17 うまくいった時のことをリハーサルする
人間の心に自然に浮かんでくるのは、うれしいこと、楽しいことである。たとえば、果物の名前を思いつくままにあげさせると、たいていは好きなものの方をたくさんあげるし、好きなものから順にあげることが知られている。これは、ポリアンナ原理(快原理)と呼ばれている。
メンタル・リハーサルでも人間の記憶のこの特性を利用することになる。
ホームランを打てた時の、あのバットの振り、腰の回転をまざまざと頭に描いてみるのである。ヤマが当たってスラスラと鉛筆が走ったあの試験の時の気持ちを思い出してみるのである。気持ちのいい思い出だけに誰でも簡単にできるし、訓練の効果もあがる。
ところが、たとえば、試合や試験の前日、不安でどうしようもない時や、いらいらして眠れない時には、いつもなら簡単にできることがまったくできなくなってしまう。
こんな時は、相当に意識的にやらないと、不安やいらいらのほうのリハーサルに負けてしまう。こちらも、かなりしつこいからである。失敗したらどうしよう、負けたらはずかしい、そして、失敗して母親に叱られた場面、自分が監督に頭を下げている場面ばかりがどうしても浮かんできてしまう。
いわば、ネガティブ・リハーサルにポジティブ・リハーサルが負けてしまうのである。
こうならないための方策として、こんなメンタル・リハーサルの習慣をつけてみたらどうであろうか〔バンドラー著 酒井訳『神経言語プログラミング』(東京図書)を参考〕。
ネガティブな場面が頭に浮かんできたら、その場面をどんどん小さく暗くしていく。そして、それに関連するポジティプな場面の方を拡大し明るくしていくのである。
試合や試験などここ一番での楽しい経験も必ず過去にあったはずである。その場面を意図的に、明るく大きくイメージする。悲しくなるほうは、忘れるのではなく、そのイメージを暗くして遠くに押しやるのである。
イメージの世界は、自分で自在にコントロールできる。大きさや明るさだけでなく、色、コントラスト、スピード、鮮明度、視点の変更など、あたかも目の前の現実のまっただ中に自分がいるかのようにコントロールできる。
頭の中だけでこれをやれる自信のない人は、たとえば目のつくところに、心地よい思い出につながる写真、記録、賞状などを配置しておくのも一計である。ネガティブ・イメージにとらわれそうになったら、目を向けて華やかなイメージの世界へ自分を導くのである。