昨日は節分でした。節分で魚といえば、ヒイラギの枝に「イワシ」の頭を刺した「ヒイラギイワシ」が知られている。もちろんこの「ヒイラギ」というのは植物のヒイラギであり、魚のヒイラギではない。
そういえばスズキ目ヒイラギ科の魚はこのぶろぐではあまり取り上げてこなかった。ヒイラギ、ヒメヒイラギ、オキヒイラギの3種は取り上げてきた。日本には13種もいるが、ヒイラギ属のヒイラギ、イトヒキヒイラギ属の2種をのぞき、多くの種が熱帯・亜熱帯海域に生息し、沖縄や鹿児島方面まで行かないとみることができない種も多いのだ。ちなみに私は自慢ではないが、この科の魚の多くの種を見ている。いまだに見たことがないのはヒシコバンヒイラギ、オオメコバンヒイラギ、ヤンバルウケグチヒイラギ、キビレヒイラギの4種だ。
もう6年近く前のことだが、2月にヒイラギを購入した時、パックの中に衝撃的な魚が入っていた。ヒイラギ科ウケグチヒイラギ属のホソウケグチヒイラギである。
ウケグチヒイラギ属の魚は口が特徴的。日本に生息する14種のヒイラギ科魚類のうち多くの種が口を前下方、もしくは前方に伸出させられるが、このウケグチヒイラギ属の2種のみ、口を前上方に突出させることができる。この特徴的な口がヒイラギの中でちょっと出ていたので、これはもしや...と思い持ち帰ってみたところ、まさしくホソウケグチヒイラギであった。
ちなみにこのヒイラギが山ほど入っていたパックには「メッキアジ(カイワリ)」と書かれている。メッキアジは普通ギンガメアジやカスミアジなど、ギンガメアジ属魚類の子を指すのだが、底曳網魚類でメッキアジといったら、カイワリのことである。もっともそれでもカイワリとヒイラギでは属どころか科さえ異なるのだが。写真ではわかりにくいが、一番右上の子がホソウケグチヒイラギである。
ウケグチヒイラギ属は南アフリカから中央太平洋までの海域に分布し7種が知られている。日本産は2種。もう1種、沖縄島や西太平洋域に生息するヤンバルウケグチヒイラギは頬の部分に鱗があることにより本種と区別することができる。体高も同定の形質に使えるかと思ったが、実際は成長段階で体高と体長の比率はかわるようだ。またヤンバルウケグチヒイラギの体側背部の横帯は10本ほどなのに対し、ホソウケグチヒイラギのそれはもっと多いようだ。
ホソウケグチヒイラギは2008年に鹿児島県産の標本をもとに日本初記録種として報告された。このほかに高知県からも記録があり、長崎県でも獲れた。鹿児島県では本種がそれなりに獲れるようで、大隅半島のほうではよく見られるらしい。今回の個体はフォルマリンで展鰭をしたので残念ながら食べることはできなかったが、鹿児島方面では食用にされることもあるようだ。