先週の釣りの話。
私は普段防波堤釣りへ行くときは靴下をはかないのですがそのために悲劇がおきてしまいました。
ハオコゼHypodytes rubripinnis (Temminck and Schlegel, 1843)は、ハオコゼ科の魚の仲間で珍しく、本州・四国・九州の広い地域に生息する普通種です。釣りの外道としておなじみで、また鰭棘に毒があることでも知られています。私はこの魚に毒棘があるというのは知っていましたので、タオルに本種をつつみ、背鰭棘に触れないように慎重に針をはずしました。
もう1匹同じようにしてこの個体が釣れたのですが、この個体は結構おくまで飲み込んでおり針はずしを使ってとりました。すると、悲劇が起こります。足のくるぶしの上に落ちてしまいました。しかも背鰭がぐさっと。
ハイ、もうお分かりですね。私はハオコゼの痛みに苦しんだのでした。
痛みは結構長いこと続きましたが、夕方になってようやく痛みも引いて釣りを再開したのでした。いずれにせよ図鑑だけで「刺されると痛い」というのを実感することができたのは非常に貴重な経験でした・・・。
ハオコゼ科の魚は涙骨に大きな棘があります。この棘にも刺されていたのですがそのときにもちくりと、痛みがありました。これにも毒があるのかもしれません。
小さなカサゴみたい、でも・・・。
防波堤や地磯ではほかにも、小さなカサゴによく似ているものの、刺されると痛い、という魚がいくつかいます。
●イソカサゴの仲間
イソカサゴScorpaenodes evides (Jordan and Thompson, 1914)
グアムカサゴScorpaenodes guamensis Quoy and Gaimard, 1824
イソカサゴ属魚類は、スズキ目フサカサゴ科に属し、その多くの種類がインド‐太平洋域のサンゴ礁に生息しています。日本には9種類が生息し、イソカサゴは本州の岩礁域でよくみられる種類です。本種は釣り人におなじみのカサゴの小ぶりなものによく似ていますが、カサゴに見られる白色斑が本種には明瞭に見られず、むしろ鰓の近くにある大きな赤褐色斑が目立ちます。ほかにも背鰭棘数がカサゴに比べ多いことや、本種の頬には2棘あるのに対しカサゴでは頬部に棘がないかあっても明瞭でないなどの特徴があります。高知県の磯釣り・防波堤からの釣りではごく普通に釣れるものでした。
沖縄などのサンゴ礁や、八丈島の沿岸ではイソカサゴ属の魚がほかにも何種類か生息していて、採集できます。写真のグアムカサゴは、喜界島のタイドプールで採集したもので、引き潮の時間に子供の膝くらいの深さの潮溜まりで採集したものです。磯遊びの際にはこういう危険な魚がいることを、子供たちに注意するべきでしょう。楽しい磯遊びが台無しになっては可哀そうです。私もグアムカサゴには実際に刺されたことがあり、かなり傷みました。
●コクチフサカサゴ
コクチフサカサゴScorpaena miostoma Günther, 1877は、フサカサゴ科・フサカサゴ属の魚です。フサカサゴ属魚類は日本には5種類が分布し、多くの種類が水深100m前後の岩礁域に生息するのですが、この種類は水深10mほどの深さの場所にも見られ、釣れることがあります。フサカサゴ属魚類は、フサカサゴやイズカサゴに刺されて痛むという話がありますが、本種ではどうでしょうか。幸いにも刺されていたくなったという話は聞かないのですが注意するべきでしょう。千葉県から宮崎県の太平洋岸・日本海沿岸に分布しています。
たまにカサゴに似たマーブル模様のものがいて、体に白色斑があるのもいるようですが、頭がやや大きいことや、頬に棘があることなどでカサゴと区別できます。ほかの日本産フサカサゴ属魚類とは、胸鰭腋部に皮弁がないこと、口がやや小さいこと、側線が胸鰭上方で急にまがること、などにより区別されます。
●オニカサゴの仲間
オニカサゴ属の魚もフサカサゴ科に属し、日本からは13種類が知られます。多くの種類が琉球列島や小笠原諸島に生息していますが、本州から九州にかけての主に太平洋沿岸にも数種類が分布しています。
写真はイヌカサゴScorpaenopsis ramaraoi Randall and Eschmeyer, 2001という種類で、この個体は高知県の水深3mほどの場所で釣りました。このイヌカサゴも南日本の太平洋岸からインド・西部太平洋のサンゴ礁、岩礁、河口域に生息する普通種です。オニカサゴ属の一部の種類もやはり背鰭棘に毒があるようで注意するべき魚です。
イヌカサゴ頭部。長く伸びた赤いのは釣り針。サヨリ針って飲み込みやすいのです。オニカサゴ属魚類は、体には多数の皮弁があること、頬に多数の棘があることなどでカサゴと区別できます。オニカサゴ属魚類の同定については、胸鰭の軟条数や、頭部にある棘数などによってされますが、私のような素人が同定するには、その現物がないと難しいものです。
●カサゴ
最後にカサゴSebastiscus marmoratus (Cuvier, 1829)。カサゴの場合は体側の模様はマーブル模様であったり、白い模様が目立っていますので慣れれば先ほどまでご紹介しました危ない魚たちと区別できると思います。しかし釣りをはじめたばかりという方には、似たような魚に見えてしまうのは仕方がないでしょう。
カサゴは先ほどまでご紹介したものと比べ、眼下、頬の部分の棘が見られません。たまにある個体もいるようですが、その場合は小さく目立たないようです。ただしアヤメカサゴには眼の下に棘があります。写真に写っている棘は前鰓蓋骨で、これは旧フサカサゴ科の多くの種類に見られます。ちなみにカサゴ属魚類は、近年はメバル属やユメカサゴ属、場合によってはキチジ属とともに独立した「メバル科」の中に含まれる場合が多くなっているようです。
カサゴの棘については一般に無毒という場合もありますが、有毒というひともおり、よくわかりません。いずれにせよ棘には触らないほうがよいでしょう。