私はほぼ毎年高知の海に遠征に出かける。きれいな熱帯性の魚が多いがそのような魚を捕食するタイプの魚も多くみられる。オニカサゴ属の魚など、その代表的なものといえるだろう。今回はTwitterのフォロワーの方である「ばなんさん」さんのリクエストにお答えして、高知県の海で採集したり、見たり触れたりしたオニカサゴ属の魚を紹介したいと思う。
●オニカサゴ
オニカサゴ
オニカサゴ頭部、涙骨先端が皮下に埋没している
この個体は宿毛市の魚市場で競り落としていただいたもの。オニカサゴの仲間ではもっとも普通種であり、日本では外房から九州南岸にまで分布し、日本海岸でもたまにみられる。水深171mから記録されることもあるが、基本的には浅場に生息している。よく深場の釣りで「オニカサゴ」とされているものは、イズカサゴであることが多い。涙骨隆起の先端は皮下に埋没するが、これはほかの多くのオニカサゴ属に共通する特徴といえそうである。体側に黒い斑点があるのが特徴とされる。
●ヒュウガカサゴ
ヒュウガカサゴの幼魚
ヒュウガカサゴの成魚
ヒュウガカサゴの後頭部、くぼみに注目
ここにあげたヒュウガカサゴのうち成魚は、「魚類写真資料データベース」のKPM-NR108536と同一個体である。体側に黒い点があるように見えるが、オニカサゴほど顕著ではない。本種は眼後方に大きなくぼみがあり、オニカサゴと見分けることができる。高知県では何度か確認しているのだが、色の変異が多いため同定には難儀させられる。幼魚は大月の磯で採集し、成魚は宿毛の魚市場で上記オニカサゴと一緒に競りにかけられていて競り落としてもらった。ウルマカサゴにも似るが胸鰭の軟条数は少ない。
●イヌカサゴ
イヌカサゴ小型個体
イヌカサゴ成魚
イヌカサゴ頭部
イヌカサゴは内湾からやや沖合に面した岩礁域にまでひろく生息しており、河川の汽水域にも入る。幅広い環境に適応しているといえるかもしれない。動物食性が強く、キビナゴを丸のみにすることもある。私は2個体見ているのだが、いずれも大月の内湾である。この地域では普通種といえるのかもしれない。ほか友人が宿毛でも釣っている。
イヌカサゴの涙骨隆起先端。棘が露出する
色は褐色が強いが決めてにならないだろう。また臀鰭鰭の縞模様も目立つがこれも同定ポイントにはならないと思われる。オニカサゴやヒュウガカサゴなどとは涙骨隆起の先端が皮下に埋没せず、露出することで見分けられる。オニカサゴなどでは皮下に埋没する。
●サツマカサゴ
サツマカサゴ
サツマカサゴ
サツマカサゴ胸鰭内側
サツマカサゴは伊豆以南の太平洋岸ではよく見られる魚である。高知県でも浅いところではよく見られ、浅いとこでオニカサゴ属を見た、といえばサツマカサゴとオニカサゴのどちらかであることが多いように思う。生きているときは灰色っぽい体が特徴だが死後は写真のように急に黒っぽくなってしまうことが多い。オニカサゴに似るが、背中が若干盛り上がっていることが多く、区別は容易であろう。
胸鰭の内側は色が鮮やかである。ニライカサゴにも似るが胸鰭の内側の模様により見分けることができる。宿毛でも大月でも普通種であり、それより北の愛南町でも採集される。
沖合底曳網漁業で漁獲されたサツマカサゴ
基本的には浅場に生息する種であるが、土佐湾では沖合底曳網により水深150mほどの海底からも漁獲されたことがある。写真がその個体である。
ヒュウガカサゴを飼育している60cm水槽
上記の4種のほかにニライカサゴという種も採集できたわけではないが確認している。この種は従来セムシカサゴと呼ばれていたものであったが、「せむし」というのが差別用語であるとされ、2004年に本村ほかにより、ニライカサゴと改称された。この中では今回紹介したイヌカサゴとヒュウガカサゴを日本から初報告し、これらの標準和名があたらしくつけられた。
●文献
本村浩之・吉野哲夫・高村直人,2004. 日本産フサカサゴ科オニカサゴ属魚類(Scorpaenidae: Scorpaeniformes)の分類学的再検討.魚類学雑誌,51(2):89-115.