酒のいきおいで、文科省の役人が暴走する。
「世の中には水商売ってものがあるんだから、そういう道に進む子のことも考えにゃならんだろ?」
「そりゃそうかもしれん」
「だから『水商業高校』があってもおかしくないだろ?」
「……よせよ」
「なんで?なんでだよ?てめえ水商売だけ差別するのかよ!」
かくして予算は通り、新宿歌舞伎町に『東京都立水商業高等学校』が開校する。専攻科目は「ホステス科」「マネージャー科」「バーテン科」「ソープ科」「ヘルス科」「ゲイバー科」など。
始業前には担任が教室の前で待ち受けていて、厳しい服装チェックが入る。
「何だこの髪は?染めてこんかア!」
授業も実践的。
「それでは今日は『送り』について説明するぞ。『送り』とは、終電後、ホステスやスタッフを車で送ること、およびそのための人材の……」
……面白そうでしょ。でも全編にとびかう説教の嵐の方が印象深い。この作品が処女作である元役者の室積が、高野連的なものに代表される今の教育への批判を優先させたからだ。「あの武田鉄矢氏も推薦!!」(笑)という帯が、良くも悪しくもこの作品をあらわしている。
ちなみにわたしがいちばん笑ったフレーズはこれ。
「いつまで野球を教育の一環とか言ってんですかね。だいたいスポーツで、スポーツ以外のことまでついでに教育しようなんて、教育する側が横着だっていうんですよ」
なぜ笑ったかというと、後半はこの高校の甲子園出場をめぐっての大騒ぎなのだが、甲子園球児という存在が汗と涙の青春だけではないことをわたしは十分に知ってしまっているので。
二十数年前、大火復興のシンボルとして春の選抜に出場した同級生たちは、教室ではこんな低レベルなことで悩んだりしていたのだ。
「○○にはファンレター何百通も来てて、△△にまで来てるのに、なんでオレには一通もこないんだよーっ!」
わかんねーのか鏡をみろ鏡をっ!
……2003年3月13日付「情宣さかた」裏版。さりげなく、近づく市長選への伏線をしのびこませたのだった。