教室内のいじめ、教師の体罰、乗り込んでくる親、謝罪会見、緊急保護者会……この業界にいる人の、誰がこんな作品を観たいだろう。
実際、まわりの評判や、カンヌで脚本賞をとったというパッケージがなければ、おそらくスルーしていたことと思う。常に感服させてくれる是枝裕和監督作品であっても。
それに、是枝監督で安藤サクラが出ているとなれば、こういう言い方はなんだが、“読める”じゃないですか。おそらく子役やサクラの演技は例によって自然だろう、考えさせられる展開が待っているに違いない……
しかし是枝自身もその傾向を感じ取り、だから脚本を坂元裕二にゆだね、自分らしくない作品にしたかったのだと思う。そしてそれはみごとに成功している。
シングルマザーの早織(安藤サクラ)の視点、担任の保利(永山瑛太……彼はつねに××センセー、××センセーと呼ばれる。ドキドキする)の視点、そして早織の息子、湊(黒川想矢)の視点がからまりあい、次第に序盤とは違う実相が見えてくる。
かなり複雑な構成だけれども、ミステリ的に面白く観ることができる。時制が前後するので、観客はこれはどの時点のお話なのかと、たとえば少年の髪の長さ=彼はある時点で自分の髪を切っている=などで類推しながら観ることになる。
湊の同級生で、いじめられている依里(柊木陽太)の父親(中村獅童)は吐き捨てる。あいつは化け物なんだと。そして病気なのだと。
その病気とはなんなのか、が後半にならないとわからないようになっているあたりも周到だ。まったく表情を動かさない校長(田中裕子)が少年の嘘を許すのはなぜかという仕掛け。トロンボーンの音が怪物の咆哮に聞こえるあたりもすばらしい。
はたしてラストの少年ふたりの疾走は何を意味しているのか。そこへかぶさるのが坂本龍一の名曲「AQUA」なのが泣ける。さあ、怪物って、だーれだ。
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