集中力とミス
●できそうでできない心のコントロール
心理学には世間から期待され続けてきているテーマがいくつかあります。それらに共通しているのは、いずれも、「自分でできそうでできない」心の働き、というより、いらだちにかかわっています。
記憶術しかり、勉強法しかり、ストレスコントロールしかりです。
集中力コントロールもミス防止もその一つです。
私たちには、自分で自分をコントロールしたいという願い、あるいはコントロールできているという自信が根底にあります。それが成功につながり続ければ、有能感を産み出します。
しかし、時折、厳しい現実から手痛いしっぺ返しを受けます。そして、なんでそんなことになってしまったのかを反省し、そして自分を責めることになりがちです。
成功と失敗の狭間でうろうろしているのが人間の実の姿です。
●メタ認知を鍛える
「できそう」「むずかしそう」という感覚をもたらすのは、人に備わっているメタ認知力です。メタ認知力とは、自分で自分の心と行動の状態を知り(モニターし)、さらにコントロールする力です。
したがって、メタ認知力をつけることが、集中力でミスを防止するためには有効です。
2つの方策があります。
一つは、集中力コントロールの状況を想定した内省をする習慣をつけることです。うまくいった状況、失敗した状況、あるいはヒヤリハット場面を振り返りあれこれ考えてみる習慣です。これは、メタ認知のモニター機能を高めることに役立ちます。
具体的には、日記に書く、仲間と語り合うといったことをおすすめします。
もう一つは、集中力コントロールに関する知識を豊富にすることです。知識があれば内省も豊かで深みのあるものになります。まさに「知は力なり」です。今回の連載は、これをねらっているわけですが、いかがだったでしょうか。
●心のスキルを磨く
運動にはスキルが必須なのは誰もがよく知っています。ですから運動トレーニング大事ということもよく知られていて実践もされています。
しかし、集中力のような心の働きについてもスキルがあることは意外に意識していないのではないでしょうか。当然、あまり実践もされていません。
この連載でも、心構え、あるいは、心の習慣にしてほしい提案をたくさんしてきましたが、さらに、心のスキルについても提案してきました。
それらは運動のスキルと同じで、有効に機能させるためには、それなりの反復訓練(トレーニング)が必要です。それによって初めて集中力コントロールのレベルをより高度のものにできます。
ただ注意が必要なのは、集中力スキルだけを取り出して訓練するのは、あまりおすすめしません。
たとえば、一点集中力を鍛えるために、ろうそくの火が消えるまで見つめ続けるとか、
選択集中力を強化するために、騒音の中での計算訓練をするといったものです。
まったく効果がないとは言いませんが、それだけを孤立させてそれなりの努力をしても、仕事の現場にそれを転移させるには、さらにもう一つの努力が必要となるからです。コスト・パフォーマンスが悪くなります。
それより、仕事をうまくこなすなかで集中力を鍛えるスキルを実践することをすすめます。仕事をする状況の中に集中力スキルを埋め込んでしまうのです。そうすれば、集中力訓練のコストもそれほどかからなくてすむからです。
●精神主義となじませる
集中力の発揮は、とりわけスポーツで重視されてきました。かつては、試合に臨んでの集中力アップのために「激を飛ばす」光景が普通でした。監督やコーチが、あるいは自分で「集中!!」とやるあの光景です。
スポーツ訓練の精神主義の典型ですが、しかし、これはこれでそれなりの効果があります。言葉のもつ暗示の力は馬鹿になりません。
これの効果をさらにアップするのが、集中力についての知識とスキルです。そのための連載のつもりでしたが、いかがだったでしょうか。
あなたが管理者的な立場にいたとして、部下への集中力に関して、「激を飛ばす」以外にどれほどの具体的な方策をアドバイスできるかが問われます。
あるいは、自分の集中力に関しても、どれほどの具体的な方策を考えだせるかが問われます。