心理学は、大学での人気講義、いや人気学部、学科の一つである。心理学徒としてはうれしい限りである。
人気の理由の一つは、自分とは何者かを確認したい青年期のメンタリティに起因する悩みへの回答を心理学に期待してくれるからである。さらにマスコミに登場する多彩な(ポップ)心理学者と臨床心理学、スクールカウンセラーも、この心理学人気に極めて大きく貢献している。
時代思潮もある。
斎藤環(2003「心理学化する社会」PHP)によると、今、時代は、心理「学」主義に傾いている。物の豊かさの次は、「心の豊かさ」をである。物事を、心理「学」的にとらえる傾向が強くなっているのだ。
なお、心理「学」 とあえて、「学」がついているのは、「心理的」との違いを強調したかったからである。心については、心理学を知らなくと、誰もがそれなりに語ることができる。その語りが、心理「学」の用語を使うようになるのが心理「学」化なのだ。これには、マスコミや啓蒙書などによる心理学のポップ化によるところが大きい。
心理学徒としてはうれしい限りであるが、しかし、これが意外に心理学を学ばせるのを難しくしている。とりわけ、心理学概論の初年時講義が難しい。
長年、あれこれ試みてきたが、結局どれもこれも成功したという実感がもてない。その不全感をもったまま、講義の現場から退場することになる。残念でならない。