「ローマ人の物語」(塩野七生)でも紹介したように、わたしはアウグストゥス=オクタヴィアヌスのことが大好きである。養父カエサルのような派手さはなく、盟友アグリッパの軍才もなく、虚弱な身体だった彼が、なぜローマの初代皇帝となったか。暗愚な皇帝が以降つづくのに、帝国が繁栄を謳歌できたのは彼の治世のおかげではないのか……
江戸幕府において徳川家康が神君となったように、ローマにおいてはアウグストゥスこそが長大な歴史のスターターとしてふさわしかったのだと思う。時代が彼のような人物を必要としていたのだ。行政職って、その段階では誰も評価してくれないもんね。
すべて二千年前の手紙、辞令、請求書などで構成された小説。しかし登場するのがオールスターですから。キケロ、マルクス・アントニウス、クレオパトラ。そして最後の最後にあいつが出てくる。
なぜカエサルはなにものも持たない親戚をわざわざ養子にして後継者に指名したのか、それはこの長大な物語を読めば納得できる。しかし、彼は決して幸福ではなかったろう。ただひとりの娘との相克、裏切りの連続、蛮族との戦いの日々、そして友人たちの死。神君はつらいよ。
全米図書賞受賞にしてジョン・ウィリアムズの遺作。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます