その19「演技る(えんずる)」はこちら。
今回は“食えない科学者”のお話。性格的に度し難い(それは湯川も同様だが)のと同時に、文字通り貧乏暮らしを強いられている科学者が湯川に挑戦する。
湯川が警察の捜査に協力しているとの記事が週刊誌に載る。Y准教授となっているけれども帝都大としては面白くない記事だったかも。そしてその記事に、かつて湯川に煮え湯を飲まされた(と本人は思い込んでいる)人物の邪悪さに火をつける。
犯人が使ったトリックはきわめてシンプルでオリジナリティが感じられない。ロングレンジ・アコースティック・デバイスという音響兵器。科学者としてのレベルがこれで理解できる。
湯川が犯人を特定する方法がミステリ的には面白い。
犯行予告はネットで行われるのに、犯行声明が郵便で送られてくるのはなぜかに注目し、彼は大学のマンパワーをフル活用して犯人の手口を推理する。そして……。これって昔からある「鉛筆書きで地震予兆ハガキを用意する」パターンだ。やっぱり、オリジナリティのかけらもない。
生瀬勝久がカルチャースクールの講師などで糊口をしのぐ中年を演じてすばらしい。同じように屈託を抱える助手の栗林(渡辺いっけい)とのからみは味わい深かったなあ。
すべてを他人のせいにしかできない、弱い人間がここにいる。彼は自分の現状がすべて湯川に論破されたことにあると曲解している。カルチャースクールの講師だってきちんと勤めていれば喜びもあるはずなのに。おじいちゃんたちは興味を示さないけれども、わたしは興味津々でしたよ。
「この歩数計にも科学があります。こうやって手で振ってもカウントされないのに、歩くとカウントされる。不思議でしょう?これは加速度センサーというものが……」
ちょうどわたしが知りたかったこと。ためになりますガリレオ。
その21「聖女の救済」につづく。