それでは、今回一番気になっていた展覧会に行ってみることにしよう。
■Bunkamuraザ・ミュージアム「シャヴァンヌ展」。
「漁夫」:大原美術館所蔵作品。見ての印象は、写実・古典・陰鬱というところか。
「労働(習作)」:青木繁に近いものを感じる。
「労働」:解説にもかいてあったが、イデオロギー的なものは全く感じられず、楽しく仲間と労働という感じなのだ。
「眠り(習作)」:作品に中心点が感じられない中、沈む太陽というポイントがあるこの作品は珍しい。
「海辺の乙女たち」:描かれている人物は、バーン・ジョーンズ的相互無関心が感じられる。
「キリスト教の霊感」:薄塗りな感じはゴーギャンという印象もする。
正直なところ、「凄い作家だ」とか「大感動」という感じはしないのだが、「そういえばシャヴァンヌ見たよね」と時々思い出しそうな展覧会だった。ラファエル前派や象徴主義に近い印象を受けた私である。
ここで、両国へ移動。
■江戸東京博物館「大浮世絵展」。
「風俗図屏風(彦根屏風)」:この展覧会に行くまいかどうしようかと思っていて、入口から入ってすぐご対面。「ま、まさかあの…」、そう彦根屏風があったのだ。これだけで有頂天になる。軽やかにして繊細、屏風の中に屏風が描かれ、その水墨画もまたいい。いろいろな人物が描かれているので、シャヴァンヌのようにこちらも中心点がない感じなのだが、それぞれの人間が生きている感じが伝わってくる。これはすばらしい作品だ。わずか13日間しか展示されないので、ラッキーだった。
「微笑む美人図・若衆図」:衣装の白と黒の対比が見事だ。
奥村政信「新吉原大門口中之町浮絵根元」:室内にのみ遠近法が使われたという、斬新かつ無理な作品。
鈴木春信「雪中組合傘」:これも白と黒の対比が印象的。空摺りの細かさが良い。
一筆斎文調「墨水八景綾瀬の夕照」:黄緑とピンクの色彩は珍しいのでは。今回は大英博物館からの出品にいいものが多かったように思う。
勝川春章「遊女と燕」:もちろん肉筆画も出品されていた。これは色彩が鮮やかだ。
喜多川歌麿「四季遊花之色香 上下」:羽織から後ろの人物の顔が透けて見えるなど、細かいテクニックがいい。全体的にも着物の色や模様が賑々しい。
喜多川歌麿「錦織歌麿形新模様 白内掛」:服の部分に描線がなく、色彩の面のみで表現されている。
喜多川歌麿「難波屋おきた」:片面に女性の正面像を、そして裏面のピタリと同じ位置に背面像を刷ったもの。トリッキーだ。
東洲斎写楽「3代目市川高麗蔵の志賀大七」:あまり写楽を見る機会はないものだが、これは人物像がダイナミックに描かれた傑作だ。背景の銀地も渋いねえ。
葛飾北斎「よつや十二そう」:画題と落款がひらがなで横倒しに書かれている。西洋風サインを真似た北斎の洒落っ気らしい。
歌川国貞「五節句ノ内文月」:6人が七夕踊りで自由気ままに踊っている図。
歌川国芳「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」:ワニザメが海から浮上、白抜きの天狗たちが襲いかかるという迫力の画。
歌川国芳「猫の当字 うなぎ」:濁点は鰻の頭(半助)で表現されているのが面白い。
葛飾応為「夜桜図」:言わずと知れた北斎の娘の作品。暗闇に燈籠の火に浮かぶ女の顔と桜。ラ・トゥールの「煙草を吸う男」をもっと複雑にした感じと言ってもいいか。
一鶯斎芳梅「滑稽難波名所 桜ノ宮」:関西文化か。コミカルな作品も何点かあった。
小林清親「画布に猫」:昔の翻訳童話の挿絵っぽい、バタ臭い作品。
総出品数439点。今回の展示では約150点が展示されており、本来なら2度3度と見るべき展覧会だろう。いつも思うのだが、海外の美術館が所有している、非常に状態のよい浮世絵を見るのは、意味のあることだと思う。
館内にあった博物館の看板は、金子鴎亭の書であった。