第19話「VSクイズ王」はこちら。
わたしは残念ながら歌舞伎をナマで観たことがない。
おかげでそっち系の役者に暗いものだから、今回の犯人である古物商『春峯堂のご主人』(タイトルにも名前は出ず、最後まで春峯堂さんと呼ばれる)に扮する澤村藤十郎を知らないでいた。
不明を恥じます。こーんなにうまい役者が日本の芸能界にもいたのかっ!
美術館長(角野卓造)と組んであくどい商売に手を染めながら、常に上品な笑みを絶やさず、殺人も冷酷にやってのける。おそらくは歴代の犯人の中でもっとも余裕たっぷり……こんな難役を軽々と(そう見えるあたりがすごい)藤十郎は演じている。
特にうならされるのが、ドジな共犯者である美術館長を、侮蔑の表情で見下ろすあたりだ。色気たっぷり。
ただし、犯罪としては穴だらけ。すぐに底が割れるアリバイトリックにしか使えない共犯者を用意した理由がよくわからないし(一蓮托生なんだぞ、と念を押したかったのだろうが)、壺で後頭部を殴ったあとに、いくら偽装工作をしても鑑識が自殺だと判断するはずがない。
しかし今回、視聴者に向けて仕掛けられたトリックは別のところにある。
本物と偽物、ふたつの壺がありながら、なぜ春峯堂の主人は本物の壺で殺人を犯したか、だ。理由を古畑はめずらしく見誤る。そのミスを指摘するには、やはり藤十郎レベルのうまい役者が必要だったのだろう。
残念なことに、澤村藤十郎はその後患い、半身不随なのだとか。惜しい。つくづく、惜しい。
第21話「魔術師の選択」につづく。
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