2019年の9月。何年も前からいってみたいと思っていた、旭川の有名居酒屋の独酌・三四郎をたずねた。店に入るとほぼ満席だったが、カウンターにひとつ席があいていてそこに腰をおろす。まず生ビールたのむとお通しは酢豆だ。しぶいね。箸袋には毛筆の手書きで『風』とかかれている。私の前には女将さんがいて、知らなかったが特等席らしかった。
メニューを見てホッキ貝の刺身とタコの串焼きをたのむ。するとホッキは品切れだ。せっかく決まったのにねぇ、と女将さんが言う。刺身はツブ貝にかえた。女将さんは70くらいの人だが、背が高くて、知的で、押しが強い。ちょっといないタイプの女性だ。
ツブ貝はすぐにでてきた。鮮度が抜群の上物だ。包丁の仕事も見事だった。
ビールを飲み終えて、名物だと言う焼酎のとうきび茶割りにした。
でも酒がうすい。薄い酒は嫌いなんだよね。
タコの串焼きがやってきた。2本で650円だ。これも上質で、うすいしょう油味をつけて焼いてあり、噛むとほんのりとタコの甘味がのこる。
焼酎のとうきび茶割りが気に入らないので日本酒のリストをみる。カウンターにいるのは私のような、ひとり客の観光客が多かった。次は何にしようかな、と隣りの男性が女将さんに話しかけると、あれがいいんじゃないの、と答えている。若い女性は、他にもう一軒バーにゆくつもりだったけど、今夜はここで最後まで飲む、と女将さんに言っていた。
地元、旭川の国士無双の烈の燗酒をおねがいする。するとこの酒では名物の炭で焼く燗にならないとのこと。これをこの店では焼き燗と称している。北海道以外の酒は飲みたくないので烈にした。焼き燗はほとんどの客がたのむようだ。それと若どりの半身焼きの新子焼きも。
店内は年季の入った雰囲気のあるしつらえで、酒器や食器、コースターなども趣味がよく、凝っていた。
もう少し何かたべたくて、カウンターにおいてある万願寺とうがらしを焼いてもらうことにする。若い女性のスタッフに辛いのかたずねると、そうでもないとのこと。しかし辛いのは苦手なので、なるべくそうでないものをお願いすると、炭焼き担当の方がとうがらしを入念にえらんで焼いてくれた。
万願寺とうがらしは焼いた後で、一口大にカットし、かつおぶしを大量にかけて供された。シンプルでおいしい。もちろん辛くなかった。これは帰ってから自宅でも真似をしてつくってみたが、簡単で乙なつまみである。
烈はツンとくる酒だった。冷酒で〆ることにする。店のおすすめの、風のささやき、550円にした。酒の名がいささか鼻につくが、サッパリとした飲みやすい日本酒だった。
これでお会計は5400円だ。
ここの料理は刺身か炭火焼きだ。手はこんでいないが、素材がよくて、誠実な仕事をするからとてもおいしい。でも刺身にしたり、炭で焼くなら自分でもできそうである。そして有名店であるが故に、客が店を祭り上げてしまっている。客が店におもねっているところがあり、客が店に気をつかっている。
まちがいなくおいしい。文化的でセンスもいい。でも私はもういかないな。☆5点満点平均3点で4点。
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