こないだの日曜日、とうとうセミが鳴いた。
梅雨入り宣言のあった翌日に、まるで真夏のような日差しが照りつけたり、そうかと思えば最近は、毎日涼しい曇り空である。
そんな中でのセミの声は、ひどく私を感心せしめた。
季節の移ろいを感じにくい現代、
(おい、オレはちゃんとここにいるぞ)
と、セミ君が声をかけてきたように思えたのである。
本日はレトロ調の缶詰さん。
なので、文体も昭和文学風にしてみるのである。
あっ、いけない。
「なので」などという文頭は、昭和レトロに似つかわしくないではないか。
ともあれ、この真いかの缶詰さん。久々のパケ買い(パッケージに惚れて買うこと)をしたものであった。
この書体に、惚れた。
うじゃけたような赤茶色に、惚れた。
ただし...。
昨今は、昭和ブームというものに便乗して、正しい昭和を知らないくせに、再現してみせるエセ商法がまかり通っている。
この缶詰だって、400円近くもしたのである。
それなりに昭和を感じさせてくれなければ、
(イカのくせに高い。やはり便乗商法か知らん)
と思うかも知れぬ。
近代缶詰の証であるプルトップ式だが、上面のアルミ素材は非常に厚い。
開缶時に「バキリッ」と、小気味よい音が響いた。
醤油色のタレに潜む真いかは、艶やかに輝いて妖艶でもある。
かくのごとし。
イカ2杯が入っているが、個体がかなり大きい。
缶詰より取り出すときに、箸にかかるずっしりとした重みが素晴らしい。この感触だけでも
(あ、少なくとも300円分は元を取ったぞな)
と思わせる。
では、失敬して一口...。
むうん...。
砂糖かミリンか、その甘みが強調されている。
現代のいわゆる「甘辛い」という味付けより、ずっと甘い。
しかしこの甘さが、何か遠い過去の記憶を呼び起こそうとしている。
これは確かに、昭和の味付けと言ってよいだろう。
筆者が半ズボンをはいて、駄菓子屋や紙芝居に通っていた頃の風景が浮かんでくる。
ニッキあめ、ココアシガレット、ソースせんべい...。
遊び終わった夕暮れ時には、少年は腹ぺこである。
魚屋の店先で焼く焼き魚の匂いに、たまらず唾を飲んだものであった。
この焼き魚の匂い、本当にたまらなかった。
そんな切なさまで想い出した分で、200円は払ってもいいだろう。
そうすると、合計で500円。充分に元は取れたようだ。
どうも昭和の人間は、金銭感覚がケチくさいようである。
内容量:280g(固形量120g)
原材料名:するめいか、砂糖、しょうゆ、寒天
原産国:日本