魚のぶろぐ

2006/5/28~。現在復旧作業中です。ご容赦願います。 ぶろぐの写真はオリジナルです。無断転載はお断りします。

イトヒキアジ

2024年12月18日 22時30分40秒 | 魚紹介

このぶろぐにひさしぶりに登場のアジ科・イトヒキアジ属のイトヒキアジ。背鰭の写真は2022年にも登場していたが、全身の写真はじつに2013年以来の登場である。また写真もすべて幼魚または若魚の個体であり、大型の成魚は初めての登場である。

イトヒキアジはインドー太平洋域はもちろん、カリフォルニアからペルーまでの東太平洋、大西洋沿岸にも分布している。暖海に生息する種ではあるが、日本近海では北海道をふくむほぼ全沿岸から記録があるらしく、また日本海側ではピーター大帝湾でも獲れているらしい。

2013年に撮影したイトヒキアジの幼魚

イトヒキアジの幼魚は背鰭・臀鰭の鰭条が長く伸びることで有名である。クラゲに擬態しているともいわれ、筆者も2013年に静岡県の港で2匹のイトヒキアジの幼魚が海表面を泳ぐ様子を見ている。長い鰭条は青く光っているように見えて美しいものであった。定置網などで漁獲されたものは、黒っぽく見えた。もう少し成長すると鰭条はやや短くなり、最後は1本のみが長くなった後、やがて短くなってしまうようだ。全長は80cmほど、最大で1mほどになることもあるらしい。

ウマヅラアジ属のウマヅラアジ

従来イトヒキアジ属は本種のほか、ウマヅラアジと、西アフリカに生息するアレクサンドリアポンパノの計3種が知られるとされた。しかしながら近年のアジ科の系統解析により、ウマヅラアジとアレクサンドリアポンパノは別属Scyrisとされた。この属はキュヴィエがつくったものだがやがて使われなくなり、最近になって復活した。ウマヅラアジは東アフリカから仏領ポリネシア、インドー中央太平洋、アレクサンドリアポンパノはその名が示すようにエジプトの地中海沿岸で漁獲され、ほかに西アフリカにも分布する。しかし西大西洋や東太平洋など、ウマヅラアジ属が分布しない海域もあり、そのような地域ではヒラマナアジ属Seleneに置き換わるようだ。この属は大西洋と東太平洋の産であり、日本人にはあまりなじみがないが、観賞魚の業界で「ルックダウン」と呼ばれるものにはこの属のものが何種か含まれているようだ。

ウマヅラアジの上顎を前から見たところ

イトヒキアジの上顎を前から見たところ

イトヒキアジとウマヅラアジの違いとしては頭部の形が違う。イトヒキアジでは眼前縁で突出するが、ウマヅラアジではわずかに凹む。しかし上唇の形状でも見分けることが可能である。ウマヅラアジよりも、イトヒキアジの上唇は丸みをおびていてあまり高く突出しない。一方ウマヅラアジでは高く突出した形状になる。新大陸周辺の沿岸にすむものなどではもっと高く突出するものもいるらしい。

イトヒキアジの刺身

イトヒキアジもほかのアジ科の魚と同様に食用魚とされている。刺身は脂が非常によくのっている。脂がよくのり美味しい!と書きたかったが、たしかに美味ではあるのだが、脂ののりが強すぎて一度に多くは食べることができなかった。身は白くて美しいのに・・・。難しいところ。

イトヒキアジのフライ

いっぽうこちらはフライ。身が多くて脂も気にならない。ふわふわで美味しく、家族には大好評であった。このほか焼き物や煮物などで食しても美味しいのではないかと思われる。今回のイトヒキアジは長崎県「魚喰民族」石田拓治さんより。いつもありがとうございます。

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ニジョウサバ

2024年12月08日 18時25分36秒 | 魚紹介

先日入手したサバ科の魚。サバ科ニジョウサバ属のニジョウサバである。種標準和名に「サバ」とついている魚の一種であり、日本産サバ科魚類ではマサバとゴマサバを除く唯一の種であるが、その外見はマサバやゴマサバといった種よりもサワラなどに近いように見える。

ニジョウサバの側線(矢印)

その特徴のひとつは体側の側線。体側前方で分岐し、体側後方でふたたび繋がるというもの。側線が二つに分岐するというのはクロタチカマス科でお馴染みではあるが、サバ科では珍しいかもしれない。体側の模様も、いわゆる「サバの模様」ではなく、背中は暗色である。ただ体側中央に大きな円形斑が入ったりするので、ほかの種と見分けられるかもしれない。ただしこの円形斑は薄く、個体により入らなかったりするため、同定の決め手にはならないものと思われる。

ニジョウサバの歯

食性は動物食性。きっと小魚を好んで食べるに違いないだろう。このような小さいが鋭い歯は小魚をとらえるのに都合がよいに違いない。ちなみに、このぶろぐでニジョウサバを紹介するのは初めてであるが、触ったのははじめてではない。しかし、最初に見たときはその鋭い歯から、サワラの幼魚かと思ったものである。そのときの個体はこの個体の半分くらいの大きさだった。そういえば私はサワラの幼魚はいまだに見たことがない。定置網でもあれほど大きいのは入るのに、幼魚は全く見たことなし。

サバ科の魚は「あしが早い」(傷みやすい)ものが多く、このニジョウサバも例外ではないよう。しかし血もしっかりと抜かれており、刺身にして食べて美味しかった。身の色はピンクで美しく、サワラみたいな感じであった。左は普通に刺身。一方右は鱗を落とした後,皮は引かずに、皮のついた部分をかるく炙ったもの。カツオのたたき程ではないが、我が家でサバ科の中大型種を食うのにこのやり方が多いような気がする。以前食したヨコシマサワラもそうだった。

身は薄い赤色(ピンク色)で美しい。しかも美味しい。普通の刺身よりもこちらの方が美味しかった。鮮度が落ちやすいというデメリットはあるが、新鮮なものが手に入るような環境ならぜひとも食べてみてほしい魚である。関東でこの魚を刺身で食することができたのは鹿児島魚市場 田中水産 田中積さんのおかげ。いつもありがとうございます。

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ソウシハギ

2024年12月01日 19時22分39秒 | 魚紹介

2024年もあと1か月となりました。さてこの間届いた久しぶりの魚。フグ目・カワハギ科・ウスバハギ属のソウシハギ。

 

ソウシハギはカワハギ科の魚でメーターオーバーになることもあるらしく、この科では最大級といえる。沖縄では「せんするー」と呼ばれ、そこそこよく知られた食用魚で、市場にもよく出る魚ではある。しかし、今回の個体はそのような個体と大きく異なる特徴がある。

ソウシハギの背鰭棘

それが頭部の棘。これは背鰭棘である。カワハギ科の棘はモンガラカワハギほど強靭なものではない。ゆえに折れやすく、市場にソウシハギや、同じ属のウスバハギが並ぶときはほとんどこの棘は取り除かれてしまうのである。以前(2021年)に入手したものも、残念ながら背鰭は短く切られてしまっていた。そのため背鰭棘つきのソウシハギを入手することができるのは釣り人の特権であるとされた。しかしながら今回ついに背鰭棘のあるソウシハギを某所から購入。それも2匹。長崎県の五島列島近海、定置網に入ったものだという。ソウシハギといえば夏から秋に流れ藻などについて北上、年によっては北海道、三陸近海にもその姿を現すという。ただ冬の到来とともに死んでしまう、所謂死滅回遊魚である。ただしこの個体は五島列島産なので死滅はしないかもしれない。高知県では防波堤でメーター近いソウシハギがうろうろしていることもあり、こういうとこのは間違いなく越冬しているだろう。

前回ソウシハギを購入したのは9月。例のトンキンオリンピックがあった年である。あの年のあの季節も暑かった。そのためお刺身でいただいた。しかし今回入手したのは冬。すでに夜間は氷点下に近くなる季節で、鍋の美味しい季節でもある。そのため身を薄く切ってしゃぶしゃぶのようにして食したが、これは美味であった。そのままでも美味しいのだが、ゆずこしょうもよく合うので悩ましいところだ。ただしソウシハギは内臓に毒をもつこともあるため、身のみを食べるようにしたい。また防波堤などで釣れた個体では、びっくりするほど臭う個体もいる。そのような個体の場合、とくに血が臭いように思う。

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エイラクブカ

2024年11月28日 16時35分01秒 | 魚紹介

あまりにも忙しくぶろぐを更新できていませんでした。そんな忙しい中ですが、この間、コバンザメなどと一緒に我が家にやってきたサメの一種をご紹介。メジロザメ目・ドチザメ科のエイラクブカ。

エイラクブカについてはかつてもこの「魚のぶろぐ」で紹介したことがある。2011年12月のおわりに愛媛県八幡浜市の沖合底曳網漁業で漁獲され水揚げされたもので、全長70~80cmほどの個体。この年は12月に、エイラクブカとはしばしば混同されているシロザメも見ており、この2種を比較すると、シロザメのほうはエイラクブカよりも顔が短いのかなとも思った。

 

上がシロザメ、下がエイラクブカ

シロザメとエイラクブカは非常によく似た外見をしている。シロザメよりもエイラクブカが細くてスマートなように見えるのだが、この2種の見た目同定は怪しい。とくにこの2種が含まれるメジロザメ目のうち、メジロザメ科・メジロザメ属の魚については横からの写真で同定できる人は絶対に信用してはいけない(ただしヨゴレ・ツマジロ・ツマグロ・スミツキザメはのぞく)。

上がシロザメの歯、下がエイラクブカの歯

エイラクブカとシロザメ、その最大の違いは歯にある。シロザメの歯は小さく鈍いが、エイラクブカの口にはあまり大きくはないが鋭い歯がのぞく。基本的にこの歯の形状というのはどのような生物を獲物として捕食しているかにより異なってくる。シロザメもエイラクブカも主に小魚などを捕食する種であり、食性の違いは大きくはなさそうである。それでも歯の形状が異なっているのは興味深い。エイラクブカはヒトを襲うことはまずない(そもそもやや深場に見られヒトと出会うことは少ない)。しかし釣りあげたときに針を外すのは注意したほうがよさそうである。なお吻の腹面にある黒い小さな点はロレンチニ氏瓶の開口部である。この器官により薄暗い深い海でも獲物を探すことができる。よく見るとシロザメとはロレンチニ氏瓶の分布域が異なる。

エイラクブカはさばいてみて食した。さばく前にはアンモニア臭はそこそこあったが、切り身にして、ムニエルにしたら全く気にならない。美味しく食べられるが、個性はすくなかった。同じドチザメ科のホシザメやシロザメなどは鮮度がよければ刺身でいけるという。日本産のドチザメ科魚類は5種からなるようだが、そのうちの4種を食したことになる。このぶろぐでもドチザメとシロザメを過去に紹介した。あとはホシザメとイレズミエイラクブカであるが、前者は底曳網漁業があるような場所では容易に入手できるであろうが、後者は琉球列島の深海から得られているもので、なかなか入手できないだろう。ちなみにツマグロエイラクブカという種も日本から得られているが、本種はドチザメ科とされたりメジロザメ科とされたりで、文献も見れていないのでここでは省略。

今回のエイラクブカも長崎県のマルホウ水産「魚喰民族」石田拓治さんより。いつもありがとうございます!

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クロヒラアジ

2024年11月10日 16時43分24秒 | 魚紹介

いやー、ずいぶんと寒くなって来たものです。こちら栃木県南部は金曜朝1.5℃でございます!

「魚紹介」は3回連続でアジ科の魚のご紹介。アジ科・ナンヨウカイワリ属のクロヒラアジ。やはり従来はヨロイアジ属とされていた種で、現在は本種とナンヨウカイワリのみが属するナンヨウカイワリ属のメンバーである。クロヒラアジは以前この「魚のぶろぐ」でも少しだけ紹介したことがあったが、そのときは複数のアジの紹介の際に少し触れただけ。今回はしっかりと見ていきたい。

クロヒラアジ横帯

ナンヨウカイワリの体側。ナンヨウカイワリの黄色斑はクロヒラアジにはない

クロヒラアジは体側の横帯が明瞭で、現在シマアジと称されるもののタイプBによく似ている(死ぬと個体によっては不明瞭になる)。同じ属のナンヨウカイワリとは、体側に黄色斑がないことで見分けられる。なお、日本産魚類検索第三版では、ナンヨウカイワリについて「体に暗色横帯がなく...」とあるのだが、実はナンヨウカイワリにも生時に体側に横帯が入ることがあるので、横帯の有無で種同定はしないほうがよいだろう。

クロヒラアジの頭部

ナンヨウカイワリの頭部

もうひとつの見分け方としては頭部の形状があげられる。ナンヨウカイワリはクロヒラアジに比べると吻が尖っている。クロヒラアジは頭部がやや丸みをおびていて、吻端と眼が近い位置にあるように見える。

クロヒラアジは南アフリカからハワイ諸島までのインド—太平洋(紅海を含む。タイプ産地は紅海。イースター島にはいない)に広く分布し、わが国でも山口県日本海岸、相模湾以南の太平洋岸に広く分布している。しかし高知県のような温暖な海域ではともかく、日本海岸や関東においては冬季水温が低くなると死んでしまう、いわゆる「死滅回遊魚」である。2009年にはツバメコノシロやナンヨウカイワリが多く釣れ、某魚図鑑の某BBS(某がおおくてごめん)をにぎやかにしたのだが、クロヒラアジが釣れたという話は聞かなかった。おそらくクロヒラアジのほうがナンヨウカイワリなどよりも南方に多いのであろう。ハワイや琉球列島ではサーフからの投げ釣りやルアー釣りでの獲物である。

前回クロヒラアジを入手したのは2007年8月。やはりナンヨウカイワリと同様に「ふれあいパーク大月」(通称ふれぱ)のふれあい市で購入したものである。そのときはおなじアジ科で、当時同じ属の魚だったリュウキュウヨロイアジと一緒に販売されていた。それ以降はリュウキュウヨロイアジはちょくちょく入手することができ、食べることもできていたのだが、なぜかクロヒラアジについては縁がなかった。今回ようやく長崎県からクロヒラアジが届き、食することができたのだった。

今回はナンヨウカイワリと同じくお刺身にして食べた。美味しかったが、ナンヨウカイワリとことなりやや癖のようなものがあった。やや個性的といえるかもしれない。刺身のほか、塩焼きにしても美味しかっただろう。このクロヒラアジもほかのアジ類同様、長崎 マルホウ水産 「魚喰民族」石田拓治さんから。いつもありがとうございます。

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