが立ち昇る




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 かくのごとし、マンゴープリンであります。
 マンゴーという果物は、不透明な甘さがありますね。ココナツミルクっぽいべたりとした甘さ。パパイアなんかも同じで、それがいかにも南国の果物という印象を受ける。
 このマンゴープリンも、見事にそういう不透明さを表現しています。
 甘さはかなり控えめ。付属のシロップをかけると、とたんに菓子っぽくなる。




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 かくのごとし、榮太郎さんのあんみつであります。
 付属のこしあんと黒みつをかけて頬張ると、何とも懐かしいお味がする。
 大体、あんみつなんて幼少の頃以来、食べたことがない。
 思ったより甘くないもんですね。表面に黒みつがついた寒天が、涼感たっぷりで美味。
 あいだにこりこりとした豆が入っていて、これは何の味もしない。寒天やフルーツといった柔らかいものばかりなので、合間に歯応えを楽しむためのものなんだろうなーと思う。
 これ、赤えんどう豆というらしいです。
 ところでパッケージフィルムをよく眺めたら、あんみつの食し方を間違えておりました。
 缶を開けたらシロップを捨てて、寒天やフルーツの具だけになったところに、こしあんと黒みつをかけるようです。
 道理で味が薄かったわけだ。しかし、筆者には好みの甘さだったし、あんこの溶けたシロップは美味かったですぞ。




 まるごとマンゴープリン
 内容量:240g
 原材料名:プリン:砂糖、ブドウ糖果糖液糖、マンゴーピューレ、植物油脂、乳蛋白、ゲル化剤(増粘多糖類)、乳化剤、香料、酸味料、リン酸塩、酸化防止剤、シロップ:還元水飴、酸味料
 原産国:日本(静岡、清水食品



 黒みつ あんみつ
 内容総量:255g
 原材料名:本体:寒天、砂糖、桃(白桃、黄桃)、パインアップル、みかん、赤えんどう、酸味料、ゲル化剤(増粘多糖類)、乳酸Ca、黒みつ:砂糖、黒砂糖(沖縄産)、水飴、こしあん:砂糖、小豆(北海道産)、還元水飴、寒天
 原産国:日本(東京、榮太樓總本鋪