第二十八回「新しき幕府」はこちら。
本来守るべき朝廷をないがしろにする幕府は腐りきっている。だからそれを刷新する勢力として織田はいる……そう描いてはいるけれども「太平記」で朝敵を魅力的に描いた池端俊策先生の脚本だからそう簡単にはいかない。いやもちろん明智光秀(長谷川博己)はそのルールに則って怒ってはいるけれども。
それでは織田信長(染谷将太)は本気で帝を守ろうとしているかといえば、もちろんそんなことはないわけで、木下藤吉郎(佐々木蔵之介)の動きは微妙。なるほど。
憎々しげに描かれた鶴ちゃん、というか摂津晴門の立場になってみよう。きっと彼はこう考えたに違いないのだ。
「今がそんなに時代の替わり目のわけがない」
実は多くの人がそう考えていたはず。誰もがこれまでの長い時代の延長線上に生活があると考えたはずで、よほどの嗅覚の持ち主だけが変革を感受できたのだろう。それで幸せになれたかはまた別の話だけれども。
みんなを幸せにしたいと考える将軍(滝藤賢一)が登場しても、世はそう簡単には動かない。いやはや黒い黒い。
快刀乱麻にアンシャン・レジームをぶち壊す存在として織田信長を称揚する人も多いけれど、どうなのかなあ。
さてドラマ的にみんながソーシャル・ディスタンスをとっているわけで、おかげで片岡鶴太郎は金銭的に汚い人間としか描かれない。これは池端センセイとしてもきつかっただろう。「太平記」で美少女である小田茜を溺愛する存在として危なさが描かれたのに、今回はそうもいかないのだ。
本来であれば尾野真千子と長谷川博己の間では、もうちょっと艶っぽいやりとりがあってしかるべきなのに。ああこれは親父の妄想にすぎないのかしら。
いやもちろん、クールな表情を浮かべるタイトルバックの長谷川博己こそがこの大河ドラマの基本線なのは承知していても。
第三十回「朝倉義景を討て」につづく。
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