山本薩夫監督 田坂啓脚本 石川達三原作
まずは、ポスターの顔ぶれをみてほしい。昔はこんな顔の羅列だけで圧倒する映画って多かった。日本の俳優は、軍人と娼婦をやらせたら抜群、とはよく言われることだけれど、もうひとつありました。薄汚い国会議員をやらせてもうまいのだ(笑)。
石川達三の原作はほとんどノンフィクションに近く、背景となったのは昭和39年の九頭竜川ダム建設をめぐる疑惑。実名でいこう。池田勇人と佐藤栄作の総裁選の資金穴埋めのために、ダム建設の入札における鹿島建設と間組の暗闘に政治家がからんだお話。
俳優たちはそっくりさん大会。神田隆は佐藤栄作を演ずるためにいるような役者だし、中谷一郎は扇子をバタバタさせて田中角栄らしさ横溢。主役となったのは当時の官房長官である黒金泰美(仲代達矢がキザに演ってます)。憶えてます?米沢のあの代議士である。官僚出身でエリートコースを歩み、しかし金にきたないとくれば鶴岡の方の人も連想させます。山形の国会議員ってばしかし。当時の決算委員会でこの問題に火をつけたのは、元祖マッチポンプ田中彰治。三国連太郎が気持ちよさそうにかましているが、議事録をインターネットで検索すると、驚くことに実際はもっと下品なやり取りがあったようだ。しかしやっぱり一番笑わせてくれるのは金融王を演じた宇野重吉か。料亭における仲代達矢との対決は一見の価値あり。
制作年ですでに30年以上前の映画だし、高校時代に観て以来だったので忘れている部分も多かったが、愛人がオバケのQ太郎を読んでいたり、やたらにみんな煙草を吸っていたりと昭和の時代色も強い。なにより、東京がまだ涼しそうなのである。
しかし、時は移れど変わらないのは政官財の癒着の構図。結果的に宇野重吉が敗れたのは、戦後が終わりを告げ、この構図が確定したからという皮肉はきいている。すべてわかっているくせに書かない大新聞の政治部、こんな情け無い図式も変わっていないことがさみしい。