以前ご紹介したソコダラ科・トウジン属の魚とはまた違う種類ですが、今年1月に我が家にやってきてながらく未同定だった個体。この個体を中坊・甲斐(2012)をもとに同定してみました。
●トウジン属の同定において最初にチェックするべきこと
難しいトウジン属の同定。これで最初にチェックするべきことは、まず体表を手で触ってみることです。トウジン属の魚の鱗には小棘があるのですが、その発達の具合は、手で触るとざらざらするだけで手が引っ掛からないものから、トゲトゲして引っ掛かるものまであります。本種の場合は、鱗には6列ほどの大きな棘があり、手触りはとげとげしていました。写真のうち、上は、上から見たもの、下は横から見た様子。下の写真が肌色に見えるのは、指に付着させて撮影しているためです。
●発光器の様子
次にトウジン属魚類のおなかを見てみましょう。腹部の肛門周辺に黒っぽい発光器があります。
本種の発光器は長く、肛門周辺から前方にのび、腹鰭基底付近にまで達しています。このほか、肛門の周辺にのみ発光器があるものもいます。とげとげした鱗をもつグループの中で、肛門の周辺にのみ発光器をもつのは、日本産ではオニヒゲ、ソロイヒゲなどの4種類です。トウジンや、ミヤコヒゲなどは、肛門周辺から腹鰭基底中間部にまで達する、比較的長い発光器をもちます。ツマリヒゲやキュウシュウヒゲなども長い発光器をもちますが、これらの種類では、鱗の棘が弱いです。
●種を絞り込む
頭部の背面・腹面です。いずれの場合もチェックするのは、まずは鱗の様子。背面の鱗を撮って観察してみました。監察結果は、少し下の方にあります。腹面では二つの形質をチェックします。まず、頭部下面の鱗の有無、ですが、この個体は鱗がなく、半透明。この特徴によりトウジンやキシュウヒゲなどと区別できます。オニヒゲも鱗がないですが、先ほど述べました発光器が肛門付近にのみあることで、肛門から前方に発光器が伸びるこの個体と区別することができます。
次に吻の形状。吻端はややとがります。しかしこの形状は、沖合底曳網漁業などで漁獲されたソコダラ科魚類では、損傷することもある形質です。今回の個体はうまく吻が残っていました。
さらに髭の様子。ソコダラ科の魚には、ほかの多くのタラ目魚類同様、ほとんどの種の下顎にひげがあります。本種の髭長は1.2cmでした。
頭部背面写真で剥げていたところにあった鱗です。この部分の鱗にも棘があり、この鱗は後方と側方に放射状に配列します。
以上の形質の組み合わせでこの不明種は、テングヒゲか、ネズミヒゲのどちらかということになりましたが、この2種は、単に棘の有無であるとかで同定できるものではなく、計算が必要になります。
まずひげの長さ、テングヒゲではひげの長さが眼径の4分の1~3分の1、ネズミヒゲでは3分の1以上となります。髭の長さは12mm、眼径は21mmでした。3分の1以上の長さ、ということで、ネズミヒゲである可能性が高くなりました。また吻の口前長を計測しても、この個体はネズミヒゲであるということがいえると思われます。トウジンの仲間に限らず、ソコダラの仲間の同定は難しいのですが、きちんと同定できれば、うれしいし、楽しいものです。